田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

鬼子母神症候群/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-08-07 08:35:23 | Weblog
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「噛まれてはいないよ」
見舞いに来てくれた紅子が翔子の首筋、
耳の下あたりを気にしている。
「肩の肉はごっそりもっていかれたけど、
首筋はかまれてないシ」
「よかった。はやく元気になってね」
「うれしいこと、いってくれるのね」
「何度か会って、闘ったりもしたけど、
いや……たたかったからわかったのよ。
翔子はわたしたちの敵ではない。
それをオトコたにも納得させた。芝原も柴山も味方だから。
ほかのおとこたちだって心配ない。
いずれわかってくれる。
かれらは、ガラにもなくびびっている。
この東京にきてあまりに日本原産の吸血鬼――鬼がおおいので、恐れをなしてる。
わたしと翔子の敵は、墓地で戦ったアイツらにキマリよ」
「GGにきいたの。
奈良は平城京遷都1300年祭りでいま賑わっているの。
そして、平城京を荒らした鬼も復活したの。
召喚してしまったのよ。
だから日本全土で鬼のつく行為をする人がふえているんだって。
鬼母(おにはは)の幼児虐待がひろがっている。
鬼子母神症候群が発生しているのよ。
それを世間の人が起想しなければいけないんだって。
子どもすら食べた鬼母がいた平城のむかしがこの平成によみがえってしまったらしいの」
「闘わなければ!! 翔子はやくよくなって」
「いまだって闘える。右手で剣は使える」

翔子の左肩の傷は、人狼の噛み傷だ。治りが遅滞している。
病室のテレビは、100歳以上の老人の行方不明者について報じていた。
報じているだけで、その根底にある家族の愛の欠落にたいしては、沈黙を守っている。

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