【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

講義オンデマンド

2011-03-27 18:56:58 | Weblog

 「セス・プリーバッチ 「世界を覆うゲームレイヤを作る」」(TED)で、「大学はゲームとして扱える」という話題が登場します。たしかに単位制を徹底すれば「私はレベル3」「私はもう中ボスを倒したもんね」なんてこともできるわけ。さらに単位制を徹底するためには、講義もばらしてしまって、必要な人は必要なときにその講義を受けることができるようにすると良いでしょう。つまり、ビデオオンデマンドではなくて講義オンデマンド。できたら「個人でビデオ」ではなくて「グループで生講義」にしたいから、週単位くらいでの予約講義にしましょうか。ただ、「生」でなければならない講義はそれほど多くはないと私は予想します。教師は重要な講義に集中できるし、学生・教師双方にメリットが多いかもしれません。

【ただいま読書中】『パリは燃えているか(下)』ドミニク・ラピエール、ラリー・コリンズ 著、 志摩隆 訳、 早川書房、1966年、420円

 上巻の感想で、まるで分子レベルのジグソーパズルが組み立てられていってそこにひとつの模様が出現する、という感想を書きましたが、すべての“原子”や“分子”がミクロで同等、ではありません。やはり決定的なときに決定的な行動をする人、というものが存在します。個人が歴史を決定することがあるのです。パリから“それ”をしようと次々人びとがアメリカ軍を目指します。ただ、アメリカ軍に近づくだけではダメです。その指揮系統の大元に影響力を行使しなければならないのです。そういった人々の中に、フランス人の政治家、フランス人のレジスタンス、スエーデン総領事(ただし偽物)、さらには英国情報部員やドイツ軍人(ただしスパイ)まで混じっていました。その中で、一番決定的な働きをしたのは、とても意外な人物でした。
 ともかくアメリカ軍の方針は変更されます。「パリへ!」。しかし、一路パリを目指しているのは、解放軍だけではありませんでした。ドイツの援軍、第26戦車師団の精鋭もまたパリを目指していたのです。
 第パリ司令官は、総統からの直接命令に抗するべくもなく、パリの重要建物の地下と橋に大量の爆薬を仕掛けさせます。命令どおりパリを「廃墟の原野」にするために。そして、蜂起したパリの人びとを飢餓が襲いつつありました。
 「パリ解放!」のニュースが世界中に流れます。誤報でした。軍に同行するアナウンサーが功を焦って「予定稿」として送った録音テープが、軍の検閲をすり抜けて放送局に届いてしまったのです。この誤報がまた“現実”に複雑な影響を与えます。ヒトラーは怒りくるい、パリの人びとは(ドイツ側も連合国側も)焦燥します。そして連合国軍はスピードアップします。スピード、それが最優先事項になったのです。
 パリ郊外で電話線は生きていました。パリ市内に電話したフランス軍の兵士は、別れて久しい懐かしい人の声を聞きます。あるいは「後生だから、大急ぎでやって来てくれ! もう弾薬がつきてしまった。このままではわれわれは全滅だ!」。
 フランス第2装甲師団は急ぎます。パリを救うためだけではなくて、アメリカ第4師団の後塵を拝するわけにはいかないのですから。そのために、戦線ではさまざまな無茶がまかり通ります。そしてついに、フランスの分遣隊(ジープと戦車数台)が間道をすり抜けてパリ市庁前に到達。「フランス人によるパリ解放」の印となります。パリは(ドイツ人と対独協力者以外は)歓喜に包まれます。しかしそこから「最後の戦い」が始まるのでした。
 ここに描かれるパリの“狂乱”は印象的です。戦車やハーフトラックに市民が群がってその進行を止めるのは序の口。すぐそばに武装したドイツ軍が立てこもっているのもお構いなしに軍隊と一緒に市民のパレード行進。機銃掃射の下でも、数年ぶりの再会で駆け寄る親子。この奇跡のような再会がパリの各所で行なわれたのです。そして、残念ながら再会できなかった人たちも。さまざまドラマが人の数だけ展開されます。しかし、連合国軍がドイツ軍の拠点に近づくにつれ、歓声を銃声が圧倒し始めます。最後の戦闘。そしてヒトラーからも最後の指示「パリを破壊せよ」。
 喜びと悲しみ、再会と別れ、生と死、死と生、栄光と屈辱、屈辱と栄光、世界の終末と新しい時代の始まり……パリはカオスとなります。戦闘が行なわれている街路のすぐ傍で祝宴が開かれるのです。そして、屈辱のパレード、または、ガントレット(二列に並んだ兵士の間を通り抜ける間に、両側からこん棒や鞭で殴られ続ける刑罰)。
 パリに入ったドゴールは「国家」の再建を始めます。最大の障害物は、共産党。レジスタンス。つまり“同じフランス人”でした。ヒトラーが呟いたのとは別の意味で、パリは“燃え”ていたのです。
 名著です。文句なしにオススメ。