田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

妻は留守、変顔をして、ひとりたわむれる。 麻屋与志夫

2017-06-01 09:24:46 | ブログ
6月1日 Thu.
妻は留守、変顔をして、ひとりたわむれる。

●カミサンの声が携帯のなかではずんでいる。
「江の島の砂浜がとてもきれいなの」
 七里ガ浜あたりを娘と孫につれられて散歩しているのだろう。
「バラに水やってくれた」
 さらにはずんだ声がつづく。
「もう一泊してもいい」

●車に酔うので彼女は修学旅行にはいけなかった。江の島をしらない。――よくこぼしていた。「いちどでいいから、ひとのあまりいない砂浜を歩いてみたい」とロマンチックなことをいっていた。その念願がかなったのだ。声がいきいきとしている。ついぞ聞いたことのない朗らかな声だ。

●25歳のときに胸膜炎で倒れた。見舞に来てくれた彼女がしくしく泣いていた。いくら問いただしても理由はいわなかった。おそらく「病気の男と、わざわざ結婚することはないだろう」と言われたのだろう。後年、このわたしの推理が正しかったことをしらされた。

●結婚するとすぐにわたしの両親が病に倒れた。老人保健はなかった。わたしたちは芯縄製造でいそがしかった。
カミサンは死にものぐるいでふたりの看病をしてくれた。小柄な彼女がさらにやせほそった。病院の支払いが一般的家庭の収入の三倍もかかった。よくきりぬけられたものだ。

●わたしはカミサンの苦労にいまだなんら報いることをしていない。

●子どもたちや孫、長男の嫁。みんなみんなカミサンを労わってくれる。

●昨夜は眠れなかった。遅い目覚め。洗面所で得意のヘンガオを鏡に映して……たわむれた。



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