シルバーウィークは八ヶ岳に行く予定だったが、いろいろ事情があって中止になった。
そこで、本棚にある読んでいない小説を片っ端から読んでいくことにした。
まずは、湊かなえさんのデビュー作「告白」。
映画化もされ、ネットでもちょくちょく面白い小説だと評判になっていたので、二、三年前に買っていたものだ。
この小説は、その評価に賛否両論ある。
読んでみて、なるほど、その理由が分かった。どんどん物語に引きこまれているが、終わったあとの読了感が、非常に悪い。暗い気持ちになり、救いがない。
女教師が、受け持ちのクラスの生徒に娘を殺される。そして、教師が学校をやめる時、クラスの生徒達にそのことを告白する場面から、物語が始まる。
私達がどんどん物語に引きこまれていく原動力は、怒りだ。どうして罪のないかわいい子どもが殺されなくてはならなかったのか。
怒りと復讐心は、すごいパワーを生みだす。そういう気持ちを維持しながら、物語が進んでいく。
すると、途中で、視点がガラッと変わる。
加害者、少年AとBの視点、そのクラスメートの女の子の視点、加害者の母親の視点、などなど。
この複数の視点の設定がうまい。
本当の真実(客観的に起こったこと)がそれぞれの登場人物の主観によって、微妙にズラされる。
そうして、それほど加害者に共感はできない状態で、少しずつ真相に迫っていく。まるでゴシップの女性週刊誌のように。
読了感はともかくとして、読者を物語にどんどん引き込んでいく力はすごい。
道徳的な立派な小説は、みな書けるかもしれないが、読者を引き込む小説はなかなか書けない。
デビュー作でこれほどの作品が書けるのだから、著者の才能は推して知るべしである。