マリーが用意してくれたスタッフ10gは一週間足らずで終ってしまうだろう。一日、小パケ二~三個で足りていたのに最後にはエマから5g単位で買っていた。フィリップスとの腐れ縁は長い、それを知っている他のプッシャーは彼に気を使っているからか、シンジケートの無言の決まりでもあるのか、ぼくへのスタッフの売りを控えていた。フィリップスのリリースを境にしてプッシャー達は動き出した。フィリップスとぼくのリリース迄の差は約一ヶ月足らずだ、その間にぼくは一日スタッフ1gを必要とする身体になっていた。
スタッフがキックする、夢のような幸福感に満たされ身体が心地よく揺れた。
朝、トイレを済ましスタッフを一服した。窓のレースのカーテンは一日中開けられないだろう、スタッフを吸っている場面を隣の二階から見られては困る。キッチンに行って見るとトースト、ティーパックそれにミルク等が用意されていた。水道の蛇口を回したが水は出ない。フロアーには汲み置きしてあるのだろう水の入ったバケツが置いてあった。刑務所では朝のティーとトーストは当番によって運ばれてきたが、自分の事は自分で用意しなければならない。朝食を終えベッドの上で横になり至急やらなければならない事を考える。
フィリップスに会いスタッフ50gとチャラスの手配を頼む。大使館へは釈放の報告とお礼を兼ねて保管されているぼくのお金を引き取る。買物は小さなアラーム付きの置き時計、鋏み、アルミホイール、ライターそれに下着や洗面用具等、大使館からお金を受取った後になるだろう。
蛇口の下にバケツを置き水が出始めたら分かるようにバスルームのドアを開けて待っているが水はまだ出そうにない。給水の時間をマリーに確かめておく必要がありそうだ。