田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

慈覚大師/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-08-17 03:32:16 | Weblog
19

「そんなことはない。
味方がいるのだ。
ぼくと翔子は、ふたりだけではない」
赤いバラをもって見舞いに来てくれたGGとmimaもいる。
「そうよ。
純のいうとおりよ。
わたしたちもついているから……」
とmimaにも励まされた。
「平安時代の鬼が現世に降臨したのはまちがいない。
『宇治拾遺物語』巻第十三の十。
慈覚大師、纐纈城に入り行く事――にでてくる、
血ぞめの赤い布をつくっていた吸血鬼が、
大師の一行にまぎれて日本に渡来した。
あるいは吉備真備だったかな? 
ともかくあの時代に鬼が渡来したことにはまちがいない。
それを封じ込めた阿倍晴明の陰陽師の力もうすれてきたのだろう。
たいへんなことになったな。
慈覚大師は下野の人。
それでわたしたち純もそうだが、
野州(下野)夢道流には鬼と闘う術があるのだ。
ヤッラは鬼と呼ばれる存在だが、
大きな壺に人の血をしぼってため、
それで布を染めたと書いてあるのだから、
いまでいう吸血鬼だ」
「百子さんも吸血鬼の出現に気づいている。
たしかにわたしたちはふたりだけではない。
ありがとう、mima」
幸い、翔子の噛まれた傷口からはウイルスは注入されていなかった。
噛まれた傷だけだつたので明日は退院ということになった。



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お肉屋さんでコロッケかつたよ。 麻屋与志夫

2010-08-14 19:43:47 | Weblog
8月14日 土曜日

昨日から孫が2人できている。
駅まで迎えに出た。
帰路、お肉屋さんによって揚げたてのコロッケを買った。
「わぁ、お肉屋さんで買い物したの初めて」
中一の男の子と六年生の女の子が、ふたりで感激している。
すぐそばに、八百屋さんもある。
楽しそうにのぞきこんでいた。

買い物はスーパーときまってしまっている。
だからどこにいっても、同じマニアルの受け答え。
同じ商品。同じ看板。
商店のおじさんやおばさんと、
天候の挨拶をしたり、
知り合いの噂をしたり、
ときには値切ったり――会話のある買い物風景がめずらしいとよろこんでいた。

このところ、母親による子どもへの暴力のニュースがおおい。
痛ましいことだ。
部屋にテープでめばりして閉じこめ、
わが子を殺してしまった母親がいた。
痛ましいことだ。
いちばん信頼できる母親からの暴力。

会話によって人と人とがつながっていた時代が懐かしい。
わたしは、生きていくのにはほかの人との会話が大切だと思う。
ところが会話をひつようとしないような社会になってきている。
お盆で、帰省して、おおいに家族の会話を……はずませてもらいたいものだ。
会話がたりない。おたがいを理解しようと話しあうことのない社会が、鬼母を生む。


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謎の献血車/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-08-13 03:54:50 | Weblog
18

翔子と百子は赤十字のロゴのハデナ移動献血車の窓からなかを覗いた。
車の前方の街角公園のテント。
白衣の看護師がいる。献血をする長蛇の列ができている。
そして車のなかでは。そんな。現実に見たものを信じられない。
後部座席で利き酒でもするように――病院からぬけだしてきた者たちが、
カップいっぱいの血? を飲んでいる。
その不気味なところは、
極あたりまえな――日常茶飯事として
――それこそ文字通りお茶しているように、
血を飲んでいることだ!
翔子は、すわこそ、鬼切丸を抜こうとした。
あれいらい、肌身離さず隠しもっている。
「だめよ。何人いると思っているの」
「だって……こんなの見過ごせないシ」
「わたし、翔子に見せたかったの。
そして無暗に刀を抜いて戦うより、このことをしっかりと見てもらいたかったの」
「それでは問題解決にはならないわ」

百子に促されて、献血車から離れた。
「あの車ってギミック? あの吸血鬼だってギミックだよね」
「だったら……どんなに幸せか――。鬼がおおすぎるわ……」
「赤十字社の人ってどこ」
「テントで働いていたひとたちは本物よ。
車のなかの人は、一時的に拘束されていたのよ」
「だったらどうしても、助けださないと」
「鬼のヒト睨みで、催眠にかかっているのよ。鬼が去れば、正気にもどるわ」

百子はなんども目撃しているのだ。
翔子にははじめての体験だった。

「カンヅカレタミタイ。つけられている」
「わたしにもわかる」と翔子。

百子はさすがクノイチ。
薄暗がりを病院に向かって走りだす。
気配を消している。夜風のように街を通り抜けていく。
いつしか、翔子は百子にはぐれてしまった。
病院にいたからだろう。体力がおちていた。

いや、百子は敵を独りで引き受け、翔子から引き離したのだ。 
翔子はナースセンターに寄った。
「百々さんいます」
「……?……」
「このセンターはドドという看護師はいませんよ」
「ほかの病棟には」
翔子があまり執拗にきくので看護師名簿で調べてくれた。
ドドモモコは、どの病棟のナースセンターにもいなかった。
PCから離れた看護師に「さあ、村上さんヤスミマショウ」といわれてしまった。
わたしネボケタ、と……思われている。


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時間ですよ !! 四時三十五分  麻屋与志夫

2010-08-11 05:46:08 | Weblog
8月11日 水曜日
目覚めた。
古い柱時計の時を刻む音がしていた。
ヤケニ大きく耳もとでひびく。
4時35分。
しまつた。
寝過した。
塾のはじまる時間を5分も過ぎてしまった。
あわてて隣の部屋――教室のクーラーをつけた。
階段をかけおりる。
玄関に急ぐ。
鍵が閉まっていた。
カミサンが昼寝の時間なのでキーをしめたのだ。
塾生のHさんは帰ってしまった?
……だろうか??
「寝過しちゃったな。起きて。起きて」
カミサンがキングサイズのベッドで眠そうにおきあがる。
「今何時だとおもうの」
「なにいってる。4:36だ」
カミサンの部屋のデジタル時計を見る。
「今度からは昼寝するときも、
目覚ましかけておいてよ。
Hさんのところへ、電話して。
帰ってしまったかもしれない」
カミサンがプッと笑いだした。
「いま、何時だと思っているの」
「ああ、もう37分だ。
正確に、四時三十七分だ!!……」
「朝のでしょう。わたし今少し寝るわ」
わたしはションボリと階段を上がった。
教室のクーラーのスイッチを落とした。
塾の始まる時間までには。
わたしの部屋のアナログ時計の時針は。
文字盤を一回転しなければいけない。
わたしは寝ぼけた。
寝ぼけていた。
超ハズカシーイ。
このまま寝るわけにはいかない。
PCにむかった。



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百々百子/さすらいの塾講師  麻屋与志夫

2010-08-10 17:53:13 | Weblog
17

看護師が検温にきた。
いつもの彼女とちがった。
ネームを翔子はみた。
百々。
「何て読むの? 珍しい名前ですね」
「百々(ひゃくひゃくひゃくこ)百子。名前まで入れてこう書くのよ。珍しいことは確かね。いままでに読めた人いないの」
メモに書いた名前にふりがなをふってくれた。
どどももこ。
百々百子。
「それより、翔子さん。
村上翔子。
都市伝説になっている悪霊ハンター。
吸血鬼ハンター。
鬼殺し。
何とでも呼べる、あの伝説の……」
「わたしそんな有名じゃないシ」
翔子がテレル。
そんな翔子の手をとった。
百子にひきおこされた。
看護師がなにするの。
シッーと唇に人差し指をあてている。
百子をフォローする。
薄暗い廊下にでた。
もう病室は両脇にない。
なにかブキミ。
なにか出そう。
なにかでるとすれば、妖怪、お化け、悪霊、だろう。
「翔子さんに、みてもらいたいものがあるの」
ときおり扉はあるのだが、何のための部屋か表示がない。
物置? 空き室? 扉が開く。
妖気が流れ出る。
煙のようだ。
そして廊下の隅まで流れていきそこで煙が立ち上がり、人型になる。
吸血鬼らしい後ろ姿だ。
歩み去っていく後ろ姿が異様だ。
腰のあたりがなにかすごく不潔な感じがする。
老人なのか。
腰が曲がっている感じ。

「つけてみよう。百子さん」
「わたしははじめからその気だった。ひとりでは不安だったの。わたしはクノイチ。伊賀忍者の百地三太夫の末裔」

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純、愛してる/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-08-08 11:18:54 | Weblog
16

翔子のモノローグ。
ゆらゆらと意識が戻り始め……
なにかにすがるような気持ちで現実の世界に戻ったとき、
そこに純がいた。
純がわたしに話しかけていた。
その声をたよりにわたしは目覚めたらしい。

ゆらゆらと海藻のようにゆらぎながら暗い海の底から浮かびあがったようだ。
白いシーツによこたわっていた。
ベットの脇に、そこに純がいた。
ながいこと暗闇で純のことを想っていた。
純に手をひかれていた。
鶴巻南公園でよく遊んだ。
砂場で砂のお城でもつくっていたのかしら。

「このお城でお兄ちゃんとケッコンスル。
翔子、いつまでもお兄ちゃんといたいもん。
この砂の城の、翔子、お姫さまなんだよ」
「ああいいよ。
お兄ちゃんも、翔子のことすきかも」

約束したのに、わたしが年頃になったとき、いなかった。
約束したのに、わたしが愛することが、どういうことか。
わかりかけてきたとき、純はわたしのそばにいなかった。

病室なので、
見舞いに訪れるひとがいないときは、
呆然とするほど孤独な時間が流れる。
その独りぼっちの時間に、純のことを想った。
家族の絆について考えた。
とくにいまはいない、かならずどこかで生きているはずの父について……。

純と2人で、悪霊とたたかえる。うれしい。
アイツラは『Upir』ユフィールと東欧地方では総括して呼ばれる存在。
吸血鬼、であり魔女、人狼だ。
わたしたちの敵は平安の昔からの日本では鬼。
何代にもわたってわたし達の家系の者は、
鬼と闘いつづけてきた。
戦いに勝利してはやく純といっしょになりたい。
結婚したい。
子どもを産みたい。

純、愛してる。


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鬼子母神症候群/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-08-07 08:35:23 | Weblog
15

「噛まれてはいないよ」
見舞いに来てくれた紅子が翔子の首筋、
耳の下あたりを気にしている。
「肩の肉はごっそりもっていかれたけど、
首筋はかまれてないシ」
「よかった。はやく元気になってね」
「うれしいこと、いってくれるのね」
「何度か会って、闘ったりもしたけど、
いや……たたかったからわかったのよ。
翔子はわたしたちの敵ではない。
それをオトコたにも納得させた。芝原も柴山も味方だから。
ほかのおとこたちだって心配ない。
いずれわかってくれる。
かれらは、ガラにもなくびびっている。
この東京にきてあまりに日本原産の吸血鬼――鬼がおおいので、恐れをなしてる。
わたしと翔子の敵は、墓地で戦ったアイツらにキマリよ」
「GGにきいたの。
奈良は平城京遷都1300年祭りでいま賑わっているの。
そして、平城京を荒らした鬼も復活したの。
召喚してしまったのよ。
だから日本全土で鬼のつく行為をする人がふえているんだって。
鬼母(おにはは)の幼児虐待がひろがっている。
鬼子母神症候群が発生しているのよ。
それを世間の人が起想しなければいけないんだって。
子どもすら食べた鬼母がいた平城のむかしがこの平成によみがえってしまったらしいの」
「闘わなければ!! 翔子はやくよくなって」
「いまだって闘える。右手で剣は使える」

翔子の左肩の傷は、人狼の噛み傷だ。治りが遅滞している。
病室のテレビは、100歳以上の老人の行方不明者について報じていた。
報じているだけで、その根底にある家族の愛の欠落にたいしては、沈黙を守っている。

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暑いですね  麻屋与志夫

2010-08-06 05:46:15 | Weblog
8月6日 金曜日

●暑い。昨日は三年ほどお世話になったPC教室最後の日だった。教室を辞して、バス停にでたが、時間の表示の仕方がよくわからない。ままよ、歩くまで。カミサンは紫外線を気にしていたが結局付いてきた。舗道からの照り反しが、熱射のようだった。この道をPC教室に通いだしたころのことをおもっていた。むかしの文学の友、Kさんに会った。彼がPCで小説をかいているのを知って大いに励まされた。それで教室にかよいだした。あれからもう三年経ってしまった。

●40日ぶりで「さすらいの塾講師」アップした。ところが一回分かいてあったのを忘れていた。こんなまちがいは、いままでやったことがない。暑さのためと、カミサンと笑いあった。内心はおだやかではない。だって、集中力が落ちてきたのは身をもって感じている。どうなることやら。トホホ。

●言い訳がましいが、この40日間、サボっていたわけではない。400枚の長編を二本かきあげた。前から書き継いでいて気になっていたモノを、一応は完成させた。まだ整合性に欠けた箇所がある。達成感がない。悲しい。

●松岡圭祐の《千里眼》シリーズをまとめて再読した。読みだしたら止められない。おもしろいこと請け合いです。暑気避けにいかがですか。夢中でヨンデ、暑さを忘れた。電気代の倹約になった。笑い。

●週末はゆっくりと田舎暮らしを楽しむことにした。「さすらいの塾講師」もたぶんぼつぼつ載せられるとおもいますので、よろしくご愛読ください。

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神代バラ園/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-08-05 17:29:51 | Weblog
13 神代バラ園

「しばらく夜の街を歩いていなかったから。
あまりのかわりように、おどろきました」

GGは妻と向かい合っていた。
妻のmimaの隣には義父が座っている。

「わしだって夜の新宿や池袋のようすはわからない。
おどろいた変化だな」
「外人のほうが肩で風切っている。
ルーマニアの吸血鬼や人狼が跋扈していました」
「殺伐とした世の中になったな」
老吸血鬼がさびしそうにいった。
「長生きしすぎたようだな」
雑司ヶ谷の霊園での出来事をGGが説明したところだ。
「このままほうっておくわけにはいかないわね」
「翔子を守らないと。さいわい紅子がみかたしてくれている。
蝙蝠を呼び集めて人狼を攻撃させた」
「おとうさん。どうする」
「戦争は起こらないだろうとおもってきた。平和ボケしていたのだ」
GGとmimaはつれだって外にでた。
バラ園は濃い霧がおおっていた。

注 ごめんなさい。昨日(14)と今日(13)の章がいれちがっています。


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連載再開/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-08-04 13:29:48 | Weblog
14 共闘

「平和ボケしていたのよ。
でもその間に、ナイフによる殺人が増えていた。
だれでもいいから殺したかった。
そんなことをシラッと言い切るシリアスキラーが現れるようになった。
それもつぎつぎと。
子どもをガムテープで目張りした部屋に閉じこめて殺す。
洗たく機に放り込んで殺す。そんな母親がいる。
吸血鬼や人狼の狂気がひとびとに伝播しているのよ」

GGはひさしぶりで会ったカミサンの言葉に耳を傾けていた。
バラ園はいつしか霧雨となっていた。
視界が狭まった。
バラの匂いは一層つよくなった。
「mimaと知り合ってから何年になるのだろう。
おかげで目にミエナイモノが見えるようになった。
邪悪なものと戦ってきた」

吸血鬼という言葉は使えなかった。
吸血鬼と一言で括っていうわけにはいかない。
彼女だって吸血鬼の特性を幾つも備えている。
彼女はマインドバンパイァなのだ。
まず歳をとらない。
いや時の流れの中に生きているのは確かなのだが。
彼女の周囲だけ、時はゆったりと流れているのだ。
それであまり同じ所には住めない。
ふたりは愛し合っているのに別居することになっている。

「おれに死に場所を用意してくれたような気がする。
いつかはこういう事態になるとは覚悟していた」
「どうしてそんなに弱気になったの。いつものGGらしくない」
「翔子が傷つくのを阻止することができなかった」

あるかないかの雨音を藤棚の下できいていた。
「長いお別れになるかもしれない」
「わたしにさよならを言うために来たの。
わたしたち夜の種族が。
あなたをこのままルーマニアの吸血鬼や人狼と闘う場に独りいかせるとおもうの」
「だが、これはわれわれ人間を狩る悪意あるモノとの戦いだ。
マインドバンパイァのmimaたちを巻きこむわけにはいかない」
「なにをいまさら、ずいぶんと他人行儀なのね。
いままでだって共闘してきたじゃないの」

「そういうことだ」姿は見えないが義父の声がひびいた。
「バラ造りをしながら歳をとる……わが一族には平和がつづきすぎた。みんな血がさわいでいる」
 血が騒ぐ。吸血鬼の血が騒ぐとはどういうことなのだろう。
ジョークともとれる義父の言葉が新たなる戦いの宣言となった。
「ありがとう」
GGは涙声になっていた。
「ありがとう」


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