戦争取材・調査報道に立ちはだかる「コストの壁」
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ベネズエラ・カラカスで機動隊とデモ隊との衝突するなか、物陰に隠れるジャーナリストたち(2017年6月14日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / JUAN BARRETO
【8月31日 AFP】報道機関にとって戦争取材や調査報道にかかるコストが法外な額となっているとして、専門家らが警鐘を鳴らしている。
グーグル(Google)やフェイスブック(Facebook)といったインターネット関連大手が、従来メディアの記事を無料で使用する一方で広告収入を吸い上げてしまっている事態が、良質のジャーナリズムを板挟みにしてしまっているというのだ。
紛争地帯の取材はコストもリスクもいっそう増している──そう指摘するのは、欧州の重要な写真ジャーナリズム・フェスティバルの一つ、「ビザ・プール・リマージュ(Visa pour l’Image)」の代表、ジャンフランソワ・ルロワ(Jean-Francois Leroy)氏だ。同氏は、ベトナム戦争やユーゴスラビア紛争では「ジャーナリストは直接標的とはされなかった。だが、それは全く変わってしまった」と述べる。
国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団(RSF)」によると、今年に入ってからはこれまでに50人のジャーナリストが殺害されているという。武装組織や犯罪集団は、記者たちを殺害するだけではなく身代金目的で誘拐もする。
「イラクのような紛争地の取材は、ますます高くつくものになっている」とルロワ氏。「警備コストが急増している。取材するためには、仲介者、ボディガード、通訳者、運転手が必要だ」としながら、「数年前のニューヨーク・タイムズ(New York Times)の見積もりでは、バグダッドでの取材費は1日当たり1万ドル(約110万円)だった」と説明した。
米首都ワシントンD.C.を拠点とする国際調査報道ジャーナリスト連合(International Consortium of Investigative Journalists、ICIJ)のジェラード・ライル(Gerard Ryle)代表は、報道機関の採算モデルがそうしたネット大手によって打ち砕かれる中、調査報道もまた逼迫(ひっぱく)した状況に置かれていると指摘する。ICIJは、世界の企業や個人によるタックスヘイブン(租税回避地)取引に関する文書群である「パナマ文書(Panama Papers)や「パラダイス文書(Paradise Papers)」を暴露したジャーナリスト連合だ。
AFPの取材にライル氏は、「ジャーナリズムは死にかけている。取材を支えていた広告収入による収益モデルは、調査報道など意に介さない」と述べ、ジャーナリズムが生き残りをかけて闘っている現状に触れた。
そして、「事業は縮小され、最初にカットされるのはコストの高い調査報道だ。調査報道は多大な時間がかかる上、リスクも高い」としながら、「取材をしても、いつも記事にできるとは限らないし、記事にしたらしたで、真実を公にされたくない大企業と裁判で争うことになるなど、法的防衛でも非常に高くつく可能性がある」とも説明した。
現状では調査報道は大幅に減り、スキャンダルが見過ごされつつある。これは民主主義にとって大きな懸念だとライル氏は言う。「若いジャーナリストには、何でもいいからもっと記事を書けと大きなプレッシャーがかかっている。いわゆる、チャーナリズム(粗製乱造ジャーナリズム)だ。プレスリリースや声明にちょっとだけ手を加え、とにかく早く記事を書く。ファクトチェック(事実検証)をしたり、聞き込みや探りを入れる時間はない」
■民主主義的なニーズ
ライル氏によると、ICIJではパナマ文書の調査に200万ドル(約2億2000万円)を費やした。「その上に、プロジェクトに加わった80か国の記者300人への協力費が数百万ドルかかっている」
だが、そうした障害に直面しているにもかかわらす、調査報道は「世界の少数のジャーナリストたち」によって再生期を迎えているとライル氏は語る。「一部は、我々のような非営利団体の努力によるところでもある。また、トランプ(米大統領)とフェイクニュースの時代だということもあり、ジャーナリストたちは、価値のある不可欠な仕事をしていることを証明するために、いっそう燃えている」
「旧来のビジネスモデルに比べればいたって小さいが、確実に成長している。人々は、報道に民主主義的なニーズを見出し、出資をするようになっているのだ。ただし、以前の規模を埋め合わせるほどまでには至ってはなっていない」
(c)AFP/Frédéric POUCHOT、Fiachra GIBBONS