「多極体制」への意志示すロシアの侵攻、
試される米国の「一極体制」維持の力(1)
米、浮上する中国との対決のため
インド太平洋に集中する間に
ロシア、エネルギーを武器に挑発した戦争
ウクライナ戦争が100日以上続き、世界は米国に挑戦する二つの「権威主義」大国、中国とロシアが孤立するか、それとも彼らが中心となった一つのブロックが形成されるかに決着がつく試験台に立たされた。米国主導の「一極体制」を維持しようとする慣性と、中ロが一つになって「多極体制」に進もうとする遠心力との間で、激しい角逐が繰り広げられるわけだ。
米国にとってウクライナ戦争は、「浮上する中国」と対決するために対外政策の力をインド太平洋地域に集中した隙を狙ってロシアが仕掛けた戦争だ。米中が対峙する主戦場の台湾海峡ではなく、欧州の戦線だが、ウクライナ戦争は米国の覇権に基づく「自由主義国際秩序」を守ろうとする国の意志と力をあらかじめ試す舞台だ。
このような状況は、先月20~24日に行われたジョー・バイデン米大統領の韓日歴訪で明らかになった。米国はこの訪問で、インド太平洋戦略の各論と総論をそれぞれ進展させる動きをみせた。各論では韓日両国と軍事協力を強化し、総論では中国包囲のための米日豪印4カ国の協力枠組み「クアッド(Quad)」首脳会議と、インド太平洋経済枠組み(IPEF)の発足式を開いた。バイデン大統領のインド太平洋歴訪について、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安保担当)は先月18日の記者会見で、「大胆かつ確信に満ちた指導力を確固たるものにするため、この『決定的な時期』をチャンスにしようとしている」と述べた。
米国が掲げるインド太平洋戦略の主な内容は、米国の覇権が脅かされている現実を認め、同盟を糾合して中ロなど「修正主義勢力」を制圧することだ。同戦略が具体的な姿を現したのは、ドナルド・トランプ政権が2017年12月と2018年1月にそれぞれ発表した「国家安全保障戦略」(NSS)と「国家防衛戦略」(NDS)だった。これらの文書で米国は、中ロを「米国の挑戦者である修正主義勢力」と規定し、「自分たちの権威主義的モデルと合致する世界を形成し、他国の経済的・外交的および安保決定に対する拒否権を手に入れようとしているのがますます明確になっている」と指摘した。その解決策として、米国は「インド太平洋や欧州、中東、西半球で友好的な地域勢力のバランスを維持する」とし、「勢力圏」争いを繰り広げる意思を明らかにした。
2021年1月に発足したバイデン政権は、トランプ政権時代に乱れた東西双方の同盟の再糾合を進める一方、インド太平洋戦略の強化に乗り出した。バイデン大統領は就任1カ月後の2月19日、ミュンヘン安全保障会議に出席し、現在人類が民主主義と権威主義の「ターニングポイント」を迎えているとして、「ローマからリガ(ラトビア)まで、欧州連合(EU)のパートナーと共に働く」と明らかにした。来月の3月にはインド太平洋に目を向けてクアッドの初のオンライン首脳会議を開き、9月には米英豪の同盟体であるオーカス(AUKUS)を発足させた。経済では就任直後の2月から、半導体▽大容量バッテリー▽重要鉱物▽医薬品など4つの重要目に対するサプライチェーンを見直すなど、先端技術分野における中国排除を目指す「サプライチェーン再編」の動きを加速化した。
ウクライナ戦争が勃発すると、北欧の中立国だったスウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)加盟を申請し、戦後70年以上平和主義路線を守ってきたドイツも軍備強化を決議した。ロシアの「誤った判断」で米国と欧州の「大西洋同盟」がいっそう強化されたのだ。
インド太平洋地域でも似たような変化があった。米日は先月23日の首脳会談を通じて、日本の防衛費を国内総生産(GDP)の1%水準から2%台へと大幅に増やし、日本が直接相手の領土を打撃できる「敵基地攻撃能力」を確保する道を開いた。再軍備に乗り出した日本が、中国のミサイル基地などを攻撃する能力を備えたのだ。米国はさらに、韓米日三角軍事協力を通じて、核を持った北朝鮮と浮上する中国の牽制を試みている。
(2に続く)
「多極体制」への意志示すロシアの侵攻、
試される米国の「一極体制」維持の力(2)
西側諸国、前例のない制裁に乗り出したが
グローバル化で中ロへの経済依存高まる
インドや中南米など離脱、制裁網に亀裂
クアッドとIPEFに基づく米国の同盟結集は
中ロ+トルコやイランなどの「連帯」招く
反米地域ブロックを形成させる可能性も
ウクライナ戦争が終わってもサプライチェーンの再編で
世界経済の分節化は避けられない見通し
経済的にも米国は、世界の地政学秩序の3大軸であるロシアを完全に孤立させるために同盟を総動員し、前例のない制裁を主導した。しかし、米国の覇権の限界と亀裂も明らかになった。
開戦直後の3月2日、国連総会で採択されたロシア軍撤退決議案について、193の加盟国のうち賛成した国は141カ国、反対は5カ国、棄権は35カ国だった。棄権した国には中国やインド、南アフリカ共和国など主要国が多く含まれた。国連人権理事会でロシアを除名する4月7日の投票では、賛成93カ国、反対24カ国、棄権58カ国で、反ロシアのムードが緩和された。ブラジル、インドネシア、サウジアラビア、メキシコなどいわゆる「ミドルパワー」国家が次々と棄権し、「米国と距離を置く」姿勢をみせた。
これらの国が米国に協力しなかったのは、冷戦解体後に急速に進んだグローバル化により、中ロと経済的な相互依存度が高まったためだ。特にロシアは、エネルギー分野で独歩的な存在感を誇っている。そのため、中国、インド、トルコ、ブラジル、南アフリカ共和国などは戦争後もロシア産石油と肥料などを輸入し続け、対ロ制裁網に亀裂を入れている。
南米の親米国であるブラジルさえも、輸出農作物に欠かせないロシア産肥料を意識し、ロシアとの貿易を維持している。特にインドは、安値になったロシア石油の輸入量を3月の43万トンから5月には336万トンに増やし、大きな経済的利益を得ている。欧州連合(EU)も石炭と石油の禁輸に踏み切ったが、全体輸入量の40%を占めるロシアの天然ガスには手をつけられずにいる。
現在、国際社会の前に置かれた道は二つある。一つ目は、中ロを孤立させようとする西側諸国の試みが成功してロシアが弱体化し、中国の成長がくじかれる道だ。この場合、米国中心の自由主義国際秩序はしばらく維持されるだろう。
二つ目は、中ロが米国などの包囲を突破し、ブロックとして生き残る道だ。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は3月30日、中国安徽省屯溪で中国の王毅外相に会い、「我々は国際関係の歴史で重要な段階を通過している。私はこの結果によって国際情勢がより明確になると確信している。中国、そして我々と意を共にする国民と共に、より正義に基づき、民主的な『多極体制』へと移動する」と述べた。
この場合、中ロ連帯にトルコやイラン、インドなどが片足をかけるユーラシア連帯が形成される可能性がある。中ロなど大陸国家がイランなどユーラシア大陸の環形地帯に位置する国家と連帯するのは、地政学の創始者と呼ばれるハルフォード・マッキンダー(1861~1947)からズビグネフ・ブレジンスキー(1928~2017)元大統領補佐官(国家安保担当)に至る西欧戦略家たちが最も警戒してきたシナリオだ。
戦争が長期化し、経済ブロック化は深化したが、誰が勝者なのか曖昧になるシナリオもある。ウッドマッケンジーのピーター・マーティン調査局長は最近の報告書で、「新型コロナウイルス感染症がサプライチェーン短縮の必要性を浮き彫りにしたとすれば、ウクライナ戦争は信頼できる貿易相手を持つことが重要だとを気づかせた」として、「グローバル化は終わらないだろうが、世界の貿易は2つかそれ以上の明確なブロックに再組織される可能性がある」と見通した。コンテナエクスチェンジのクリスティアン・レロフス最高経営者(CEO)も「中国と欧州、中国と米国の間の巨大な東西貿易に対する依存度が確実に低くなるだろう」と予想した。
このような貿易と貿易ルートの変化は、ベトナムなど東南アジア諸国や中南米、アフリカ諸国にとってはチャンスになり得ると、二人の専門家は予測した。相互貿易が減った西側と中国が、他の地域の国々を相手に貿易と市場を確保しようとするためだ。ウクライナ戦争以後、トルコやインドなどユーラシア大陸の環形地帯国家や中南米やアフリカのミドルパワー国家が、米国と距離を置き、独自の行動を追求しているのはこのような背景からだ。
戦争は新型コロナパンデミックと重なり、サプライチェーンの再編と世界経済の分節化へとすでに突き進んでいる。戦争がいかなる形で終わっても、ロシアの原材料、中国の生産力と市場が、西側の経済と統合する度合いが低下するのは明らかであるからだ。その過程は、陣営間の安全保障・経済危機が繰り返されるという、以前よりも不確実で危険になった世界だ。
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