「私」は公民館のような殺風
景な部屋の、板の間の中央で
正座しています。そこは間違
いなくNZなのですが、端の入
り口からぽつぽつと入って来
る人たちが、アジア人ばかり
で日本人もいるようでした。
みんな「私」の姿に一様に驚
きながら、何も見なかったよ
うに壁際を通って行きます。
「私」は気まずさを感じつつ
も身動きが取れずにいます。
気まずさは、男性が「私」の
膝で膝枕をしながら1人でぶ
つぶつ言っているからです。
私たちはリアルの知り合いで
彼は若い企業経営者でした。
「いったい中小企業をなんだ
と思ってるんだ」
「どんな思いで毎日仕事して
るのか、わかってんのか」
「このままじゃ黒字倒産が起
きてもおかしくない」
「需要があるのに、まともに
商売ができないなんて」
男性のぶつぶつは主に政府に
向けられたもので、事業主に
求められたコロナでの休業や
厳格な対応、その後の品不足
や物価高、そして今のNZ最
大の問題である人手不足に対
する不満で溢れていました。
彼のつぶやきは独り言で、た
またま横になったらちょうど
いい高さのモノがあったので
枕代わりにしたという感じ。
「私」に話しかけている訳で
も、膝枕をしているという意
識もなく、「私」を背に向け
て、固く目を閉じ、腕組みを
しながら横たわっています。
彼の頭はひときわ大きく、重
く、不満がぎっしり詰まった
石のようでした。そのせいか
大人なのに4頭身ほどの子ど
ものような体型に見えます。
企業経営者の置かれている状
況が察せられるだけに、苦し
い心境の吐露に同情しつつ、
起こすまいとしていました。
「私」にできることはなく、
寝た子は起こしてはならない
しかし、その間もこちらを怪
訝そうに見ながらアジア人た
ちが部屋に入ってきます。い
ずれ夫や彼の奥さんもやって
来ることでしょう。夫には事
情を説明すれば判ってもらえ
るでしょうが、奥さんがどう
思うかは判りませんでした。
彼を起こさずに膝枕を解消す
る方法が思い浮かばず、そも
そも頭の重さで立ち上がれな
いほど足が痺れていました。
「どうしよう、どうしよう」
と思いつつ夢が終わります。
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雨宿りに軒先を貸すように膝
を貸してはいましたが、夢で
も現実でも私は傍観者です。
経営者たちの苦境に心を寄せ
つつ、一消費者として意識的
に立ち振る舞うばかりです。
彼はそんな経営者の象徴とし
て登場したのでしょう。夢で
よくあるシンボライズ。泡沫
の夢の中で、一目で状況が把
握できることが象徴の役目。
部屋の端を腫れ物に触るまい
と通り過ぎていくのは、無名
で無数の当事者ではない消費
者たち。石のように動けずに
いる「私」は彼らの無言の視
線を背中に浴びていました。
それは十分なサービスを提供
できずにもがいている経営者
たちに注がれるものと、同じ
物だったのかもしれません。
1年前から断続的に続けてい
た家の改装は、コロナ、品不
足、物価高、人手不足を乗り
越えて、なんとか終わりが見
えてきました。関係者に感謝