〈 第二十一闋 朱器臺盤 ( しゅきだいばん ) 「保元の乱」の複雑な内幕 〉
今回も順番に、「書き下し文」と「大意」を紹介します。( 該当する漢字がない字は、カタカナ表示にしています。)
〈「書き下し文」( 頼山陽 ) 〉 8行詩
君が家の朱器臺盤 ( しゅきだいばん )
彼より奪ひ此れに與 ( あた ) うる 何ぞ難しと為さむ
自ずから 鼎タイ ( ていたい ) の安きを得難く有り
小児は餗 ( そく ) を覆 ( くつがえ ) し 大児は羹 ( こう・肉。野菜を入れた熱い吸い物)
鼎沸いて四海狂乱を捲く ( まく・螺旋状にからみつく )
火攻 ( かこう ) の先着欺いて肉を食らふ
リュウゼン喉に至るや星の落つるが如し
君王に従いて晨粥 ( しんじゅく・朝かゆ ) を啜 ( すす )らず
〈 「大 意」( 徳岡氏 ) 〉
あなたの家の朱器臺盤だ
あちらから取り上げてこちらに与える、そんなことは当然簡単だろう
ただしそんなことをすれば、家中天下の治らぬのもまた当然
小さい子は鼎の中の食べ物を引っかき回し、大きい子は羹を・・・
で、鼎は沸いて、四海は浪くるおしく巻き起こる
まず火攻めにあって あぶり肉のように身は焼かれ
矢は流星さながらに喉に落ち
ついに君王の共をしおおせて朝粥 ( あさがゆ ) の相伴をすることもなく、あなたの愛子 ( あいし ) 頼長は死んだ
高校生の頃、「保元・平治の乱」と一括りで暗記し、保元を〈ほげん〉と読んでいました。氏の解説で、保元は〈ほうげん〉と読むのだと知り、どこかで恥をかいていたのかもしれないと、穴を掘って入りたくなりました。
頼山陽の詩と徳岡氏の大意を読みながら、何も理解できない今の自分も恥をかいているはずなのに、不思議とそんな気になりません。
「第二十一闋 朱器臺盤はわずかに八行であるが、それは保元の乱の起源から結末までを述べているので、内容的には『保元物語 ( 3巻 ) 』と同じことである。」
渡部氏の解説の書き出しですが、3巻もある物語の内容をたった八行で述べていると言うのですから、大抵の人には理解不可能な詩でしょう。多数の中の一人なら恥をかくと言うより、逆に元気が出てきます。そんな難しい詩なら頑張って読もうと、単純な学徒になれます。
「第二十一闋の背景を成すのは、宮廷内の異常な関係と、藤原氏の中の権力闘争である。この闘争に武家が関与せしめられたので、ついに本物の武闘の時代となり、武家政治の幕が切って落とされることになった。」
第二十一闋の短い詩の中に、7人の天皇が語られ、権力闘争をする中心人物は関白太政大臣藤原忠実 ( ただざね ) と、その子忠道・頼長の三人です。氏の解説を紹介する前に、天皇のお名前を先に述べておきます。
1. 第七十二代白河天皇・・法皇となり、40年間政治の実権を握る。堀川、鳥羽、崇徳三代の即位を決定
2. 第七十三代堀川天皇・・8才で父の白河天皇から譲位され即位。異母弟の輔仁 ( すけひと ) 親王に皇統が移ることを避けるための白河天皇の強い意向
3. 第七十四代鳥羽天皇・・白河天皇の孫 系図上はその長男が崇徳天皇になっているが、実は白河天皇の子であり、実質は自分の叔父に当たる
4. 第七十五代崇徳天皇・・系図では鳥羽天皇の子だが、実際は白河天皇の子
5. 第七十六代近衛天皇・・鳥羽天皇の実子。3才になると退位させられた崇徳天皇に代わり即位。しかし17才で亡くなられた
6. 第七十七代後白河天皇・・崇徳天皇の弟
7. 第七十八代二條天皇・・後白河天皇の子
この複雑な皇統の大本 ( おおもと ) は、「第十八闋 月無缺 ( つきにかくるなし ) 」で紹介した「氏長者」藤原道長の徹底した「後宮政策」にあります。美しい四人の娘を、歴代天皇の皇后・皇妃・中宮・女御とした結果が後の世の混沌に繋がったと、これは氏の解説でなく「ねこ庭」での解釈です。
複雑な皇統に、権力争いをする摂関家の藤原氏が骨肉の争いで加わるのですから、さらにややこしくなります。次回は氏の解説にとらわれず、藤原一族の親子関係を紹介いたします。
( 息子たちや「ねこ庭」を訪問される方々に、どうすれば頼山陽の詩が正確に伝えられるかと、自分なりに工夫をしていますが、うまくいきますのかどうか・・・)