鏡の中の世界は、私から見たら左右が逆になっています。では鏡の中の「自分」にとって、やっぱり「右手」は「右手」なんでしょうか。そして、鏡の中の自分が見つめるこの世界の「左右」は、やっぱり「逆」になっているんですよね。
【ただいま読書中】『右?左?のふしぎ』ヘンリ・ブルンナー 著、 柳井浩 訳、 丸善出版、2013年、2800円(税別)
アルファベットの「A」は、「原像」とそれを鏡に映した「鏡像」とは一致します。しかし「F」は原像と鏡像が一致しません。これを「手のひら対称性(キラリティ)」と呼びます。手のひら対称性はカタツムリの殻のような立体でも言えます。右巻きの殻と左巻きの殻は手のひら対称性を持っています。
ところがここで驚愕の事実が。カタツムリや巻き貝は基本的に「右巻き」なのです。エスカルゴの工場で著者が調査した結果、右巻き:左巻きの比は「20,000 : 1」でした。実に99.995%が右巻きです。(もちろん“例外"はあります。オニツノガイは左巻きが多数派、キューバのサラサマイマイは半々だそうです)
朝顔のツル、豚の尻尾、サボテン、樹木のねじれ、花びら、風車の羽根……様々な「手のひら対称」がきれいな写真とともに紹介されます。最後には一角獣の角まで登場するのはご愛敬。
ここで話はミクロの領域に。アミノ酸には立体構造があり、そこにはやはり鏡に映したような「手のひら対称性」があります。ところがアミノ酸の場合、存在するのは「左旋性」が圧倒的なのです。これが炭水化物になるとこんどは「右旋性」が圧倒的に優位となります。
1815年フランスのビオは「砂糖の水溶液が偏光を回転させる」ことを発見、それを使って1848年にパスツールは酒石酸に「右旋性」と「左旋性」があることを発見します。工業的に得られた酒石酸は右旋性と左旋性が半々ですが、天然の酒石酸は左旋性だけだったのです。私がすごいと思ったのは、パスツールが文字通り「ルーペとピンセット」でこの結果を導き出したことです。
地球上の生物は、栄養として「左旋性」「右旋性」のどちらかを利用して生きています。薬も(サリドマイドが有名ですが)どちらかは有用、片方は有害、ということがあります。どうしてそんなことになっているのかは、まだわかっていませんが。
しばらくミクロの世界に遊んだ後、話はまたカタツムリの殻に戻ります。そして、仏陀の髪の毛、人の腕組み、ネクタイの縞模様……さまざまな「右と左」の話が次々と。「この世は右と左でできている」という“視点"から見た世界の面白さが味わえました。しばらく私もそういった見方をしてしまいそうです。まずは腕組みから。これは右巻き?左巻き?