【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

地方の声

2016-03-23 06:54:34 | Weblog

 過疎地の議員定数削減に反対する人が「地方の声が国会に届かなくなる」という理由を挙げています。
 ……現在は「地方の声」が国会に届いている、と?

【ただいま読書中】『樺太(サハリン)が宝の島と呼ばれていたころ ──海を渡った出稼ぎ日本人』野添憲治 著、 社会評論社、2015年、2100円(税別)

 戦前の樺太の主要産業は、林業・水産業、のちに石炭・石油・天然ガスなどが加わりました。そこには出稼ぎの人が多く働いていました。本書はそういった人たちからの聞き書き集です。
 冬の寒さは厳しくて、魚は外に置いておけば自然に冷凍魚になるので、鋸で解体します。魚はわかりますが、お酒も凍るので、酒屋では「重さ」で売っていたそうです。で、それを砕いて丼に入れて暖かい室内に置けば溶けるからそこで飲む、というやり方です。出稼ぎ労働者は、内地よりは高給でしたが、酒・博打・女で使い果たす人が多かったそうです。
 意外だったのは、日本の敗戦で進駐してきたソ連兵が、それほど乱暴ではなかったことです。防備なんかなかったし、どうせ自分のものになるのだから壊してはまずい、という冷静な判断が働いたのかもしれません。
 漁業と言えばニシン漁、と私は思いますが、樺太でニシン漁は西海岸で、東海岸ではマス漁だったそうです。ニシンはあまりに大量に獲れるので、肥料にしていたそうです。
 本書では林業と漁業がメインで、炭鉱については登場しません。どこの炭鉱も当時の日本では似たようなものだったとも言えますが、戦争中には炭坑夫が徴兵されたために朝鮮人が強制的に送り込まれたために聞き書きができなかったのかもしれません。しかし、日本人が「お前たちは帝国臣民だ」と樺太に送り込んだのに、戦後は「お前たちは朝鮮人であって日本人ではない」とソ連にも日本にも「引き揚げ」を拒否されて残留しなければならなかった人がいる、とはなんとも悲しい話です。