【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

大リーグと日本プロ野球の違い

2014-01-23 07:13:15 | Weblog

 日本プロ野球(やアマチュア)で最も優秀な選手は大リーグを目指しますが、その逆はありませんね。なぜでしょう。報酬が違いすぎるから? だったらどうして球団の出せる金額がそんなに違うのでしょう。経営のやり方が違いすぎるから? ではどうしてそんなに経営のやり方が違うのでしょう?

【ただいま読書中】『トランペットの歴史』エドワード・タール 著、 中山富士雄 訳、 ショット・ミュージック、2012年、2000円(税別)

 最初の「トランペットの定義」から話はややこしいものです。たとえば「ホルン」との区別。過去には「丸っこいトランペット」なんてものもあるものですから。
 古代ローマの「トゥパ」は長さ120cmくらい管の直径は10~最大28mmくらいの1本のまっすぐな円錐管です。バロック期の自然トランペットは長さは倍くらいになって直線的に折りたたまれます。現代のトランペットは、全長はトゥパとほぼ同じですが折りたたまれていてヴァルヴがついています。
 トランペットの特徴はその響きの華やかさです。だからでしょう、旧約聖書でもトランペットは宗教的楽器として記載されています。ただし、トランペットは華やかなだけではなくて同時にひそやかでやさしい響きも持っています。
 19世紀まで使われていた自然トランペットは、唇の圧力だけで音階を吹き分けていました。下のオクターブでは出せる音は限られていますが、上に行くと出せる音がどんどん増えます。この辺はみごとに数学的。ヴァルヴの発明によって半音階の演奏が可能になったのは1815年ですから、それまでのバロック期のトランペット奏者は、自分が出せる音の知識とそれをいかに唇で微調整するかに現代の奏者よりも習熟している必要があったようです。
 古代のトランペットは各国に存在しますが、(ティンパニとともに)軍隊で信号伝達手段として愛用されたようです。古代エジプトにもその壁画がありますしサラセンの軍でも用いられ、十字軍にもその“伝統"は引き継がれました(戦場でトランペットは騎兵隊に、太鼓と笛は歩兵隊に属しました)。トランペット奏者の地位は低いものでしたが、やがて王の公的な行事には必須の存在となります(宮廷トランペット奏者の義務に、食事のときの音楽演奏や王が民衆の前に姿を現す際の演奏があります)。平時の馬上試合の時の演奏も重要な責務でしたが、それには馬上試合後の祝宴と舞踏での演奏も含まれています。イタリアなどの交易都市では、最初は塔の上での見張り番としてトランペット奏者を雇っていましたが、やがて様々な場面で彼らを使うようになります。(16世紀のバーゼルでは「塔のトランペット奏者」は、火災や外敵の見張りと同時に、定期的に小さな鐘を鳴らして日本の時鐘のような役割を果たしていたようです)
 古代の金属トランペットは、ほとんどは青銅製(古代イスラエルとエジプトは銀製、サラセンは薄板を打ち出して製作)でした。ヨーロッパはサラセンからトランペットの名前や製造法を手に入れたようです(それを否定する研究家もいます)。1400年ころには管を折り曲げる新しい技術が開発され、トランペットの全長を縮めることが可能になります。マウスピースも1400~1600年にどんどん進化しました。
 15世紀の絵画には「スライド・トランペット」が登場します。トロンボーンの御先祖様です(しばらくあとにU字型のダブルスライド管が発明されてから、ですが)。史料によっては「トロンペット」と書いてあるものもあるそうです。トランペットの音色でグリッサンドができるというのは、一体どんな音楽だったんでしょうねえ。
 14世紀にはトランペットは低音を中心に演奏していました。しかしトロンボーンが低音楽器としてそちらを担当するようになり、トランペットは高音を担当するようになります。ただ自然トランペットで高音を吹き続けるのはけっこうな負担でした。奏者は各音域を分担して「トランペット合奏団」として演奏します。さらに高音域の連続演奏は、新しい演奏法を必要としました。それまでの「頬を膨らませる」スタイルが否定されたのです。
 ルネサンス期にはもう一つ重要な変化があります。それまでの音楽は基本的に即興演奏でしたが、この時代頃から「楽譜」が使われるようになったのです(それは同時に「楽譜が読める演奏者」を要求することになります)。また、宮廷オーケストラとの共演の機会が増え、繊細に吹くことも求められるようになります。
 様々な作曲家がトランペットをいかに生かしたか(あるいは無視したか)についても本書ではけっこう詳しく語られます。ベートーヴェンのころからは、トランペットに「半音階」が要求されるようになります。そのため1815年にヴァルヴが発明され、半音階が多用される「近代的な演奏」が始まります(技術の進歩は逆に作曲技法にも影響を与えます)。
 トランペッターで私がすぐに思うのはサッチモですが、彼の頬を膨らませる演奏スタイルは実は古式ゆかしいものだったんですね。どんなスタイルでも、魅力的な音楽がそこに紡がれるのならOKなんですが。こんどトランペットを聞くときには、その華やかさだけではなくて、繊細さも味わえたら、と思います。