【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

みかじめ料

2019-11-09 06:58:17 | Weblog

 自分の金で(あるいは自分が借金して)土地を買いそこに自分の金で(あるいは自分が借金して)家を建てたのに、それを所有し続けるためには国に税金を払う必要があります。律令制度のように、国から土地を借りたのだったら、その使用料を払う、ということで意味が分かるのですが「私有財産」ですよ。不思議です。
 これが「私有の権利」が盗賊などに脅かされていて、国ががっちり保護してくれている、というのだったら、みかじめ料として納めている、という理解もできますが、そんな脅威が日本にありましたっけ? それどころが、何かあったら国は強制収用をします。つまり、この場合は国が「脅威」。
 日本に本当の意味で「私有地」って、あるの?

【ただいま読書中】『錆びた太陽』恩田陸 著、 朝日新聞出版、2017年、1700円(税別)

 21世紀半ば、原子力発電所に対するテロで「最後の事故」と呼ばれる大事故が起き、日本全土の2割が立ち入り禁止区域となってしまった未来。その、北関東の立入制限エリアで、除染やパトロールに従事するロボットたち「ウルトラ・エイト」のところに「国税庁から来ました」と言う財護徳子と名乗る若い女性が突然やって来ます。ロボットは「三原則」によって人間に従わなければなりませんから彼女が言う「マルピー(人間がゾンビ化したもの)の調査」に付き合うことにします。
 しかし、なぜ国税庁? なぜマルピーの調査? いや、ゾンビから税金は取れないでしょう。と思ったら、財護さんは驚愕の主張を。わはははは。ロボット搭載のAIは「もはや、ニッポンはダメかもしれない」と頭を抱えていますが。
 財護さんがやって来たのと歩調を合わせるように、これまでロボットたちから姿を隠していたゾンビが、なぜかコミュニケーションを取ろうとします。なぜ?
 謎は、ゾンビだけではありません。「ウルトラ・エイト」という部隊なのに、メンバーは7名です。しかし、基地の装備は8人(8体?)分。では、「不在の一人(一体?)」は、どこに? しかも、そのメンバーが行方不明になった同じ日に、茨城では一家惨殺事件が起きています。その事件との関連は?
 そして、ゾンビから「日本政府が企んでいるとんでもない計画」の情報が。AIでさえ青ざめてしまいます。というか、あまりのショックでAIに感情が芽生えてしまったのかな?
 深刻な状況(広く核汚染された日本、ゾンビや怪物的な動物の発生)の中を、マイペースで動く人間に振り回されておたおたするロボットたちの行動を、ひたすらコミカルな口調で著者は物語を駆動します。この「深刻さ」と「コミカル」のギャップについつい目を奪われてしまいますが、このSF的な物語の舞台は、実は「現代の日本」を奇怪的にデフォルメしたもので、つまりは「今の物語」でもあるのです。というか、真っ当なSFを(SFもあるいは漫画も)読んで育った人が真っ当に小説家になって生み出した作品、という印象です(作品に散りばめられている「アルジャーノン」「ワイルドセブン」「サンダーバード」「三原則」といった言葉とその使い方から得た印象です)。
 面白くて楽しくて恐い作品です。この作者の作品はこれまであまり読んだ覚えがないのですが、ちょっと他の作品も読みたくなりました。