シェイリーン・ボーンさんのインタビューの和訳をsienna様のブログより転載させていただきます(多少縮小しています)。
羽生結弦選手のフリー・スケーティング「SEIMEI」「オペラ座の怪人」などの振り付けをされているシェイリーン・ボーンさんが、新プログラム「Origin」について語っておられます。
ユヅのアイドルの1人がプルシェンコということで、ユヅがこの曲を選んだ。どちらのプログラムもジョニー・ウィアーとプルシェンコという彼のアイドルへのトリビュート。でもプログラム自体は彼自身のもので、曲の解釈もそう。
私自身は日本の「古事記」の神話とか日本の建国といった話からインスピレーションを得た。振り付け作業では、それを元に動きを取り入れた。なぜそこにインスパイアされたかというと、私は、ユヅがとても特別な存在で、単なる俗世の人じゃなくてそれを超えた何かだと思っているから。異星人というわけじゃないけど(笑)、別の素晴らしい何かを備えている。私はそういった点や、彼の「創造力」というものを強調したかった。彼は「リーダー」。明らかにこのスポーツにおけるリーダーで、人々をインスパイアしている。
振り付けに関しては、彼は自分のやり方で動くべき。でもこの2人(プルとジョニー)を見て育って、今の彼がある。だから、彼の人生に大きな影響を与えたこの2人に思いを馳せて曲を選んだということが、トリビュートになっている。そして、今の彼がそれをどう使うのか、それに合わせてどう動くのか。それぞれのやり方は違うし、それぞれが独自に表したいものがある。ユヅと一緒に作ったこのプログラムは彼にとっても新しいものになり、私は本当に気に入っている。
プログラムではスケーティングを通じて彼のクオリティを見てもらえるはず。より速いフットワークやスピードなどいろんなレベルでね。そして彼の成熟ぶりも。豊かな経験の持ち主として、彼には表現することがいっぱいある。今や2度の五輪王者だもの、当然!(笑)そして、新しいエレメンツも色々と入れている。彼が現役を続けているのは主にそのためだから。彼はクワドアクセルを跳ぶ最初の選手になりたいの。
あのアクセルは氷の上を吹っ飛んで行く…。そんなわけで、一緒に仕事ができて嬉しかった。ユヅと仕事をするのはいつだって嬉しい。プログラムを作りながらとても特別な1週間を過ごした。このプログラムがどんな風に受け止められるか、彼がどうモノにして行くか、それを見るのが待ちきれない。
P:あなたは平昌で彼が優勝した時のフリー「SEIMEI」を振り付けたけれど、(五輪は)トロントで見ていた?
自宅でね。彼が氷に下りた時から…ウォームアップの時からすでにそうだったけれど…一緒に仕事をした人については彼らが発する「バイブ(vibe:オーラ)」を感じ取れるもので、彼には自信があるのが分かった。焦ることなく落ち着いていた。目を見れば、これから最高の演技を見せてくれると分かった。すでに腹は決まっていて、いい余裕があった。だから私もナーバスにならずに見られたの。やれるって信じていたし、実際にやってくれた時には、もう、こんな感じで(とひれ伏すジェスチャー)。ワーオ。またもや「素晴らしいユヅ」を見せてくれたなって。
P:さて、あなたは彼が演じるべき大事な役を作るわけだけど、今シーズンのフリーの構成にあたってどこから始めたのか?プルシェンコトリビュートのプログラム。手をつけたのはどこから?
ユヅの場合、まずはエレメンツの配置。彼には立派なジャンプが揃っているから。30秒短くもなって。ユヅはそれに関しては知り抜いている。自分のジャンプのために何が必要か分かっている。私の方は、ストーリーや感情、変化の付け方とかハイライトを入れる場所などを考える。2人で最初から最後まで順を追って作っていった。
振付師として私は、彼のクオリティや能力を見せたい。それこそスタートポジションの瞬間からね。これまでと違うもの、オリジナルなもの、ユニークなものにしたかった。彼がそうであるように!だから1ヶ所ずつ時間をかけて「変化」を求めた。彼のファンが彼から新しさを感じられるように。エモーショナルなレベルだけでなくスキルというレベルでもね。そして、曲としても、違うバージョンとして新しさを感じてもらえるようにしたかった。
とてもエキサイティングな音楽だし、全てを一つにまとめることができれば夢のようでしょう。これから彼はいろんな試合に出るので、プログラムは磨かれていくでしょう。どんどん良くなるはず。
日本の建国、それを表現するのにユヅルほどぴったりな人はいない。彼はリーダーであり、クリエイターだ。それに、不可能を成し遂げることを望んでいる。振り付けのアイデアはそこから出た。(地面を指し)彼が一から自分の世界を作り上げてきたというビジョンを描いた。それに、彼には自分のやっていることに対する喜びがある。
茶目っ気があって、リンクに一緒にいるといつも面白くて。彼は、曲がかかると「ああ、こんなことができた!」「あれをやるぞ!」と、クリエイトすることを楽しんでいる。彼はそういう人。だからそれをストーリーに結びつけたかった。そしてこの「神」がいわば「現世化」して、世俗的、人間的になり、感情や触れ合いや痛みが伴って…。ギリシャ(…とシェイリーンは言っていますが、おそらく「日本」の言い間違い)神話の思想が詰まっている。それについて学んだり氷の上に置き替えたりするのは本当に面白い経験だった。
P:あなたは振付師として日本の神話について考えたわけだけど、彼もそのストーリーを共有しているの?それともスケーターには自分自身のストーリーを作らせるの?
必ず自分で考えてもらうようにしている。だって最終的にリンクに出たら、自分自身の心や声や魂から出たものでなければ。自分自身から出るものでなければホンモノじゃないでしょう。というわけで、彼のやることは彼自身の選択の結果であり、彼の考えは彼のみぞ知る。彼は胸にしまっておくタイプだから細かいところまではシェアしてくれないと思う。でも彼の演技から伝わるはず。私にとって大事なのはそこ。それが心からのものなのか。うわべでは観客の心は掴めない。フリをしてもダメ。誠実でなければ。俳優と同じこと。
P:ユヅル・ハニューをチャンピオンたらしめている資質とは?
ユヅは心から自分を信じている。決してブレない精神的な強さがある。口先だけじゃなくて本当に信じている。何も言わなくてもちゃんと心で分かっている。そして自分自身を信用している…。努力もしている!ゴールに向かって努力している。恐怖心に邪魔されることなく。
私たちはよく恐怖心のせいで新しいリスクを取ったり、新しいことに飛び込んだりするのを止め、自分自身の邪魔をしたりするけれど、彼はそんなことをする人間じゃない。ただ、そこに向かって行動するだけ。すでに五輪連覇しているのに、なぜまた五輪に、あるいはワールドに、と言う人がいるかもしれない。でも彼にはミッションがある。クワドアクセルができることを信じている。そして、それに向かって突き進む。こういう生き方は万人への優れたメッセージになる。とても大切なことよ。本心から行動するということ。そう、脇道に逸れずに。
P:最後の質問。このフリーでこれぞっていうお気に入りのところはある?
ああ、難しい。たくさんのプログラムを振り付けるけれど、いつも、ダイヤモンドを散りばめるように…曲のそれぞれのパートを際立たせるようなものを探す…。ユヅの場合は…ルビーとかダイヤモンドとか。
1カ所すごく気に入っているのが、サーキュラーステップの終わりで止まって背中をそらしてひざを曲げるところ。その動きにはグッと来てしまう。彼の強靭さ、柔軟性や、空間の制し方が伝わってきて。そのほかに、スタートとフィニッシュのポーズ。
それから、別の手を伸ばして掴み取っている場面。誰かの背中に触れるという感じに似ている。まるで子供のような…彼らをはじめて触れる時みたいに。「触れる」ってとても人間的。「触れる」ことで生きているという気持ちにさせられるし、愛を感じる。こういった動きが自分の琴線に触れて、鳥肌が立ってしまう。
他の人たちも、その人なりの「瞬間」を彼の演技から見つけられますように。
もう一度、録画観て来よう・・・