【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

動物の病気

2011-03-19 18:47:33 | Weblog

 鳥インフルエンザなどは、人は「一方的な被害者」と思えますが、そのことを考えていて「動物の間ではどうやって病気は伝染するのだろう?」という疑問が出てきました。インフルエンザの場合、人間のようにくしゃみをしてその飛沫を浴びて、ではなくて、腸にすんでいるウイルスが排泄されてその水を介して、というルートでしょうね。
 そういえば、野生動物には、人間で言うところの「性病」というのはあるんですかね?

【ただいま読書中】『ゴリラの季節 ──野生ゴリラとの600日』ジョージ・B・シャラー 著、 小原秀雄 訳、 早川書房、1966年

 1957年、ウィスコンシン大学の大学院学生として鳥の行動の研究をしていた著者は、ジョン・エムレン教授にゴリラの研究を勧められます。それが著者とゴリラの出会いであり、学術面ではゴリラと人類の出会いでもありました。
 著者はスポンサー探しを始めると同時に、先行研究を調べます。データはほとんどありませんでした。当時、ゴリラは人を見たら襲ってくる凶暴な猛獣であり、ハンターのでっかいトロフィーでしかなかったのです。著者は妻とともに2年間「ヤマゴリラ」(今だったら「マウンテンゴリラ」ですよね?)のフィールド調査をすることにします。場所は、ベルギー領コンゴ・ルアンダ・ウガンダの国境が接する火山地帯。
 著者はゴリラの群れに遭遇し、その美しさに打たれ、わくわくしながら観察を始めます。しかし、森は広くゴリラは少ないのです。どうやってゴリラを見つけるか、幸運に頼るのではなくて方法論が必要です。しかしそれを教えてくれる人はいません。著者はそれを自分で見つけなければならないのです。自分で経験を積むことで著者はゴリラの観察に熟達していきます。足跡を追うことで群れと同行し、個体を識別することでしばらく離れていても「やあ、久しぶり」と挨拶できるようになったのです。
 食性で意外だったのは、「ヤマゴリラ」が筍が好きなことです。便が軟らかくなるくらい食べまくり、竹林の中(竹の上)に巣を作ります。アフリカの竹林にゴリラ……予想外の取り合わせでした。それとゴリラが流れる水を嫌うこと。じゃぶじゃぶ渡らずに丸木橋や岩を渡っていくのだそうです。
 当時の世評と違って、ゴリラは穏やかで臆病な性格でした。人を傷つけるのは、人に攻撃されてそれに反撃した場合に限定されていることを著者は知ります。本書のデータを信じるなら、カバの方がよほど人にとっては危険(致命的)な動物なのです。
 いくつかの群れを観察することで、著者は一つの群れに複数の成熟した雄がいる場合にはそこに明確な序列があることを知ります。ただ、それはたとえば交尾の独占権ではありませんでした。狭い道を進む場合の順番とか快適な座り場所の権利とかでこの序列が機能し、結果として群れに平和を生んでいる、と著者は分析します。
 胸を叩くドラミングという示威行動も、実は一連の動作のクライマックスでしかない、ということも著者らは明らかにします。ただ、最後のドラミングの時にゴリラは近くにある何でも見境なく叩くので、傍にいると危険だそうです。
 著者の長期間の観察によって、ゴリラに対するイメージの多くが誤解であることがわかりました。そういった「新しい知見」が得られたことも重要ですが、何より重要だったのは「野生のゴリラを長期間観察することで新しい科学的知見を得ることができること」を著者が身をもって世界に示したことでしょう。「できる」ことがわかれば、あとはその道をたどって多くの人がその世界に到達することができるのですから。
 なお、本書に登場するのはゴリラだけではありません。アフリカの大自然、アフリカの人たちの生活、野生動物と家畜と人間(密猟者、放牧者、農耕者)のせめぎ合い、よそからやって来る白人の行動、そして政情の不安定さ(コンゴのベルギーからの独立運動、各部族の対立など)、さまざまなものが(現代の読者の目には)まるでタイムカプセルのように詰め込まれています。私は本書を読んでいて、なぜかものすごく懐かしい気持ちになってきました。