田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

ヒスイの仮面/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-08-25 04:31:24 | Weblog
23

男は胸にヒスイの勾玉をさげている。
かなり大ぶりなモノだ。
深緑色で半透明な宝石は男にとってパワーストンなのだろう。
男が話すたびに胸元で揺れている。
どこかで会っている。
まちがいない。
デジャブ―なんかではない。
確かに会ったことがある男。
おなじ、夜の種族。
胸元のヒスイの揺れに集中しているうちに頭がくらくらしてきた。
いけない。
眠りにさそいこまれる。
男の勾玉が平べったく伸びる。
平面となり男の顔に仮面となってはりついた。
ヒスイの面をかぶった鬼――吸血鬼。
ヒスイが黄金のように溶けて、仮面になることなどない。
これは、幻覚を見させられているの。
ヒスイの面の男が一歩ふみだした。
「ミイマ。あぶない」
翔子の声がひびいてくる。
「ミイマ。敵は右横。献血車のノウズのほうよ」
目の前に見える男は、幻なのだ。
やはり幻をみていたのだ。
翔子の指示に従って、バラの鞭で右横を薙ぐ。
ゲェっと苦鳴が鞭の先で起きた。
なにかをたたいた手ごたえがあった。
「ミイマ。すごい。気配をたよりに斬ったのに、敵の顔にヒットしたよ」
ヒスイの勾玉の男が悔しそうに翔子をにらんでいる。
あの勾玉の揺れを見ている間に、瞬間催眠にかかってしまったのだ。
しばらく平和だった。
戦いの勘がにぶっていた。
わたしが、心理を操作されるなんて。お恥ずかしい。
でも、敵はまちがいなく、わたしたちが、マインドバンパイアがいることを認識した。
これからは厳しい戦いになるだろう。
「コイツはどうしてミイマ健康体なの」
「それはな、オジョウチャンおれが血を飲まなかったからさ。いまどきの若いもんは、仲間の血に臭いもわからない、クズだ」
「わたしは同族の者とは戦いたくないの」
男の頬にバラの鞭でたたかれた擦過傷ができている。


にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説
プチしていただければ作者の励みになります。