英国レディング大学のポール・ウィリアムズ教授の研究チームの調査によると、北大西洋と米国路線での深刻な乱気流の発生時間は、1979年の17.7時間から2020年には27.4時間へと54.8%増えている。
空路には「地雷」増え、海路には安全地帯なし(1)
空路、海路の目撃者たち(4)
「ファンファン(メーデーの前段階の非常信号)、タービュランス(乱気流)発生」
昨年8月、中国の河北省上空を飛んでいた韓国のA社の民間航空機が、管制塔に緊急非常信号を送ってきた。同機体は1万メートル上空で強い乱気流に遭遇して激しく揺れ、100メートルほど急降下した。一部の乗客は天井に頭をぶつけ、トレーや毛布などの物品が床に散乱した。昨年12月13日、ソウル金浦(キンポ)空港で取材に応じた経歴30年のベテラン、L機長は、「瞬間、あらゆる考えが頭をかすめた」と言って当時を振り返った。機体を早く正常軌道に乗せなければという本能の裏では、激しく揺れる機体の中で乗客が負傷する恐れと、豪雨を避けるための航路変更を承認しなかった中国の管制当局を恨む気持ちが交錯した。幸いにもすぐに高度を回復したため、軽微な負傷者が10人あまり発生しただけで済んだが、あの日の記憶はL機長にトラウマとして残った。
民間航空機で30年の経験持つ機長「近ごろ晴天乱気流増えた」
L機長にとって、中国北東部の上空は数え切れないほど飛んだ、慣れ親しんだ航路だった。「海に囲まれていて突然の豪雨など気象が急変する東南アジアや太平洋に比べれば、大陸性気候の影響で雨や気象の変化が少ない中国航路は無難なコース」とL機長は説明した。しかし、普段なら晴天が続く時期である8月初めであったにもかかわらず、あの日の河北省上空は台風を伴う強い豪雨に見舞われていた。昨年夏、朝鮮半島に猛暑をもたらした南の気団の勢力が異例にも中国北東部にまで押し寄せ、記録的な豪雨となったのだ。
「経験したことのない状況だったので、豪雨を避けるため中国の管制当局に航路変更を要請しました。中国の手続きが厳しいうえ、別の飛行機も同航路の行き来に問題がなかったという理由で、承認が下りなかったんです。旅客機に搭載されている最先端の気象観測レーダーとリアルタイム予報データでも予想できなかった乱気流に、なす術もありませんでした」
機長たちは通常、雲で気流の流れを把握する。「ゲリラ豪雨のような気まぐれな気象状況が発生する場所には、垂直に伸びる『積乱雲』が発生します。大気が温かいほど積乱雲は高く、大きくなり、積乱雲内部の渦も強くなります。運航中にこのような雲の塊が見えたら緊張するし、何はともあれ避けます」。しかし、近ごろの「晴天乱気流」は雲のない晴れた空に現れる。裸眼やレーダーでは把握できないため、なおさら危険だ。機長たちは、このような乱気流を「空路地雷」と呼ぶ。「文字通り晴天の霹靂(へきれき)です。気候変動のせいで空路にはより多くの、強い地雷が埋まっています」
晴天乱気流は、航空機が飛行時間を短縮するために「高速道路」として利用する「ジェット気流」の周辺で多く発生する。地球の気温が高まれば高まるほど水蒸気と上昇気流が増え、それに伴ってジェット気流の流れにもずれが生じるが、その過程で晴天乱気流も増える。英国レディング大学のポール・ウィリアムズ教授の研究チームの調査によると、北大西洋と米国路線での深刻な乱気流の発生時間は、1979年の17.7時間から2020年には27.4時間へと54.8%増えている。中強度の乱気流の発生時間も37%(70→96.1時間)増加。米国大気研究センターの研究チームは、1970~2014年に比べて2056~2100年には乱気流の発生頻度が約2倍(高炭素シナリオによる)になるとの見通しを示している。
空路の危険は年を追うごとにすべての季節へと拡大していっている。L機長は、昨年4月の豪雨による砂漠の中のドバイ空港の滑走路の浸水、昨年11月の韓国での秋の大雪による数百便の欠航を例にあげた。冬と春の渡り鳥の動線が不規則になっているのも、気候変動の影響だ。
「長年の飛行経験の蓄積がすべて役に立たなくなっています。だんだんとひどくなってきている空の異常気象を直に目撃すれば、先端技術と人間の知恵だけでそれを克服するというのは傲慢な考えだということが分かるでしょう」(2に続く)
空路には「地雷」増え、海路には安全地帯なし(2)
(1の続き)
経歴27年の商船の船長の体験「初めて出会った台風の目」
5万~7万トン級の国際商船を運航するピョン・サンス船長(46)は昨年夏(6~9月)、メキシコ湾で5回も過去最大級のハリケーンに遭遇した。さらには、乗っていた船がカテゴリー5のハリケーン「ベリル」の目に遭遇し、生死の岐路にも立たされた。気象観測史上最悪のハリケーンに襲われた怪物のような海を経験したピョン船長にとって、気候変動は「生存の脅威」だ。
先月11日に釜山港の国際旅客ターミナルで取材に応じたピョン船長は、船に乗って27年になるが「船舶が台風の目に出会ったのは初めて」だったと語った。船舶の運航過程では数多くの気象データを参考にするうえ、各地域の管制センターなどとコミュニケーションを取りつつ運航動線を決めるため、ハリケーンにまともに出会う可能性はきわめて低いというのだ。
「昨年6月末、原油を輸送するためにメキシコ湾のベラクルス港付近を航行していた時でした。北大西洋で発生した熱帯低気圧がメキシコ湾の方にやって来るというデータを目にしました。初夏は海水温度が低く、強いハリケーンに発達する可能性は低いため、経路を変える必要はないという管制官の意見などを反映して、計画通り運航しました。ところが、一晩で低気圧がカテゴリー5のハリケーンに発達し、カリブ海沿岸を廃墟(はいきょ)にしてしまったのです」
時速200キロで迫って来るハリケーンを時速30キロの船が避けるにはすでに遅かった。ハリケーンの影響圏に入ると、10メートルを超える高波が甲板を襲い、大型クレーンが倒れるほどの風速180キロの風が吹きつけた。20人あまりの船員は、甲板が曲がるほどの波と風で船が座礁するかもしれないという恐怖に襲われた。やがて30分ほど静まり返り(台風の目)、幸いその時点で大陸圏の気圧に出会ったハリケーンはカテゴリー2となり、最悪の状況は避けられた。台風の目を過ぎてからもハリケーンがカテゴリー5のままだったなら、沈没や原油流出などで甚大な被害が発生する可能性があった。
ピョン船長は、「急激な気候変動によって以前とはまったく異なる海を経験している」と話した。「ハリケーン『ベリル』も以前ならすぐ熱帯低気圧になっていたはずです。普通、6月末~7月初めは大西洋の水温が高くないので、カテゴリー4以上の強いハリケーンになる可能性は低いのですが、地球温暖化がスーパー暴風の発生時期を早めているのです。以前より海の予測が難しくなっており、備えるのが難しいから、被害は大きくならざるを得ません」
ベリルは記録上、初夏の6月末に発生した最も強いハリケーンとなった。米国海洋大気庁は、初夏の6月末の海水面の温度がすでに真夏後の9月の水準にまで上昇していたことで、熱帯低気圧に莫大なエネルギーが供給されたことが原因だと判断している。昨年のメキシコ湾には、初夏の気象の異変がもたらしたカテゴリー5のハリケーンに続き、フランシーヌ(カテゴリー2)、ヘリーン(カテゴリー4)、ミルトン(カテゴリー5)、ラファエル(カテゴリー3)などの強いハリケーンが押し寄せた。メキシコ湾一帯だけで350人の死者と1820億ドル(約268兆ウォン)の財産被害が発生した。
ピョン船長は、気候変動による船舶運航の困難が私たちの日常に及ぼす影響に懸念を表明した。ピョン船長は、昨年にハリケーン「ミルトン」がメキシコ湾を貫通した際、米国西部のテキサス産原油の価格が4%近く跳ね上がった例をあげた。
「台風の経路を避けて航路を数百キロ遠回りすると、その分だけ運航コストが増えます。船舶が数日間停泊していなければならない時は、船を運航する船主と物を預けた荷主が支払うコストがいずれも急増します。船長の立場としては、危険な航路を選択して運航コストを減らすべきか、毎瞬間なやみます。グローバル時代に海路が閉ざされると、その追加コストはそのまま私たち全員に降りかかってきます。気候変動に安全地帯はないと考えるべきです」
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