ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅        遠い道・・・・・22

2014-04-20 | 4章 遠い道・逃亡

 大分、待ったがネパール人は来ない。寒くなったから帰ろうとしているとケニア人のフランシスが近寄って来て手招きをする。
奴は本の間から大切そうに2枚の紙を出した。良く見ると旅行小切手だ。ぼくに買い取ってくれ、それが駄目なら現金化できるところを教えてくれと頼んできた。100ドル小切手の右上のサインを見るとアユミのサインがあった。この野郎はアユミが入院している間か隙を見て盗んだのだろう、とんでもない野郎だ。もう1枚は誰だか知らない。どうしたと追求しても本当の事を喋りはしない、駄目だ両替は無理だと断わった。漢字のサインは奴らには真似ができない。ブラック・マーケットに回せば幾らかお金になるかもしれないが盗難届けが出されていればただの紙切れだ。アユミはどうしてグリーンGHを選んだのだろうか、普通の流しの旅行者が入るホテルではない、とぼくは思っている。
 ホテルへの帰り道、通りの真中辺りで焚火をしている。前から歩いて来るのはチャーリーだ、奴はすらりと背が高くて直ぐに分かった。何気なく後ろを振り返ると数軒向うの生地店にすぅと入っていく二ナの姿を見た。彼女はぼくを追っていたのは明らかだ。ぼくと同時に彼女もチャーリーを見つけ生地店へ身を隠した。ぼくと一緒のところを見られたくなかったのだ。ぼくはチャーリーと焚火を囲んで少し立ち話をして別れた。二ナは通りでぼくを見つけ後ろからついて来ていた、この先にはぼくが泊まっているキーランとカイラス2軒のGHがあるだけだ。50mも行けば駅前の大通りへ出て先はデリー駅しかない、この時間ぼく達が立ち寄る場所はない。もしチャーリーと出会わなかったら二ナはぼくと一緒にホテルへ来てスタッフをやるつもりだったのか。以前にも二ナから誘いがあったが彼女と一緒にデリーに残る気持ちはぼくにはない。今、ぼくの頭の中にあるのは逃亡、それだけだ。



 
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・21

2014-03-28 | 4章 遠い道・逃亡

 売人、中卸、卸元の組織を逮捕してもドラッグ・ビジネスが美味しいビジネスである限りなくなる事はない。ピーターはまだ暫らくデリーを動かない、スイスからの送金を待っている、ぼくはそう思っている。スイスからの送金を裁判所へ納め彼女を保釈させる、それから2人で逃亡するつもりだろう。
 フィリップスが用意したパスポートは南米のババドリアだと言う、どんな国でどこにあるのかさえぼくは知らない。インドとネパールの有効なビザのスタンプもない、とても使えるパスポートではない、断わった。夕方ジュース屋で待っているのだが例のネパール人は現れない、今日で3日目だ。一度だけ100ルピーを奴に渡して毎日ジュース屋へ来るように言ってある、自分でお金を作ってカトマンズへ帰ったのかもしれない。まずいなぁ、今から別のネパール人を捜すのは難しい、だからと言って最初のネパール人に頼む事もできない。一人で国境を抜けるしかないのか、大変なことになりそうだ。他のアフリカンには頼みたくはない、逃亡の話しをしなければならない、逃亡の噂が広がってはまずい。同行するネパール人がいたとしても、どこでどう態度を変えるか分からない、100パーセント信用はできない。最後に頼れるのは自分しかない、その次がお金だ。お金はいざという時には役に立つ、特にインドやネパールでは。だが今そのお金がない、帰国までぎりぎりのお金しか残っていない。根性を入れていくしかない。何とかなる、何とかする。気持ちは分かるけど、気持ちだけで大丈夫なのかね。


室温21度 忍び寄る夏の気配 昨年のような猛暑だけは勘弁してよぅ
川の様子を見てきた まだ早い 5月になると湾から川への入り口の橋で夜釣りを見るようになる
菜園の一部でミミズを育てている 土壌の改良にも役立つ 数匹見つけた 
この夏はこれでうなぎを釣る そう上手くいくのかねぇ~
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・20

2014-03-26 | 4章 遠い道・逃亡

中卸はメインバザールの卸元ではあるが、単なる中継点でしかない。中卸が常時、持っているスタッフの量は50gから多くて100gくらいだろう。ぼくがフィリップスやフレッドに50g、100gを頼むと必ず数日間は待たされる、卸元へ引取りにいくのだろう。卸元はやはりインド人ではないか、ぼくはそう思っている。一度、デリー郊外のシーク教徒の豪邸に行って取引きをしたことがある。応接室に案内されるとテーブルの上にスケールが置かれ、ダンボール箱からスタッフがスプーンでビニール袋に入れられ計量された。ダンボールを見ると50gは何と微々たる量だろうかと思った。その後、数㎏入りのダンボールを何個も見せられ、ぼくは度肝を抜かれた。そんなぼくを見て彼らは笑って、欲しければ何㎏でも売ってやる、何時でも連絡してくれ、と言われた場景を思い出した。
 デリーはドラッグの巨大な集積地であり供給地でもある。それにジャンキー達は吸い寄せられる。必要なドラッグを入手するとジャンキー達は危険なデリーを離れる、そしてまた帰ってくる、ぼくもそうだった。ブリティッシュ系国だけインドではビザを必要としない。暑くなれば北へ行き、寒くなれば南下してくる。パスポートの記録は1回の入国スタンプだけだ。そして何年でも滞在が出来る。刑務所内にブリティッシュ系ジャンキーがいなかったのは、そのビザ優遇制度があったからではないだろうか。ぼく達にはそれがない。インドを中心にしてネパール、パキスタンやタイ等へ行き戻ってくる、その都度、出入国スタンプが押される。ぼくはカトマンズとデリーを往復していた、その事によってインド大使館からマークされ逮捕に繋がった。同じ様に逮捕されたのはフランス、ドイツ、イタリア、スペイン等だった。訪問国のスタンプを集める旅行者でもパック旅行をしていたわけではない、パスポートを増ページしたのはぼくのミスだ。残りページ数が少なくなったり、損傷や汚れが酷ければ在外大使館は再交付してくれる、そうすれば以前の記録は残らない。新しいパスポートで入国ビザを申請すれば初めての入国として記録される。


雨は昨日の午後から断続的に降り続いている たまらん
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・19

2014-03-24 | 4章 遠い道・逃亡

裁判所は末端の売人を立て続けにリリースした。それはデリー警察の方針だろう。売人を何人、刑務所へぶちこんでもドラッグの取締りの効果は現れない。リリースしたら売人は必ず動く、中枢を逮捕するにはそれしかない、売人は何時でも再逮捕できる。アフリカンの売人にとっては塀の内外は何の意味もない。それどころか中に入っていれば毎日のホテル代や食事の心配はいらない。塀の中でもビジネスはできる。塀の外に出たら生活費は必要だ、その分は何としても稼がなければならない。
 多くのプッシャーがリリースされたのを見てフレッドは隠れ家から出て来た。フィリップスもぼくの保釈によって50g単位の注文を連続で受け頻繁に中卸しに接触した。組織は活発に動き出した。組織に関する情報はある程度、密告者キシトーから得ていたデリー警察は網を絞っていた。釈放されたキシトーはナンシーと共にデリーから姿を消した。12月に中卸しが逮捕されるとスタッフはスムースに流通しない、アフリカン組織は過渡期に低迷していた。二ナ、フレッドや多くのジャンキーと売人達はシックに苦しんだ。もしぼくが12月4日、精神病院に入院していなかったとしても、スタッフ100gを持っていたぼくは難に巻き込まれることはなかっただろう。ぼくは入院していたので正確な実態は分からない、誰もぼくには話してくれない、がこの想像は間違いない。


不安定な天候が続き 寒の戻りもあったが今日は晴天 釣り日和となった
6時 釣り道具を自転車に積み夢を抱いていざ海へ さあどうだと穏やかな海へ一投
暫く待つが当たりがない 竿先を見続ける 何度も投げる ぴくりとも竿の反応がない
11時 釣ったら呑もうと持ってきた焼酎はやけ酒になってしまった 
釣りとはこんなもんさぁ~  あぁ~ 帰りの自転車は重いよぅ~
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・18

2014-02-18 | 4章 遠い道・逃亡

 1日また1日とぼくは何もしないで吸っている。このまま吸い続けることはできない、それは分かっている。お金はドルに換算すると2000㌦くらいしか残っていない、送金は不可能だ。このお金でネパールへ逃亡し日本まで帰らなければならない。
スタッフをやっていると最近、身の回りで起こった出来事が見えてくる。ぼくは入院する前、アルファーにスタッフ100gを預けた。彼がそのスタッフをアフリカンへ売り捌いている、とマリーが知らせてくれたのは、ぼくが退院する数日前だった。その頃からアフリカン・ドラッグ組織は行き詰まっていたのではないだろうか。
スタッフが不足していたマーケットにアルファーはぼくのスタッフ100gを流した。ぼくにとって不要であり危険でもあった薬物、だから売り捌いた奴を責めはしない。ぼくが退院した年末、ジュース屋に座っていたぼくは通りを埋めたインド人達の流れの中で一瞬だけ奴を見た。次に見たとき奴の姿はなかった。一度、ぼくが目線を切ったのは奴の出方が知りたかっただけだ。取り戻す考えはない、信用したぼくが悪い。
 二ナもフレッドもジャンキーだ。翌日のスタッフを手当てしないとは考えられない、彼らは手当てが出来なかった。ぼくが会ったフレッドの様子は、その日の朝からシックになったという症状ではない、数日前からシックは続いていた。二ナの助けを求める「フレッドからスタッフを貰って」という声を彼は聞いていた、だから奴は「シックなんだ俺も」と言った。



やれ やれぇ
久し振りに抜けを感じさせるような朝だった 鼻の奥がつんつんする自覚症状があってから約2週間
5日前からアルコールを断ちベジタリアンの食生活とヨガを中心にしたエクササイズを行う
鼻孔の洗浄はヨガでも行う スニッフは鼻の粘膜から有効成分を吸収するがその後の滓を洗浄する 同じだ
エクサの後アサナのポーズでミニメジを行っていたがそれをブレッシングに変えた
効果が表れたのだろう呼吸器系統が良くなった
数日間 新聞もPCも手が出せなかった 今日はちょっと良いかな・・・
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・17

2014-02-10 | 4章 遠い道・逃亡

 ドアを強く叩く音。
「トミー、トミー」
マリーの怒った声だ、声の調子でぼくには分かる。ドアを開けると部屋へ入りながら、いきなり彼女はまくし立てた。
「Why,Why,Why,Why, Why you did start again the staff」
彼女が来るのは分かっていた。怒るのも分かっていた。ぼくは立ったまま窓ガラス越しに外を見た。そうするしかマリーの視線からは逃れられない。
「何故なの、トミー。何故スタート・アゲインしたの」
あの1ヶ月間の辛く苦しかった入院生活は何だったの。耐え切ったトミーは何処へいったの。何の意味もなかったの。やっとスタッフを断つ事ができたのに。どうして、何故スタート・アゲインしてしまったの。マリーの怒りが悲しみに変っていく。怒ってくれ、怒り続けてぼくの部屋から出て行ってくれ、そうしたらぼくは少しだけでも救われる。彼女はぼくの言葉を待っている、ぼくは言い訳をする言葉を持たない。惨めな言い訳もしたくない。
「ごめんょ、マリー」
デリー最後の一週間だ、その間ぼくは吸う。デリーにいたらぼくはスタッフを止めることが出来ない。最後の10gだ、これが本当の最後だ。一週間後、ぼくはデリーを出て行く。
「トミー・・・」
マリーは何か言いかけたが部屋を出て行った。


1月末福岡地方の気温が19度まで上がった 3月下旬~4月上旬だという 布団や毛布それに枕も干した 2日後からだろう鼻の奥がつんつんする 夜中トイレで起きると鼻が詰まって眠れない 2月4日の天気予報で初めて花粉情報をだした 気温が上がった頃から花粉が飛散したと思われると気象予報士 もっと早く出せよ 目が痒い 花粉症だろう 干した寝具すべてに掃除機をかけた 最後にシーツやら枕カバーを取り替えた 昨夜は鼻の詰まりもちょっと軽くなり少し眠れた 昨日マスクを買いに行った 頭がぼっとしていて適当に買って帰った 使うと具合が良くない 眼鏡をかけて箱を見るとキッズサイズとある アホかぁ 封を開けたので返品はできない 午後自転車で買いに行った 花粉症か風邪なのか分からない クリニックの入り口に風邪の方はマスクをしてお入り下さいと張り紙がある 今日クリニックに行くつもりだったが朝から小雨だ 自転車では行けない 2月に入って毎日冬型が続いている 今週もそうらしい 体調は良くない精神的に苛立つ
  
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・16

2014-02-07 | 4章 遠い道・逃亡

ホテルへの帰り道、ばったりピーターとパラに会った。ピーターは11ラーク・ルピーを裁判所に払って保釈され直ぐネパールへ逃げたと病院へ面会に来たマリーからぼくは知らされていた。彼女の言葉には時々、嘘がある。ぼくにネパール行きを決心させようとしてそんな作り話をしたのかもしれない。
120gのスメック所持で逮捕されたぼくはインドの判例に照し合わせれば、ミニマムで10年の刑に相当すると大使館員から知らされた。デリー国際空港で20㎏の薬物所持で逮捕されたピーターの刑は終身刑を超える刑期年数になるのではないだろうか。インドの裁判の仕組みは、ぼく達には全く理解が出来ない。何が起こるか分からないインド、ぼくとピーターはその不可解なインドに逮捕され保釈された。
「ハーィ、ピーター、リリースおめでとう」
「有り難う、やっと出られたよ」
嬉しそうなピーターだが11ラークもの大金をどうやって作ったのか。ぼくも吸っているが彼も吸っている、早くスイス人の彼女を釈放するという大きな仕事はまだ終っていない。スタッフに酔った彼から彼女を助け出すという強い気持ちがぼくに伝わってこない。何故だろうか、スタッフが牙をむいたら何もかも狂ってしまう。ドイツに帰ってお金を作っても彼はインドには入られない。ネパールかパキスタンの国境の町で逃亡してくる彼女を待つのだろうか。後、刑務所に残っているのはアフリカンを別にするとアミーゴ、オマールとカヘルだ。生き続けることを祈る。ぼくは自分のことで精一杯だ。
 
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・15

2014-02-05 | 4章 遠い道・逃亡

 夜、フレッドからスタッフ5gを受取るとぼくは二ナとランジャンの部屋に寄った。ぼくが二ナと会ったのは2年以上前だ。その時にはランジャンはすでに逮捕され女1人、二ナは誰かと組まなければ生きていけなかったのだろう。ランジャンが釈放され彼女は元に戻った。フレッドは淋しそうだがしょうがない、隣同士というのはちょっとまずい気もするが。第4刑務所に面会に来た二ナはアフリカンを信用しないで、スリランカ人グループに入れとぼくにアドバイスをした。それはランジャンがいたからだろう。だが彼はグループを離れて単独行動をしていた。時には彼からスタッフを買う事もあったがそれ以上の繋がりはなかった。
彼は背が高い、ベッドの上に立って手を伸ばし扇風機の羽根から小さな紙包みを取る、開くと注射器だった。
「打つか」
「あぁそうだなぁ ちよっとアメリカンにしてくれ」
打ち過ぎるなと言っただろう、だから入院することになったのだ、と奴は笑っている。
「ゾンビ・ムスタファンは元気か?」
「おぅ、お前に会いたいと言ってたぞ」
「ムスタファンはゾンビなの?」
「気をつけろ二ナ、奴は恐いゾンビなんだぞ」
3人で腹を抱えて笑った。ぼくはいつ笑ったのだろうか?随分と長い間、笑ったことがないような気がした。
 昨日、部屋に閉じ込められ禁断に苦しんだ二ナはその反動からか、オーバードースでべろべろになって自分の意識の中に入ろうとしていた。深い闇は胎内だ、胎児のように身を丸め羊水に揺れる。ぼくは彼女を病院に入院させ治療を受けさせようと真剣に考えたことがある。しかし彼女が一時的に回復することができたとしてもスタッフを断ち依存症の苦しみに耐え続けることはここデリーでは不可能だ。二ナからスタッフを取り上げたら彼女は狂い苦しみ死んでいく。だったら今の生活を続けて苦しまずに死んだ方が彼女にとって幸せだ。二ナの命はもうそんなに長くはない。
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・14

2014-01-04 | 4章 遠い道・逃亡

 久し振りに裁判所へ出頭した。次回の出頭は1月8日と決まった。出発日は遅れるが計画自体の変更はない、スライドするだけだ。
汽車の切符は入手できる、問題は同行するネパール人だけだ。例のカトマンズの売人を引き止めておけば何とかなるだろう。
 裁判所から戻ってぼくはメインバザールを歩いている。キーランGHの入口階段を通り過ぎた。(どこへ行く積もりなんだ、どこへ行くんだ、何を考えている、止めろよ、ホテルへ戻れ)ぼくは通りを真直ぐ歩いた。(馬鹿なことをするな、悪い考えだ、ホテルへ戻れ)ジュース屋と映画館を通り過ぎた。(それだけは止めろ)とぼくの心が叫んだ。ぼくの足は別人になったように前へ歩き続ける。メトロポリスを右折する。ピクニックGHはもう目の前だ。階段を上がる前に一度、ぼくは止った。
もう引き返せない。階段を上りフレッドの部屋のドアをノックした。フレッドにスタッフが手に入ったのは直ぐに分かった。奴の顔は昨日と違う。
「フレッド、スタッフを回してくれ」
「どうするつもりだ、トミー」
「あるか、と聞いているんだ」
「1gならある」
「それをくれ。夕方までに5g用意してくれ」
「マリーは知っているのか?」
「お前、出来ないのか?代わりの売人は幾らでもいる」
「分かった。夕方、来い」
今日の夜行列車での出発だったら、こんなふうにはならなかった。もう良い。デリーにいたらスタッフは切れない。
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・13

2013-12-30 | 4章 遠い道・逃亡

中卸しに何かあった。禁断の苦しみで何をするか分からない二ナを外へ出られないように鍵を掛けてランジャンはスタッフを探しに出かけた。
「トミー、グリーンGHに急いで行って、パラかムサカがスタッフを持っているわ」
「お願い、トミー、助けて」
ぼくは後退りし駆けるようにして階段を下りた。トミー、トミー、助けて、二ナの苦しげな声がぼくを追いかける。ぼくを捕えようとする。狂気だ。凄まじい力でぼくを引き摺り戻そうとする。もう逃げ切れないかもしれない、ぼくは。
 ベッドで横になりぼんやりしていた。どうしょうもないよ二ナ、ぼくは何もできない。ごめんよ、二ナ。あれが今までのぼくの姿だったのか、身も心も蝕まれスタッフの命令で生きていた。ハード・ドラックを長期間継続すると現実の脳とは別に模倣された影の脳が形成される。現実の脳の指揮と命令系統の主導権は少しずつ失われていく。主導権を奪った影の擬似脳の中心には紅い芥子の花が咲いた。主導権を掌握した擬似脳はリアリティーから分離していく。日常生活で得た情報や知識はすべて配線回路の分岐点から擬似脳に送られる。ぼくはリアリティーから分離した視点と時間そして思考に生き続けた。
 2日夜行列車の予約切符は手に入らなかった。1月8日の出発に変更する。偽造パスポートができるまで数日は必要だろう、それで良い。どういうつもりなのかフィリップスは自分の偽名パスポートをぼくに見せた。それにはネパール入国ビザのスタンプが押されていた。同行するネパール人が見つからなかったら俺が一緒に行ってやると奴は言う。何を考えているのかぼくには理解ができない。アフリカンの奴とボーダーを抜けたら余計に目立って危険だ。
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