【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

作品批評

2014-01-17 06:50:56 | Weblog

 「この作品は面白い!」という意味のことが上等な文章で書かれている批評は「良い文章を読む喜び」が感じられるからそれ自体が読むに値しますが、つまらない文章で書かれていたらそんな批評を読んでいる暇に当の作品を読んで自分で判断する方がマシだと思います。もちろん「上等の文章」で書かれた肯定的な批評を読んだら、やはり当該作品も読みに行きたくなります。
 ところで「この作品は面白くない!」という内容の批評は、その文章の上手下手は別として、誰に読ませてどんな行動を起こさせたいのでしょう?

【ただいま読書中】『時の地図(下)』フェリクス・J・パルマ 著、 宮崎真紀 訳、 早川書房、2010年、800円(税別)

 「2000年の地球」で、人類側の指導者はデレク・シャクルトン将軍でした。そして、デレクは、19世紀の少女クレアと愛し合う仲になります。タイムパラドックスは一体どうなるんだ?なんてことを言ってはいけません。第一部に登場した人がちらちらとこちらでも登場しては小さな芝居をしてさっさと消えていきます。著者は明らかに楽しんでいます。そして「時を超えた文通」が始まり、そこに登場するのが、またもやH・G・ウェルズです。
 第二部の舞台は第一部と同じ19世紀のロンドンです。場所も時間も重なり合っています。そこで、第一部と微妙に絡み合ったストーリーが違う視点で展開するのは、なかなかスリリングです。どこかで偶然の出会いがあるのではないか、なんて期待もしてしまいますが、その期待は裏切られません。
 第一部と同様、ウェルズは「想像力」で人を救わなければならなくなり、生まれて初めての恋文を書く羽目に陥ります。そしてその返事が、まるで出来の悪いソフトポルノのような恋文です。出来の悪いのは当然で、素人の女性が書いたものだからなのですが。しかし、「階級」だけではなくて「時間」でも隔てられた恋人たち、という設定は秀逸です。離れているからこそ愛が深まる、という過程にも説得力があります。「水仙の押し花」も絶妙の“アクセント"となっていて、いやあ、なんとも素敵なラブストーリーです。あちこちひねくれてはいますけれどね。
 そうそう、本題とは無関係ですが、本書にはウェルズが「タイムマシンの実物大模型」にまたがって楽しむシーンがあります。ここを読んでいて私が想起したのが、(アメリカのテレビ番組)「ビッグ・バン・セオリー」のどこかのエピソードで、主要登場人物のオタクたちが「タイムマシンの実物大模型」に乗り組んで大喜びするシーンでした。そんなものが目の前に置いてあったら、私も楽しんでしまいそうです。
 第三部は、惨殺された浮浪者の死体で始まります。胸に直径30cmくらいの穴が貫通していてその周囲が焼け焦げています。まるで「熱線」が通過したかのように。検視官は「こんな事ができる武器は“現代"には存在しない」と断言しますが、「2000年ツアー」に参加したことがあるギャレット警部補は「2000年のシャクルトン将軍がそんな武器を使っていた。つまり彼が犯人だ」と断定します。ギャレットは(やはり2000年ツアーに参加したことがある)ルーシー(第二部の主人公クレアの友人)に恋し、シャクルトン将軍の逮捕状を懐に、マリー旅行社に向かいます。
 サスペンスなのか冒険小説なのかラブストーリーなのかお笑いなのか、私は混乱させられてしまいます。ところがここでまたまたH・G・ウェルズが登場し、「殺人犯人捜し」を引き受けてしまいます。おやおや、推理小説だったんですか。犯人は殺人を繰り返し、現場に(19世紀末には)まだ未発表の小説の一節を書き残します。その一つはウェルズの「透明人間」でした。犯人に“招集"された作家は、ウェルズの他は、ヘンリー・ジェイムズとブラム・ストーカー。そして“招集した人"は……いやあ、とんでもない人です。ここで推理小説は○○小説(ネタバレ防止のためジャンル名は秘します)に変貌してしまいます。第一部で私が感じた違和感が、ここでちゃんと伏線として生きています。著者は一体いくつの仕掛けを本書に施しているのでしょう? もちろん「本書の語り手」もまた「伏線」の一つです。いやもう、最後は“お腹いっぱい"になってしまいました。
 さて、次に読むべきは『宙の地図』(フェリクス・J・パルマ)か、あるいはH・G・ウェルズから何か一つ、かな。図書館にあれば良いのですが。