30
九門ゼミナールから帰りの典子。
カラオケパブからでてきた孝子。
ゲーセンで遊び狂っていた篠子。
首筋におぞましいものがおしつけられた。
唇。
つめたい。
ぐさっと牙がうちこまれた。
三人の娘の断末魔の悲鳴をきいたものはいない。
ズルッずるっとなにかを引き摺る音。
なにか、やわらかなものが舗道を引き摺られている音。
そんな音を聞いたものもいない。
今夜も春の雪になりそうだ。
いやに、冷えこんでいる。
シャッターが下ろされている。
どこの家もはやく雨戸をとじている。
玄関にカギがかけられている。
いや冷えこむだけではない。
なにか、怖いいものがこの夜の底を歩き回っている。
10
「聞けたか」
「悲鳴でしたね」
「わたしにも聞こえたよ」
彩音は麻屋と文美の後ろから声をかける。
すくなくとも、彼女たちの悲鳴を感知したものがここにいた。
恐怖の源をみきわめようとするものたちは、地下の資料室をぬけて地下道を歩いていた。
周囲の壁がゆれている。
彩音がはじめて資料室ををおとずれたときもこの微動が起きた。
「歓迎されているわけではなさそうだな」
「わたしもそうおもいます。先生これは……」
「むこうさんも、武者震いしてるんだろうよ」
「わたしもそうおもいます」
「なによ、おばあちゃんもセンセも。ふたりでもりあがっちゃって。わたしにもわかるように、説明して」
「あれはなにかしらね」
文美がのんびりという。
「鉄ごうしがあるから、ここは国産繊維の地下室だ。折檻部屋のあとかな」
「まさか、そんなきついことは、やらなかったでしょう。反省室よ」
「反省室に鉄ごうしをはめるかね」
のぞきこむと、すみのほうに布切れが積み上げられていた。
布切れではなかった。
婦人用の洋服であったものだ。
布の陰に白い……骨。
骨だ。
そして、まだ骨になりきっていないおぞましい腐乱死体。
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九門ゼミナールから帰りの典子。
カラオケパブからでてきた孝子。
ゲーセンで遊び狂っていた篠子。
首筋におぞましいものがおしつけられた。
唇。
つめたい。
ぐさっと牙がうちこまれた。
三人の娘の断末魔の悲鳴をきいたものはいない。
ズルッずるっとなにかを引き摺る音。
なにか、やわらかなものが舗道を引き摺られている音。
そんな音を聞いたものもいない。
今夜も春の雪になりそうだ。
いやに、冷えこんでいる。
シャッターが下ろされている。
どこの家もはやく雨戸をとじている。
玄関にカギがかけられている。
いや冷えこむだけではない。
なにか、怖いいものがこの夜の底を歩き回っている。
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「聞けたか」
「悲鳴でしたね」
「わたしにも聞こえたよ」
彩音は麻屋と文美の後ろから声をかける。
すくなくとも、彼女たちの悲鳴を感知したものがここにいた。
恐怖の源をみきわめようとするものたちは、地下の資料室をぬけて地下道を歩いていた。
周囲の壁がゆれている。
彩音がはじめて資料室ををおとずれたときもこの微動が起きた。
「歓迎されているわけではなさそうだな」
「わたしもそうおもいます。先生これは……」
「むこうさんも、武者震いしてるんだろうよ」
「わたしもそうおもいます」
「なによ、おばあちゃんもセンセも。ふたりでもりあがっちゃって。わたしにもわかるように、説明して」
「あれはなにかしらね」
文美がのんびりという。
「鉄ごうしがあるから、ここは国産繊維の地下室だ。折檻部屋のあとかな」
「まさか、そんなきついことは、やらなかったでしょう。反省室よ」
「反省室に鉄ごうしをはめるかね」
のぞきこむと、すみのほうに布切れが積み上げられていた。
布切れではなかった。
婦人用の洋服であったものだ。
布の陰に白い……骨。
骨だ。
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