【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

無料のソフト

2014-01-19 08:05:07 | Weblog

 無料のソフトといえば、今は「アプリ」でしょうが、私は「PDS」や「フリーソフト」のことを思い出します。私がNiftyServeの活動を開始した頃にはまだ「フリーソフト」ではなくて「PDS(PublicDomainSoftware)」と言っていたはず。アメリカではそれでOKだったのですが、日本の法律では著作権を完全に放棄することができないので、そのうちにこのことばは使われなくなった、と私は記憶しています。通信ソフトやテキストエディター、ゲームなど、当時は大変お世話になりました。“恩返し"が全然できていないのが、残念ですが、そのうち別の形ででも返していけたらいいな。

【ただいま読書中】『インヴィジブル・ウェポン ──電信と情報の世界史1851-1945』D・R・ヘッドリク 著、 横井勝彦・渡辺昭一 訳、 日本経済評論社、2013年、6500円(税別)

 昨年12月1日に『情報覇権と帝国日本(1)海底ケーブルと通信社の誕生』を読書したばかりですが、関連したテーマの本をまた読んでみました。しかし、この手の本はどうしてこんなに高いのでしょう。
 19世紀、西欧列強は国内に政府が管轄する通信線を整備します。当然“便利"のために各国の線を繋ぎたくなりますが、そのためには「国際協定」が必要でした。そして国際協定を国際紛争が追いかけることになります。19世紀半ばには水中電信が可能となり、まずドーバー海峡や地中海に電信ケーブルが敷設されます。この時代、海中に大金を(文字通り)投じる事ができたのは英国だけでした。各国が国内の通信ネットワークを整備するのがやっとだったのに対して、海底ケーブルで“大英帝国"を繋ぐことで世界に対する優位を英国は築き上げます。1887年に英国は世界の海底ケーブルの70%を所有していたのです。英国は「情報の支配」によって、政治的・軍事的にも世界で優位を確保しようとします。それが如実に表れたのが、米西戦争・ファショダ事件(アフリカでの英仏の対立)・ボーア戦争でした。「他国に支配された通信網に頼ることは、自国の不利益になる」と各国は学び、自前の通信網をせっせと整備することになったのです。地上と海底ケーブルが最盛期を迎えます。
 そこにマルコーニの無線が登場します。これは遠距離通信ができるというだけではなくて、無線ゆえに「国境」を無視できるという特徴を持っていました。また、海上でも通信可能という点で海軍にも大きな影響を与えます。
 第一次世界大戦では、「情報」もまた武器となりました。検閲・プロパガンダ・機密・諜報です。同時に、開戦早々、敵側の海底ケーブルの切断や無線所の破壊もおこなわれました。ただし、著者は「破壊能力」ではなくて「切断されたケーブルや破壊された無線局を修復する能力」が“武器"だと述べます。ドイツ側のケーブルは一度切断されたらそれっきりでしたが、連合国側のものはすぐに修復されていたのです。それは当然戦局に大きな影響を与えることになりました。各国は、戦いながら情報戦のやり方を学びます。現在から見たら「何をやってるんだ」と言いたくなるようなこともたくさんありますが、それは「これまでなかった戦い」を強いられていた人々には、ある程度仕方の無いことだったでしょう。
 第一次世界大戦で通信分野での“ライバル"のドイツを退けたイギリスは、こんどはアメリカの挑戦を受けることになります。それにしても、1920年の「公職機密法」では「イギリス政府の管理下にある通信線を通ったすべての通信文はその内容をイギリス政府に引き渡すこと」と定められているというのは、なかなか露骨にすごい法律ですな。アメリカがそれに抗議すると「通信文は預かるが、中は見ずに返却している」と返事しているのはイギリス流のユーモアなのでしょうか。アメリカが本気で“自前の通信線"を設置したくなるわけです。そして、第二次世界大戦前には、技術の大躍進と激しい商業戦争が繰り広げられ、長距離電信の需要が高まり、世界中に無線通信局が建設されることになります。イギリスは衰退し、アメリカが世界のケーブル網を牛耳ることになります。
 第一次世界大戦が塹壕線だとしたら、第二次世界大戦は機動戦であると表現できます。当然新しい通信技術が必要となりました。それを現実としたのが、無線、特に短波無線(トランシーバー)です。これによって戦術は変革されました。もう一つ発達したのが、暗号(とそれに対する諜報)です。戦場に暗号が普及することは、諸刃の剣でした。暗号機器を持ち歩くことで敵に対して秘匿した行動を素早く取ったり離れた味方と協力し合うことが可能になりますが、敵に暗号機器を奪取される機会も増えるわけですから。その好例が、ドイツのエニグマです。イギリスは捕獲した潜水艦や飛行機から得た機器からエニグマの暗号を解読したのです。そして「暗号を解読したこと」を「秘匿する」ことも「武器」としました。
 第二次世界大戦でイギリスが戦勝国になったのには「情報」を制したことが大きかったのですが、その代償もまた大きなものでした。「情報の世界のリーダーシップ」をアメリカに譲渡せざるを得なかったのです。それはつまり、大英帝国の終焉でもありました。
 本書は1945年で終わります。しかし、情報の世界での「検閲」「プロパガンダ」「機密」「諜報」の重要性は21世紀になっても変わりません。インターネット時代となってその重要性はもっと増しているのかもしれません。