【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

読んで字の如し〈草冠ー23〉「塔」

2016-03-29 06:52:13 | Weblog

「卵塔」……地震厳禁!卵を積んだ塔
「斜塔」……厳密に垂直な塔はこの世にそれほど存在しないはず
「百万塔」……百万基の塔
「多重塔」……存在が重なり合っている塔
「司令塔」……司令をする塔
「金字塔」……金箔で「塔」と書かれた習字
「電波塔」……電波でできた塔
「五輪の塔」……オリンピック憲章が収められた塔
「バベルの塔」……背が高いバベルさんの住居
「橋塔」……橋の形の塔
「卒塔婆」……卒塔に住む婆
「象牙の塔」……レッドデータブックに怒られる塔

【ただいま読書中】『牛を飼う球団』喜瀬雅則 著、 小学館、2016年、1400円(税別)
 日本でアマチュア野球は衰退の過程にあります。1963年に237あった社会人野球チームが、93年には148、2003年には89。危機感を抱いた人たちは、プロ選手育成システムとして、四国に独立リーグを立ち上げました。中心となったのは、かつて西武ライオンズで活躍した石毛宏典。
 しかし、四国アイランドリーグの経営状態は、火の車でした。特に苦戦していた高知ファイティングドッグスの経営者公募に手を挙げたのが、不動産会社を成功させた青年実業家、北古味鈴太郎。ここから出会いが出会いを呼び、球団と人々の運命が急変します。
 球団は本拠地を、人口6000の越知町と佐川町に置きました。赤字の球団経営と過疎地対策をリンクさせるという“冒険”です。しかし北古味鈴太郎はしたたかでした。過疎地認定されている越知には補助金を引っ張ってきて試合もできる練習場を建設。小学校の体育で選手に特別授業をさせます。小学生の運動能力はぐんぐん伸びます。過疎地認定をされていない佐川には選手宿舎を借りてそこに住民票を移します。「若い者」が増えて町は喜びます。
 球団として、農業にも取り組みます。ホームタウンには耕作放棄地が満ちあふれていました。落ち葉が積もり農薬を撒かれないまま放置された元農地は、「土」として非常に良いコンディションです。球団は「話題づくり(地元メディアにニュースとして取り上げてもらう)」「自給自足」「雇用創出(住民だけではなくて、選手引退後のセカンドキャリアとしても)」「地方創生(地産地消の農産物の提供)」を考えているのです。
 野球を「ツーリズム」の対象として扱う手法も登場します。シンガポールの大富豪に「四国で面白いツアーを体験して、そのついでにナイター観戦も」という旅を売り込んでいるのです。これには四国四県の球団(とそのスポンサーたち)が協力しているそうです。「グローバリズム」もここにはあります。2014年の開幕直前、高知ファイティングドッグスの登録選手25人練習生8人のうち、外国人が10人もいるのです。日本のへき地に「ボーダーレス化した野球界」が存在しています。
 本書の“物語”が「ハッピー・エンド」になるかどうかはわかりません。現在進行形の物語ですから。ただ、「地方創生」などと口走る官僚は、本書の爪の垢でも煎じて飲んだらどうかな、なんてことは思います。本書に満ちている「現実を出発点とする」「即断即決」「大きなビジョン」「実行力」「住民を巻き込んでいく」といった要素が現在の日本の行政には欠けているから、“爪の垢”くらいでは不足しているかもしれませんが。