二人の天才
ミチコはベランダへと続く窓の前で立ち尽くしていた。
洗濯物が満載のかごを手に持ったままだ。
重い。
(よし)
ミチコは窓を開けた。
「おはよう」
隣のベランダから声が聞こえてミチコは飛び上る。
隣に住むジュリが挨拶の声をかけてきた。悪気が無いのは分かるが、ミチコがベランダに出るのを待ち構えていたタイミングだ。
双子の妹のジュリが分譲マンションに越してきたのは半年前。事前の相談は無かった。
妹は突然やってきた。
「今日の予定は」
「特に無い」
「一緒に買い物にいかない」
「分かった」
ミチコは手早く洗濯物を干し終えた。
「またあとで」
自室に入ったミチコは後ろ手に窓を閉めて、その場に座り込む。
隣人がストーカーの生活。
始まりはジュリからの相談だった。
「私、おねえちゃんになりたい」
ミチコは耳を疑った。
「おねえちゃん、私のお金自由に使っていいから」
悪魔のささやきに近い提案を妹からうけて、ミチコは提案を了承していた。
ジュリはIT会社を立ち上げ、有名にし、会社ごと売り払っていた。
ジュリの資産がいくらあるのか、ミチコは知らない。
ジュリはミチコと同じ生活サイクルをまねしている。同じ時間に起きて、同じ時間に出勤する。
二人のうち、どちらか一人が仕事をする。
会社は人間が入れ替わっている事実を知らない。
同僚も知らない。
待ち合わせをして、同じ時間にそれぞれの部屋に帰宅し、同じ時間に眠る。
ジュリはミチコの生活音と気配を忠実に追いかけている。
何のためなのかミチコには分からない。
天才のやることは分からない。
ジュリにつきあっているミチコも天才の一人。