順調に進めば明後日、5年振りの帰国となる。ぼくはどんな顔をして日本へ帰るのだろうか。荷物の整理は終っている。明日イミグレーションでビザをとり飛行機の予約確認をすれば帰国の準備はすべて終る。今日の予定は何もない。広場へ行ってケダルとクマルに会っておきたい、彼等に会うのはこれが最後になるだろう。朝食が終ってケダルの店へ行くと既に土産物を並べる仕事は終っていた。ニューロードの方を向いて店番をしているケダルに「おはよう」と声を掛けて彼の隣にぼくは座った。ぼくを見たケダルは
「チャイ、飲みましょう」
「今、飲んできたからいいよ」
「もう一杯だけ、それだけ飲んで下さい」彼がぼくにチャイを進めるときに使ういつもの会話だ。チャイを飲みながら2人は並んで座っていた。特別な会話などなくてもお互いに気を使うことはない。
「赤ちゃん、元気?」その言葉を聞いた途端にケダルの顔は満面の笑みに変わった。赤ちゃんの動きを手振りで真似て
「元気よ、こうして歩くよ、もうすぐ2才になるよ・・・」
楽しそうな彼の顔を見ているとぼくも嬉しくなった。
ケダルがお見合いをしたのは3年前だったのか。
「明日、お見合いをするよ」彼は照れくさそうにぼくに知らせた。興味津々のぼくは翌朝すぐ彼の店へ行って話しを催促した。ケダルはある建物の屋上に上がって通りを隔てた建物の屋上に現れるお見合いの相手を待っていた。頭からショールを被った女性が屋上に現れた、がすぐ建物の中へ戻って行ってしまった。
「どうだった?」
「何も見えないよ、こうして、頭からショールを被っていたから」
ぼくは吹きだしそうになった。若い2人はそうして親の決めに従って結婚をした。1年後、バンコクで安いペアウオッチを買いカトマンズへ戻った。新夫婦へのささやかなプレゼントだった。その時、女の子が生まれたと聞いていた。