田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

光る目/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-26 15:52:09 | Weblog
34

 患者を搬入する連絡はしてある。
 長い廊下のむこうから看護師がくる。
 白衣に黒のカーデガンをはおっている。
 ああ、よかった。
 看護師さんがきてくれた。
 これから先は、病院のスタッフに任せよう。
 つかれた。
 きょう一日、いろんなことがあり過ぎた。
 これで家に帰っておばあちゃんとゆっくり寝られる。
 だがそうはならなかった。
 なかなか近寄ってこない。
 看護師のようすがへんだ。
 なによ。
 こんなとき。
 なに、のんびり歩いてくるのよ。
 彩音はジレた。
 走りだした。
 廊下は走らないでください。
 文句を言うものはいない。
 彩音は走った。
 走った。
 背中で楔がカタカタ音をたてている。
 看護師が歩くのを止めた。
 倒れた。
 看護師が倒れた。
 倒れた。
 こちらをむいている。
 口をOの字に開けている。
 救いをもとめるように。
 手をあげた。
 なにかおかしい。
 おかしい。
 文音の背後からストレッチヤー。
 救急隊員が必死で……。
 血を吸われた犠牲者をのせたストレッチャーを押してくる。
 どかどかと靴音が高鳴る。
 それがぴたっととまった。
 彩音もみた。
 看護師の倒れた廊下の角を曲がって、でた。
 でたぁ。
 吸血鬼が。5人? もいる。
 ここにも、吸血鬼は侵攻していた。
 さきほど倒してきたふたりと微妙にちがう。
 口元に真っ赤な血。
 赤く光る目。
 むきだしの鉤爪。
 のびきった犬歯、乱杭歯。
 鉤爪。犬歯。乱杭歯。
 三点セットはおなじだ。
 吸血鬼の三種の神器。
 だが、強そうだ。
 階級がさきほどのヤツよりも上みたいだ。
 







インターバル/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-26 13:12:39 | Weblog
7月26日 土曜日
インターバル/吸血鬼ハンター美少女彩音のモデルは探さないでください。


■わたしの住む町の読者のかた。
おねがいがあります。
この小説のモデルを探さないでください。
これはあくまでもファンタジー小説です。

■東中学の校長先生が吸血鬼に憑依されている場面にこれから筆を進めます。
悩みました。
架空の町の事件にするべきではなかったか。
これからもこの町の地名や建物、商店名がでてきます。
ですが、これは小説です。
現実の人物や事件とは全く関係ありません。

■おねがいします。
あくまでもファンタジーとしてお楽しみください。
もしご迷惑がかかったようでしたらコメントしてください。

■実は、この小説の第一稿は4年ほど前にある文学賞に応募しました。
予選落ちしました。
その時のコメントが教育界を批判的に書かないようにということでした。

■いま、大分県の教育界が贈収賄事件で大騒ぎとなりました。
日本でもトップレベルの文化のある県です。
ほんとうに残念です。
はやく立ち直ってくれればいいですね。

■栃木県は知名度が全国最下位だそうです。
そしてわが故郷鹿沼も鹿沼土の産地として知られているくらいです。
小説の舞台として登場させることですこしでも有名になればいいなと思います。
風光明媚なすばらしい土地です。
ぜひこの小説の冒頭にある幽霊橋、川上澄生美術館などをご訪問ください。

■では宵闇の迫るころ今宵またお会いしましょう。

■やはりまずいわよ。とカミサンにいわれました。これからは鹿沼中学とすることにします。途中からの変更お許しください。


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輸血/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-26 11:42:55 | Weblog
33

11

 鹿沼消防署。
 緊急センターのブザーがなった。
 今夜はじめての救急車の出動指令がでた。
 出動要請地は『川上澄生美術館』の前庭。
 取り壊し寸前の幸橋のたもとだという。
 なんであんな場所に……。
 少女が三人も倒れていたのだ。
 そういえば。
 あの役立たずの橋の柱に。
 暴走族のスプレーペンテイングがある。
 なんどけしても性懲りもなく。
 ヤッラはドハデナ赤のアクリルスプレーで書く。
 吸血鬼参上。
 真っ赤な髭文字がどくどくしい。
 凶念をおびているような文字。
 だれもが目撃している。
 まさか、あそこに本物の吸血鬼が現れたわけでもあるまい。
 血が皿になっていることもある。
 吸皿鬼。
 ジョークにもならない。
 血と皿も正確に覚えていないのか。
 はやくあの橋は壊されてしまえばいいのだ。
 コンクリート製の幅広の橋脚なくなれば。
 ラクガキをすることが、ヤツラにもできなくなる。
 いくら消しても吸血鬼参上などというストリートアートは後を絶たない。
 ごていねいに赤のスプレーて吸血鬼のおぞましいペインテングまで描いてあるこ ともある。
 あのワルガキの、族のヤッラが女のこをまわしたのか。

 消防署から警察に連絡がはいった。
 警察のフロントでは帰りの遅い娘たちを案じて。
 三人の娘の親達が詰めかけていた。
 不安に顔を歪ませ、警官の後から街にとびだす。

「ああ、慶子。いま上都賀病院にむかってる。お母さんは夜勤?……]
「ここにいるわよ」
「至急輸血が必要なの。それも三人も」
「たいへんだぁ。血液たりないかもしれないよ」
「なにいってるの。信じられない。病院に血液の備蓄がないなんて、どういうこと」
 そこで。
 慶子は輸血用の血液のパックが盗まれた話を彩音にした。
「説明はあと。みんなの携帯にキンキュ集合かけるね」

 救急車のバックドアから彩音はとびだした。
 夜間だ。
 救急専用口から彩音は病院に走りこむ。
 だれもいない。
 出迎える者がいない。
 いくら夜間でも人気がなさすぎる。

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100年の恋/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-25 13:33:57 | Weblog
32

  彩音はバック・パックにジャランというほど楔をもってきていた。
 数本左手に握り、右手の楔で吸血鬼の喉元を攻め抜く。
 まさに美しい彩音の舞いだ。
 まさに、古流鹿沼流の舞だ。
 右手に構えた楔で吸血鬼の心臓をねらう。
 彩音は朱鞘の脇差しを背中にしのばせていた。
 カマキリのように構えて斬りこむ。
 とても、老婆とはおもえない。
「江照松風吹 永夜清宵何所為」(かうげつてらししようふうふくえいやせいせうなんのししよゐぞ )
 オッチヤンが呪文をとなえている。
  純平の動きが鈍くなる。
 江月照らし松風吹く 永夜清宵何の所為ぞ
 吸血鬼呪縛を朗々と声詠する。
 この地方。
 大平山曹洞宗大中寺の開祖。
 快庵禅師(くわいあんぜんじ)ののこした証道の歌。
 禅師は食人鬼と化した青頭巾と戦った。
 そのときに唱えた証道の歌だ。
 いつしか吸血鬼を封じる呪文となった。
 麻屋先生は……。
 と文美おばあちゃんがいいかけたことばの意味を。
 いま彩音は悟った。
 封印師だったのだ。
 鹿沼に仇なす邪気を封印することができるのだ。
「いまだ。彩音」
 彩音はトンと床をける。かるがると純平の肩にとびのる。
 彩音は純平の頭に制服からとったブルーのスカーフをまきつける。
 青頭巾にみたてたのだ。
 仮性吸血鬼の純平の胸に、澄江の哀れをおもえば楔をうちこむことはできなかった。
 青いスカーフ、青頭巾のうえから頭頂をぽんとたたく。
「澄江さんが、幸橋でまっているわよ」
「澄江」
 純平が悲哀にみちた声をはりあげた。
「そうよ。あなたを待ちつづけていたのよ」
「ウソダ……」
「解封、封印された澄江の魂よ。よみがえれ」
 吸血鬼になるまえであったが、澄江はともかく噛まれている。
 明治の封印師によって封印されているはずだ。
 それが百年の年月を経てほころびかけている。
 彩音はその綻び目から澄江を垣間見たのだ。
 と麻屋は推察した。
 はたせるかな、中空に幸橋が浮かぶ。   
 澄江が純平を見た。
 純平を見て、呼びかける。
 澄江が純平に声をかけた。
 懐かしい、恋しい純平に声をかけた。
「純平さんはやくきて。
 アイツに血をすわれるくらいなら川に身を投げたほうがいい。
 アイツに、また、噛まれるくらいなら死んだほうがいい。
 純平さん、もういちど会いたかった。
 あなた、ああ、純平さん、わたし最後にあなたって呼びかけている。
 あなた、あなた、毎日、そう呼びかけたかった。
 純平さん……」
「ダマサレテイタ。ダマサレテイタ。澄江はおれを幸橋で待っていた……」
「純平」
「澄江」
 青白いフレイヤーが立ち上ぼった。
 純平の魂だ。
 よかった。
 タマシイまでは吸血鬼になっていなかった。
 純平の澄江を思う気持ち。
 澄江の純平を恋い焦がれる想い。
 合体した。
 いつまでも、いつまでも一緒でいてね。
 彩音はふたりに祝福の念波を贈った。
 純平の、肉体は……さらさらと粉になった。
 消えた。
 だが、百年の恋がここに添い遂げた。           
「鹿沼の土に養われたものたちが、生れ故郷に仇なすとは、作麼生何所為ぞ」
 残った2体の真正吸血鬼にむかって麻屋が一喝する。
 そもさんなんのしよゐぞ。
 吸血鬼捕縛の呪文。
 2体は動けない、たちすくんでいる。
 文美の剣と彩音の楔が胸につき立った。
 心臓を皐の楔でえぐられた。
 純平のあとをおつって土くれとなり埃となってきえていった。

 注 青頭巾。 上田秋成の「雨月物語」より。物語の舞台となっている太平山までは、鹿沼から車で30分くらいです。    







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彩音戦う/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-25 06:08:16 | Weblog
31

 ウジ虫がざわざわと波打つっている。
 すさまじい悪臭。
 吐き気がする。
 彩音は吐く。
 苦いものがこみあげてきた。
 なんども、吐いた。
 天井のコウモリがいつしか数をました。
 興奮している。
 侵入者に気づき。
 ときおり羽音をたてる。
 このコウモリの大群におそわれたら……。
 どう防いだらいいのか。
「くるわよ。彩音、あれを準備して」
 彩音は構えた。
 舞台で学都とむかいあったときのように。
 だかこのたびは……。
 長めの皐の楔を。
 逆手にかまえた。
 あのとき。
 演劇部員が。
 演武とみなした。
 素舞を。
 披露。
 するわけではない。
 こんどはまちがいなく手に武器となる楔をもっている。
 目の前に白い霧がわく。
 ねばつくような、いやなかんじの霧。
 霧のなかから、捕食した娘たちをかついだ吸血鬼が3体あらわれた。
 ああ、ここは折檻室でも、反省室でもなかった。
 ここは吸血鬼の食料保存室だったのだ。
 文美が皐手裏剣をなげた。
「きさまら、スレイヤーだな」
「純平、遠慮なくこんどはあの娘からいただいちまえ」
 二人目の吸血鬼が純平をけしかける。
 いつも純平にかげのようにつきまとっているヤツだ。
 演劇部の舞台での再現だ。
「このひとなのかい? 新任の先生というのは、レインフイルドだね。澄江さんの逢引のあいて。澄江さんの敵と、わたしの父をつけねらっていた林純平さんよ。女工哀歌の功さんの叔父さん。とんでもない誤解からみずから吸血鬼に噛まれた哀れな男」
 さすがは語り部、文美。
「やはり、上沢寮監につながる家のものか」
「彩音の初仕事よ。澄江さんにもいい功徳になるわ」
「いくわよ」
 彩音もすっかりそのきになっている。
 わたしの鹿沼は、わたしが守る。
 鹿沼はわたしが守る。
 わたしたちの美しい鹿沼を吸血鬼の血でよごすわけにはいかないのよ。
 彩音の仕込まれた鹿沼流の舞踊は闘いの所作を秘めたものだった。
 序の舞い『鹿の入り巡礼』昔鹿沼の里に迷い込んだ女巡礼が土地の悪霊とたたかう舞いだ。
 酔拳のように。
 ふらつく。
 じつは八重垣流の小太刀の技を秘めている。
 油断させておいて、か弱い女が確実に相手を倒せる技。
 敵の首筋を攻める技だ。
 踊るように闘えばいい。
 吸血鬼の鉤爪をかわせれば、こちらの勝利だ。
 すきをみて鹿沼で栽培されている刺す木、皐の楔を打ちこむのだ。

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腐乱/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-24 23:09:41 | Weblog
30

 九門ゼミナールから帰りの典子。
 カラオケパブからでてきた孝子。
 ゲーセンで遊び狂っていた篠子。
 首筋におぞましいものがおしつけられた。
 唇。
 つめたい。
 ぐさっと牙がうちこまれた。
 三人の娘の断末魔の悲鳴をきいたものはいない。
 ズルッずるっとなにかを引き摺る音。
 なにか、やわらかなものが舗道を引き摺られている音。
 そんな音を聞いたものもいない。
 今夜も春の雪になりそうだ。
 いやに、冷えこんでいる。
 シャッターが下ろされている。
 どこの家もはやく雨戸をとじている。
 玄関にカギがかけられている。
 いや冷えこむだけではない。
 なにか、怖いいものがこの夜の底を歩き回っている。

10

「聞けたか」
「悲鳴でしたね」
「わたしにも聞こえたよ」
 彩音は麻屋と文美の後ろから声をかける。
 すくなくとも、彼女たちの悲鳴を感知したものがここにいた。
 恐怖の源をみきわめようとするものたちは、地下の資料室をぬけて地下道を歩いていた。
 周囲の壁がゆれている。
 彩音がはじめて資料室ををおとずれたときもこの微動が起きた。
「歓迎されているわけではなさそうだな」
「わたしもそうおもいます。先生これは……」
「むこうさんも、武者震いしてるんだろうよ」
「わたしもそうおもいます」
「なによ、おばあちゃんもセンセも。ふたりでもりあがっちゃって。わたしにもわかるように、説明して」
「あれはなにかしらね」
 文美がのんびりという。
「鉄ごうしがあるから、ここは国産繊維の地下室だ。折檻部屋のあとかな」
「まさか、そんなきついことは、やらなかったでしょう。反省室よ」
「反省室に鉄ごうしをはめるかね」
 のぞきこむと、すみのほうに布切れが積み上げられていた。
 布切れではなかった。
 婦人用の洋服であったものだ。
 布の陰に白い……骨。
 骨だ。
 そして、まだ骨になりきっていないおぞましい腐乱死体。

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吸われた/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-07-24 18:24:19 | Weblog
29

 孝子は悲鳴をあげた。
 お酒を飲み過ぎている。
 こんなに、遅くなるつもりではなかった。
 久し振りで会った友だちとつい飲みすぎた。
 口のなかがねばい。
 カラオケパブからの帰りだった。
 白い腕がのびてきた。
 街灯のなかに男の姿がうかびあがった。
 夜が暗く重い。
 今夜も春の雪になるかもしれないと思った。
「孝子ちゃんはもう雪はみられないの。うふ、うふふふ」
 男が不気味に笑った。
 口元が赤く爛れているようにみえる。
 男から冷気がふきだしている。
 体が凍えてしまいそだ。
 そして、孝子は気づいた。
 これは寒さなんかてはない。
 わたしは恐怖で動けなくなっているのだ。
 冷や汗が背中をながれている。
 がくがくとふるえていた。
 ああ、もうだめだ。
 わたし恐怖で発狂しちゃう。
 ケタケタ笑っているのは孝子じしんの声だった。
 顎がガクガク鳴っている。

「どうして夜遊びするの。夜歩き回るこは、わるいこなんだよ」
 ゲーセンからとびたしたところで篠子はよびためられた。
 少年課の婦警? 
「ぶー、はずれ」
 毒々しい青。
 鮫肌。
 もりあがっている。
 鱗みたい。
 口元が赤い。
 まるでいまあそんでいた吸血鬼ゲームみたい。
 血を吸ったみたい。赤い。
「ピンポン。こんどはアッタリー。篠子ちゃん血も吸わせてぇ」
 篠子は逃げる。
 夜の街を恐怖におののきながら逃げる。
 こんなことなら、母のいいつけを守ってひとりで留守していればよかった。
 後悔先に立たず。
 だれもいない。だれもたすけてくれるひとはいな。
 無人の街。まるで、セガのゲームの世界。
THE HOUSE OF THE DEAD の世界に迷い込んだみたい。
 でも、これは現実だ。
 こんなに息ぎれがする。
 動悸が激しすぎる。
 どうしたら、アイツを消去できるの。
 消去、できるの? 
 わたしは、わるいこ。
 わるいこだった。
 おかあさん、助けてぇ。
 これからはいいこになります。
 でももうおそい。
 ズルッとわたしの血が吸われている。

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闇からの腕/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-07-23 19:31:21 | Weblog
28
   
 足元にはコウモリのフンがおちている。
 床がざらざらするほどたまっている。
 乾ききっていないフンはねばつく。
 歩くたびにベタっとした感触がひろがる。
 飛び立とうとするかのように、羽をひろげた。
 パタパタやっている。
 いまにも飛びかかってきそうだ。
 ギョっとして立ち止まる。
「こわかったら、ここで待っているといい。どうする彩音」
「ひとりで残るの、イヤ」
 背中のバックパックを両手で支える。
 ふたりの後を追う。



 東中3年、三木典子は九門ゼミナールを後にした。
 いつもは車で向えにきてくれる母が風邪で寝ている。
 典子も白いおおきなサージャンマスクをしている。
 闇のなかでめだたないかしらと不安だった。
 この道は市の『クリーンセンター』の所長が行方不明になった場所だ。
 事件は解決したとはいえない。
 首謀格の産業廃棄物業者は自殺してしまった。
 殺人を委託された男達は逮捕され裁判にかけられた。
 でも死体があがらないのだ。
 死体を遺棄したという群馬県の山中からはなにも見つかってない。
 この道を選ばなければよかった。
 いまさら、もどるわけにもいかない。
 だれかに見られている。
 塾をでたときからだれかにつけられている。
 ストーカー? かしら。
 こわい。
 もう、家はすぐだ。
 走れば五分とかからない。
 でも、走ると見えていない存在に気づいたことになる。
 つけてきているものを刺激する。
 わたしっておかしい。
 たしかにだれかにつけられていると思いこんでいる。
 だれもいない。
 いない。
(いないわよね)こころのなかで自問自答した。
「いや、いますよ」
 闇のなかから、白い腕がのびてきた。
 からだは、電柱のかげに、ひそませているのだ。
 するすると白い蛍光塗料でも塗ったような手がながぁくのびてくる。
 その闇からかすかな息づかいが聞こえてくる。
 ひとの息づかいにしては、まのびしている。
 ひとの呼吸ではない。
 獣の唸り声だ。
 典子は動けない。
 ぽかんと口をあいて、その白い腕を見ていた。
 鱗のある緑色になった。
 ゴツゴツと鱗がもりあがっている。
 典子は恐怖で声もでない。
 やはり遠回りすればよかった。
 時間はかかっても……。
 明るい街灯の立ち並ぶ晃望台通りにすればよかった。
 ひんやりとした腕、死人のように冷たい腕が典子の喉元にかかった。
 声がでない。
 声をだしても、まわりにだれもいない。

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抜け穴/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-23 06:13:56 | Weblog
27

「婿にきてすぐ病死したのよ。わたしが母のお腹にいる間に亡くなってしまったの。女工さんを吸血鬼の襲撃から守るのに精魂尽き果て……。いまでいう過労死よ」
「かわいそう……」
「それでも、父は甲源一刀流の一子相伝の秘伝を母に伝授して死んでいったのよ。もともと、女が剣の道に励むことを快く思わなかった時代に、舞いの中にその剣の修行を秘めていた鹿沼流が、さらに剣道の演武を強化して取り入れ、いまの形になったのは、父のおかげなのだよ」
 ガクッと床がゆれた。
 立て揺れの直下型地震のような振動。
「くるぞ、こんどは幻覚ではないな」
 壁がどんどんなっている。
 ポルターガイスト。
 向こう側になにかいて、壁を叩いている。
 接近をこばんでいる。
 警告。近寄られることをこばんでいる存在がいる。
 壁に亀裂がはしる。
 裂け目から妖気がふきだす。
 彩音にも妖気が見える。
 彩音は闘うたびに進化している。
 壁の細い亀裂から青紫色にふきだす毒気がみえる。
 小さな渦をまいて彩音の体にまといつく。
 いやな気分になる。
 胸のあたりにしこりができる。
 吐き気となってこみあげてくる。
「肩の力をぬくんだよ彩音、あまり意識し過ぎるとまきこまれるからね」
 麻屋が壁をなでている。
 なにか探っている。
 壁の一部が小さく開く。
 ノブがついている。
 ノブをぐっとしたにおろす。
 壁の隅がきしみながら上部にずれていく。
「この壁のむこうにもうひとつ部屋があるのだ」
 部屋ではなかった。
 古い抜け穴のような洞窟がつづいている。
 コウモリが天井からぶらさがっている。
 たいしたかずではない。
 それでも、コウモリを刺激しないように静かにすすむ。
 天井のコウモリはかすかな動きにも反応しそうで怖かった。
 鼻をひくひくさせている。
 ときおり、いやな鳴き声をあげる。
 不愉快な声だ。
 彩音たちの気配をすでに感じて威嚇しているようだ。
 しめった黴臭いにおい。
 いやな臭いがふきつける。
 
 彩音が顔をしかめる。

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光る目/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-22 21:24:24 | Weblog
26

 明かりの中でなにか動いた。
 ゾーっとした。
 書架に映った彩音の影だった。
(じぶんの影に怯えるようでは、わたしもまだまだ修行がたりないわ)
 天井の明かりが点滅をくりかえしている。
 ジーっとうなっていた蛍光灯が消えてしまった。
 ジーっという音だけが天井でしている。
 獣が敵を威嚇するような音。
 歯と歯を擦り合わせているような音だ。 
 妖気が部屋にみちている。
 彩音にもわかる。
 明りはついているのに、書架の底辺には闇がたぷたぷとたまっている。     彩音の足にからみつく。はいあがってくる闇。
 見えていないものが、彩音の歩行を拒み邪魔するように実体化してくるようだ。
 無数の小さな手が足元にからみつく。
 ひとりだったら、もうこれ以上は前には進めない。
 近くに麻屋先生と文美がいる。
 いちばん頼りになる味方。
 闇から受けている邪気、シヨックから立ち直ろうと彩音はお大きな吐息をもらした。
 リラックス。リラックス。
 肩の力をぬいて。
 ところが、ホコリが舞い上がった。
 いくら彩音が肺活量があるといっても、これは過剰な反応だ。
 闇も神経過敏になっているのかもしれない。
 それとも……おもわぬ敵の侵攻によろこび、はしゃいでいるのか。
 視界がゆらいだ。
 一瞬だけだったが、赤く光る両眼に睨まれているような感じがした。
 幻覚だ。
 こんなことがあるわけがない、幻覚だわ。
「とりこまれるな。彩音、なにもいまのところは、見ないほうがいい」
「キャ」
 衣をさくようなドハデな悲鳴。
 彩音は資料ナンバー21のダンボール箱をとりおとした。
 ウジ虫がぬらぬらともりあがってうごめいていている。
 腕をはいのぼってきた。体中にウジ虫がはいまわっている。
 恐怖の悪寒が広がった。
 彩音の顔が恐怖にひきつる。 
 たまらず、箱をとり落としたのだった。
「なんでもない。なにもいない。ワームでもいる思ったろう。こういうときの定番だからな」
 麻屋が箱をひろいあげ『女工哀歌』をとりだす。
「うそぅ。わたしたしかに見たよ。先生のいうとおり、ウジ虫がいっぱいいたの」
「彩音、落ち着いて。やつらの罠にはまっちゃだめ」
「うん、ふんふん、やっぱりな」
 麻屋が……彩音を笑わせようとして漫画チックな声をだしている。
 彩音のコピーは本文だけだった。
 最後のページに取材ノート、がはさんであった。
 それを麻屋は読み出していた。
「林純平は、恋人澄江は上沢寮監に殺されたと思いこんだのだな。それで敵を討つため剣の修行にうちこんだ。その怨念につけこまれ吸血鬼に噛まれこの鹿沼にもどって、澄江を探し、さまよいながらひとにあだなしているのだ」

 パンフレットには、わが家の純平叔父さんに関する伝承に触発されてこの『女工哀歌』を著した。と、書いてある。         
「あわれなものね」
 文美がぼそっとつぶやく。
「曾祖父(ひいおじいちゃん)は、林純平にやられたの」

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