「<宇宙ゴミ>漁網で除去へ 町工場とJAXA協力」(yahooニュース(毎日新聞))
二つの意味で興味深いニュースです。一つは「宇宙をきれいにする」。これ自体とても素晴らしいことです。デブリは少しでも少ない方が良いですから。もう一つは「町工場」。大企業ではなくて町工場が最先端の場で頑張っている、と聞くだけでなんとなく嬉しくなっちゃうのは、なぜなんでしょう?
【ただいま読書中】『深海の超巨大イカを追え!』NHKスペシャル深海プロジェクト+坂元志歩 著、 光文社新書650、2013年、900円(税別)
本書は「23分間」のために10年間を捧げた人々の物語です。
どんな話にも“前日譚"があります。だけどどこかから始めなければなりません。本書は2002年の小笠原から始めようとしますが、実際にはその20年くらい前から話は動いていたのでした。
まず始まるのは、マッコウクジラ・イカ釣り漁船・カメラ、の三題噺です。国立科学博物館の窪寺とNHKが組み、深海に棲むダイオウイカを撮影するプロジェクトが開始されます。
ここで登場するのが「データロガー」。昨年1月27日に読書した『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ ──ハイテク海洋動物学への招待』(佐藤克文、光文社新書)で扱われていた、海洋動物に背負わせるカメラや測定器具です。本書ではマッコウクジラにカメラを背負わせて、ダイオウイカとの闘いを自分で撮影させよう、なんてプロジェクトも紹介されています。
スミソニアン博物館のクライド・ローバーは、世界に100万頭以上のマッコウクジラがいて毎日1~2匹のダイオウイカを食べていたら、その消費量を補うために深海には何百万ではきかない数のダイオウイカが生息しているはず、と推定します(ただしこの意見が論文になったときには、マッコウクジラの数は36万頭、それが毎月一匹のダイオウイカを食べたら年間430万匹のダイオウイカが消費される、となったそうです)。それだけの数がいるはずなのに、ダイオウイカが生きて泳いでいる姿の目撃例はありませんでした。それでもNHKのチームのところには、ダイオウイカを食った直後のマッコウクジラの写真(口からダイオウイカの足が1本だらりと垂れ下がっている)が寄せられ、海中カメラマンは顔にダイオウイカの吸盤の痕が残るマッコウクジラの撮影に成功します。一歩一歩ダイオウイカに人々は迫っていきます。
ダイオウイカを撮影するために、深海に縄を垂らしました。一番下に餌の(生の)スルメイカ、その少し上にデータロガーがセットされています。そして2004年、クルーはダイオウイカの写真撮影に成功します。これによって歯車が勢いよく回り始めます。「次は動画だ」と。深海撮影用のカメラを船から吊しての撮影が試行され、同時に、海洋研究開発機構の深海潜水艇を使っての撮影を望んでの提案書が海洋研究開発機構に繰り返し提出されます。さらに深海用ハイビジョンカメラの開発も。
西洋ではダイオウイカはとても“人気"があります。「生きたダイオウイカの写真撮影成功」のニュースはまず欧米で火がつきました。チームの根気のおかげか、こんどは生きたダイオウイカがテレビカメラの前で釣り上げられます。あと欲しい「絵」は、深海で泳いでいる姿。しかしNHKではなかなか企画が通りません。「ダイオウイカ? 何それ」といった雰囲気です。国内で無理なら、国際企画です。チームの人間はディスカバリーチャンネルに企画を売り込み、即決でOKをもらいます。しかし、ここから苦難の日々が続きます。それも何年も。さらに2011年の東北大震災。チームは小笠原に留まって自分たちの仕事を継続するように命じられます。しかし……
2012年の夏、取材チームは「最後の勝負」に出ます。これまでに得た経験すべて、集めることができるだけの機材、世界中の専門家たち、考えに考え抜いた戦略、それらのすべてを手を変え品を変え深海に潜むダイオウイカにぶつけるのです。
私は残念ながらこのドキュメンタリー番組は見逃しています。ただ評判は聞いていたので、本書である程度“補完"はできました。次はできたら「マッコウクジラ vs ダイオウイカ」の場面を撮って欲しいなあ。