身内の話ですが、今父の治療をしています。
ご存知の方も多いかと思いますが、父は今なら間違いなくテレビとかでスーパーDRとして取り上げられたであろう、凄腕整形外科医でした。
美容ではなく整形外科の真ん中を歩んで来た、創り上げて来た凄腕DRで、手術を受けにそれこそ日本国中は元より海外からまで患者さんが来るDRでした。
今は梅屋敷で開業をして、赤ひげのような先生をしています。
その父が、半年前に上顎の大臼歯部が痛いと言うことで、治療をしました。
かなり進行している虫歯でしたが、神経の処置、根管治療をして、被せものをして終了したのですが、その直ぐ後から、やはり痛い治っていない、と言っていたのです。
それで、様子を見るということで半年経ち、やはり痛いということで最近来ました。
そして、歯科用CTを撮って診てみたのですが、どうやらその後ろの歯が割れているのか何かで歯根の周囲に影が出ていて、私はこの歯だろう、と思ったのです。
ところが、父はそうじゃないこの前弄った歯が痛んだ、と言い張るのです。
懇切丁寧に説明しても、納得してくれませんでした。
困ってしまった私は、ではまず一番最初に今回私が悪いと思っている歯の症状が治まるような治療をしましょう、それでも納まらない時には、被せた歯をやり直しましょう、と言うことで何とか了解を得ました。
そして、本日です。
すっかり症状が軽くなった父は、お前の当りだ、と笑っていました。
前回の険悪な表情は忘れたかのようです。
実は、こう言うことは、歯科では日常茶飯事で起きていることです。
患者さんは、誰でも自分が正しい、と信じています。
しかし、我々の診断では、ずれていることはしょっちゅう起きることなのです。
私は悪くなさそうなところは弄るのを躊躇い、患者さんに良く説明して、任せていただくようにしますが、普通の開業医の先生方は、患者さんが言うのだからで悪いと言っている所を弄る方も、とても多いでしょう。
このような事態が、普段から歯科では起きているのです。
患者さんは自分が痛いと思っている所を治せと言います。
しかし、それでは治せないことも多いのです。
こう言う時にこそ、冷静な知性が大事になる、と言えるでしょう。
幸い今回は、父がかなり怒っていましたが、私が粘り強く説明して、奏効して事なきを得ました。
しかし、これは幸運な例で、普通の患者さん達ではなかなかこうは行かないのは事実なんです。
歯科のQ&Aのサイトとかを見ていると、その手の相談が実に多い。
歯科不信が蔓延している、と嫌な感じです。
感情的な情動が支配している、怖い時代である、と感じられて仕方がないです。
私は時代に棹差してでも、敢えて患者さんの体の為に正しい治療を行いたい、と思っています。
それは、そのまま知性の復活、を意味します。
大震災以来、尚のこと情動が支配し過ぎる世の中に、世界全体がなっている気がしてなりません。
もっと冷静に、知的に、人はもっと賢い筈です。
私はそれを信じて、敢えて身内の恥を公開して、訴えたいと思います。
父ほどの人物でも、歯科医の言葉に耳をなかなか傾けられない、そんな時代は早く終焉を、と願って止みません。
何故なら、それは不幸な時代でもある、と言う面が強いからです。
人は考える葦である。
名言を噛み締めて、締め括ります。