まともな国にするためには、医療と教育に力を注がなければならない、という政策を世界で早くからやったのは、私が知る限りでは古代ローマのユリウス・カエサルです。口で威勢の良いことは言っていませんが、彼がおこなった「奴隷制度の改革」は明らかに医療と教育をターゲットにしていました。それによって帝国の質を上げようとした、がそこから私には読み取れます。
では現在の日本の政治家は? どうも古代ローマよりも遅れた頭の人がやたらと多いような印象です。もしも知性があるのなら、ユリウス・カエサルからこっちの2000年分お利口になっていなければいけないのにねえ。
【ただいま読書中】『指導者が倒れたとき』ジェロルド・M・ポスト、ロバート・S・ロビンズ 著、 佐藤佐智子 訳、 法政大学出版局、1996年、2987円(税別)
これまでの政治指導者の研究で、側近との関係や指導者自身の能力低下の影響についてはあまり真面目に取り上げられてはこなかったそうです。しかし認知症などで判断力が低下した指導者が側近の言いなりになってしまった場合には、何が起きるでしょう? ただ、ほとんどの政治アナリストは医学に無知です。だからその要素を考慮に入れる能力がありません。そこで「精神医学・政治心理学・国際問題の専門家」と「職務能力を失った指導者に関心を持ち続けた政治学者」が手を組んで本書が生まれました。
イラン国王、アメリカ大統領、フランス大統領……いやもうこれでもか、というくらい「指導者の病気」が登場します。同時に「指導者の側近」「指導者の主治医」についても様々な問題があることが具体的に紹介されます。
そういえば日本でも小渕首相が倒れたとき、救急車を呼んだら大騒ぎになる、という“配慮"によって自家用車が手配されて入院が遅れたと聞いた覚えが当時あります。たぶんその第一報を聞いた側近は「すぐ救急車を」とは言わずにまず関係各方面への根回しを優先して考えたのでしょうね。
本書はきちんとした公表データに基づいてまとめられていますが、だからこそ「本人」と「周囲」のとても適正とは思えない行動の異常ぶりが際立ちます。「権力は腐敗する」とはいいますが、「権力者が病気の時」に腐敗臭はさらに高まるのかもしれません。真面目な読み方だけではなくて、政治的なゴシップ集としても楽しめる本です。どう読むかは読者本位でどうぞ。