5
隼人はリングを拾い上げた。
寒い。隼人は震えていた。
寒い。どうしたというのだ。
いままで、寒くなんかなかったのに。
とつぜん、静けさを破って拍手が起きた。
そしてあの男が立っていた。
凄まじい鬼気をはなっている。
冷えびえとした部屋の空気がさらに冷たくなった。
日光でサル彦が戦ったモノ。
鹿沼で「マヤ塾」を襲ったモノ。
そして、男はニタニタと笑っている。
「覚えやすいだろう。
おれたちはみなおなじ体をしている。
見ることのできる能力のあるものだけが。
こういうふうに変化したおれたちを見る」
隼人の目前で男は鬼の姿になった。
悪魔の姿になった。
吸血鬼の姿になった。
「さあ、リクエストを受け付けますよ。
どの姿がお好きですか」
「美智子さんはどこだ。返してもらう」
隼人が叫ぶ。
美智子をどこに隠した。
美智子はどこにいる。
はやく、元気な姿を見たい。
はやく、美しい笑顔が見たい。
はやく、精気にあふれた声をききたい。
はやく、会いたい。
「おやおや、そんなに威張れた立場ですか」
「隼人、ゴメン」
キリコが部屋にころげこむ。
両腕をジャンパーの上からテープで拘束されている。
ふいをつかれたのだろう。
おトイレを借りる芝居はバレバレだった。
「どうだ。
おれたちと組まないか。
おれたちを見極められるのは。
榊、黒髪、麻耶の一族のものだけだ。
ほかのだれも、おれたちの正体はわからない。
どうだ。
隣のビルは日輪教の総本山になる。
おれたちの権勢を見せつけてやろう。
おれたちが組めば天下無敵だ」
「だめ。
隼人だまされないで。
こいつら口がうまいから、だまされないで」
「なにウジャウジャいってるんだ。キリコ、血をぬきとるぞ」
「そうよ。それがあんたらオニガミの本音だよ。
あんたらアタイたちを餌くらいにしか思っていないんだっぺ」
「おおう。食欲をそそる言葉だな」
「王仁さまあの女を連れてきますか」
かれらの会話にしびれをきらしたように王仁の配下がいう。
「総本山の落成式に。
日本アカデミ賞主演女優賞の中山美智子に。
司会をつとめてもらいたくてな。
動く広告塔になってもらいたいのだ」
「だまされないで。隼人」
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