夢のデバイス
トモオは目覚まし時計の音で目覚めた。
寝汗をびっしょりかいていた。
いやな夢だった。
反りの合わない上司を風呂釜でゆでダコにした。
上司の残像を振り払うように首を二、三度ふる。
トモオは朝食をトーストとコーヒーと決めている。
憂鬱な気分を変えようと、コーンフレークが食べたいと思った。
トモオは寝床からよろよろと起き上がり、キッチンに行った。
テーブルにはコーンフレークがある。
自動調理ロボが用意したものだ。
トモオは自ら購入した機械「エッジ」に驚くばかりだった。
一週間前に発売されたばかりの機械「エッジ」
それは、世界中が待ち望んだ機械だった。
自分が思うだけ。
それだけで、すべての機械が動く。
例えば、テレビのチャンネル。
例えば、部屋の電気。
例えば、車の自動運転。
自動運転は、すべての車に搭載されてもうずいぶん時間が経つ。
考えるだけで目的地に連れて行ってくれる。
例えば、帰宅前にエヤコンのスイッチを入れておく。
ありとあらゆるものが、考えただけで実行された。
トモオは身支度を整え、車に乗りこむ。
(会社)
トモオは心の中で指示した。
かすかな振動をともなって、ガレージから車がでる。
(ニュース)
車内のモニターに、沈痛な面持の女性キャスターが原稿を読み上げる画面がうつる。
「昨夜、エジン・カンパニーに勤める会社員ヤマモト・コージさんが死亡しました」
「まさか」
トモオはせまい車内で思わず中腰に立ち上がる。
ヤマモト・コージは上司の名だった。
キャスターは続ける。
「原因と思わしきものが複数あり、奇妙な状況となっております。まず、ガス漏れが発生しており、ガス中毒の可能性があります。そして、持病薬の服用する量を誤った形跡もあります。風呂で意識を失ったかもしれません。その後、風呂釜の温度が異常に上昇したことによるのか……そして最も奇妙なことは、複数の無人自動運転の車がつっこんでいます。警察は事件と事故の両方で捜査を開始するとの発表をいたしました」
すとんと腰砕けたトモオは座席に腰をおろす。
「夢ではなかったのか……まさか俺か?」
同時刻、「エッジ」を購入したトモオの同僚たちも絶望を感じていた。
同僚たちもまた、すくなからず上司の振る舞いに悩んでいた。
そんな中、昨夜、悪夢をみた。
あるものは上司のキッチンの自動調理器にガスの元栓を開けさせる夢を見ていた。
また、あるものは自動ピルケースに収まっている上司の薬の量を変更した夢を見た。
また、あるものは、複数の車の自動運転の目的地に上司の住所を入力した夢を見ていた。
一ヶ月後、「エッジ」の致命的欠陥が発覚した。
「エッジ」発売中止及び回収となった。
ヤマモト・コージさんの件はまだ捜査中である。
トモオは目覚まし時計の音で目覚めた。
寝汗をびっしょりかいていた。
いやな夢だった。
反りの合わない上司を風呂釜でゆでダコにした。
上司の残像を振り払うように首を二、三度ふる。
トモオは朝食をトーストとコーヒーと決めている。
憂鬱な気分を変えようと、コーンフレークが食べたいと思った。
トモオは寝床からよろよろと起き上がり、キッチンに行った。
テーブルにはコーンフレークがある。
自動調理ロボが用意したものだ。
トモオは自ら購入した機械「エッジ」に驚くばかりだった。
一週間前に発売されたばかりの機械「エッジ」
それは、世界中が待ち望んだ機械だった。
自分が思うだけ。
それだけで、すべての機械が動く。
例えば、テレビのチャンネル。
例えば、部屋の電気。
例えば、車の自動運転。
自動運転は、すべての車に搭載されてもうずいぶん時間が経つ。
考えるだけで目的地に連れて行ってくれる。
例えば、帰宅前にエヤコンのスイッチを入れておく。
ありとあらゆるものが、考えただけで実行された。
トモオは身支度を整え、車に乗りこむ。
(会社)
トモオは心の中で指示した。
かすかな振動をともなって、ガレージから車がでる。
(ニュース)
車内のモニターに、沈痛な面持の女性キャスターが原稿を読み上げる画面がうつる。
「昨夜、エジン・カンパニーに勤める会社員ヤマモト・コージさんが死亡しました」
「まさか」
トモオはせまい車内で思わず中腰に立ち上がる。
ヤマモト・コージは上司の名だった。
キャスターは続ける。
「原因と思わしきものが複数あり、奇妙な状況となっております。まず、ガス漏れが発生しており、ガス中毒の可能性があります。そして、持病薬の服用する量を誤った形跡もあります。風呂で意識を失ったかもしれません。その後、風呂釜の温度が異常に上昇したことによるのか……そして最も奇妙なことは、複数の無人自動運転の車がつっこんでいます。警察は事件と事故の両方で捜査を開始するとの発表をいたしました」
すとんと腰砕けたトモオは座席に腰をおろす。
「夢ではなかったのか……まさか俺か?」
同時刻、「エッジ」を購入したトモオの同僚たちも絶望を感じていた。
同僚たちもまた、すくなからず上司の振る舞いに悩んでいた。
そんな中、昨夜、悪夢をみた。
あるものは上司のキッチンの自動調理器にガスの元栓を開けさせる夢を見ていた。
また、あるものは自動ピルケースに収まっている上司の薬の量を変更した夢を見た。
また、あるものは、複数の車の自動運転の目的地に上司の住所を入力した夢を見ていた。
一ヶ月後、「エッジ」の致命的欠陥が発覚した。
「エッジ」発売中止及び回収となった。
ヤマモト・コージさんの件はまだ捜査中である。
地獄ジグソー
時間切れになると、土台が飛び上がる。
結果、そろえたパーツがバラバラになる。
時間制限付き、地獄のジグソーパズル。
地獄ゲームシリーズ
賽の河原の石づみゲーム。
最後の石を積み上げた瞬間、石に内蔵された磁石のN極、S極が反転する。
結果的に、一生積み上がらない。
地獄健康器具シリーズ
足つぼマッサージ(針山バージョン)
長さ10センチ以上ある針がまばらにマットに並んでいる。
針山マットに立つこと自体が地獄。
地獄湯船シリーズ
地獄バスボムシリーズ。
溶け出すと湯船が真っ赤になる。
血の池バスボム。
炭酸ガスの勢いがえげつないバスボム。
湯船から体が飛び出す勢い。
ちょっとした爆発事故レベル。
湯のほとんどが飛び出て無くなる。
時間切れになると、土台が飛び上がる。
結果、そろえたパーツがバラバラになる。
時間制限付き、地獄のジグソーパズル。
地獄ゲームシリーズ
賽の河原の石づみゲーム。
最後の石を積み上げた瞬間、石に内蔵された磁石のN極、S極が反転する。
結果的に、一生積み上がらない。
地獄健康器具シリーズ
足つぼマッサージ(針山バージョン)
長さ10センチ以上ある針がまばらにマットに並んでいる。
針山マットに立つこと自体が地獄。
地獄湯船シリーズ
地獄バスボムシリーズ。
溶け出すと湯船が真っ赤になる。
血の池バスボム。
炭酸ガスの勢いがえげつないバスボム。
湯船から体が飛び出す勢い。
ちょっとした爆発事故レベル。
湯のほとんどが飛び出て無くなる。
あっち向いてホイ
東の国に、あっち向いてホイ最強の男がいるとジョーは聞いた。
年号が令和と呼ばれていた時代からずいぶんと時間が経っていた。
過去の時代では考えられないほど「あっちむいてホイ」の重要度がジョーのいる世界では上がっている。
内線に嫌気のさした首相やゲリラのトップが「あっちむいてホイ」の勝負を申し出るようになっていた。
絶対に負けれない勝負には、戦略、攻略法の研究が欠かせない。
当たり前の話だが、「じゃんけん」の勝ちが勝利への近道となる。
相手のじゃんけんパターンを知るため、半年以上の尾行及び観察が秘密裏に実行される。
無意識下の、じゃんけんパターンのすりこみも同時に行う。
国家をあげてのあっちむいてホイ戦争が密かに展開されていた。
あっちむいてホイの訓練だけを積む特殊部隊をそれぞれの国が用意している。
国家保安部に所属するジョーは緊張をできるだけ出さないように会場に入った。
代理戦争ならぬ、代理あっちむいてホイ、略して代ホイが始まる。
半年前、ジョーの属する国家に他国から申し出が入った。
油田を有する土地を巡っての争いだ。
ジョーが時間ぴったりに室内に入る。
相手はすでにそこにいた。
「今日はよろしく」
Tシャツ、Gパンを身につけた、アジア系の若者が手をあげた。
ジョーは無視する。
これは代理戦争なのだ。
遊びではない。
若者は不服そうな表情を浮かべた。
ジョーは目の前にいる青年の情報をいやというほど、知りつくしている。
相手は自分のことをどれほど知っているのか。
おそらく、同程度の諜報活動は行われているはずだ。
(レディ・セット)
室内のアンプから、合成音声が流れた。
勝負が始まる。
ジョーと青年は向かい合い、立った。
青年の瞳には自信があふれている。
今日の勝負に、ジョーは秘密兵器を用意した。
ジョーはメガネを押し上げる。
メガネ型デバイスをとおして、相手の筋肉の動きを瞬時に判断する。
相手のじゃんけんの出目、指し示す指の動き、首の動きを100%予想できる性能をそなえている。
分析から得られた指示の動きが出来ること。
ジョーがここにいる理由は、ジョーの反射神経が人並み外れているためだった。
(サイショ・ハ・グー)
アンプから、勝負のかけ声が流れた。
日本語が世界標準ルールに採用されている。
(ジャン・ケン・ポン)
ジョーのデバイスにはグーのマークが瞬時に表示される。
(もらった)
ジョーはパーを出す。
しかし、青年はチョキを出した。
(まさか)
ジョーは驚愕を隠せなかった。
青年の口もとには笑みがあった。
「アッチ・ムイテ・ホイ!」
青年が絶叫した。
ジョーのメガネ型デバイスには、青年が右を指すと表示される。ジョーは下を向いた。
青年の指は上を指した。
(なぜだ、なぜ予測が的中しない)
(ジャン・ケン・ポイ)
アンプから二巡目の勝負を告げるコールが響く。
ジョーは役に立たないメガネを投げ捨て、瞬時にプランBへと移行する。
プランBの絶対条件は、ジャンケンには必ず勝つこと。
半年間のプロファイル分析がここで役に立つ。
彼の闘争心は、相手を殴りつけるグーを出す確立が高い。
ジョーはパーをだす。
青年はグーだ。
「アッチ・ムーイテー・ホイ!」
ジョーは青年のあごもろとも粉砕する角度で上を指す動きをくりだす。
アッパーだ。
青年のあごにジョーの拳がふれる瞬間、青年は横を向きながら背中を後ろにそらせてかわす。
ジョーのこぶしは空をきる。
捨て身の禁じ手をかわされたジョーは愕然とした。
青年の口元は、恐ろしい角度で口角が上がっている。
笑っている。
次の勝負が始まった。
ジョーはジャンケンに負けた。
青年はアッチ・ムイテ・ホイを叫び、右手をむちのように振った。
ジョーは腕の動きと逆に首を振る。
逆にふったジョーの首を、いつの間にか同じ方向に動いている青年の手ががっちりとつかんでいた。
ぐりん
ジョーの首が右方向に加速し、真後ろにむく。
ジョーは、ばたりとその場に崩れ落ちた。
勝者である青年が立っている。
勝利を確認した青年は無言で部屋を後にした。
青年は迎えの車に乗り込む。
後部座席に、前もって乗っていた白衣の男に青年は自分の右手を差し出す。
白衣の男は青年の肘に手を添える。
かすかな音とともに右手が取り外される。
青年の右手は、高度なテクノロジーが搭載された義手をつかっていた。
ジョーの筋肉の動きを読み、動きを予想する仕組みは、義手のせいで無効になっていた。
東の国に、あっち向いてホイ最強の男がいるとジョーは聞いた。
年号が令和と呼ばれていた時代からずいぶんと時間が経っていた。
過去の時代では考えられないほど「あっちむいてホイ」の重要度がジョーのいる世界では上がっている。
内線に嫌気のさした首相やゲリラのトップが「あっちむいてホイ」の勝負を申し出るようになっていた。
絶対に負けれない勝負には、戦略、攻略法の研究が欠かせない。
当たり前の話だが、「じゃんけん」の勝ちが勝利への近道となる。
相手のじゃんけんパターンを知るため、半年以上の尾行及び観察が秘密裏に実行される。
無意識下の、じゃんけんパターンのすりこみも同時に行う。
国家をあげてのあっちむいてホイ戦争が密かに展開されていた。
あっちむいてホイの訓練だけを積む特殊部隊をそれぞれの国が用意している。
国家保安部に所属するジョーは緊張をできるだけ出さないように会場に入った。
代理戦争ならぬ、代理あっちむいてホイ、略して代ホイが始まる。
半年前、ジョーの属する国家に他国から申し出が入った。
油田を有する土地を巡っての争いだ。
ジョーが時間ぴったりに室内に入る。
相手はすでにそこにいた。
「今日はよろしく」
Tシャツ、Gパンを身につけた、アジア系の若者が手をあげた。
ジョーは無視する。
これは代理戦争なのだ。
遊びではない。
若者は不服そうな表情を浮かべた。
ジョーは目の前にいる青年の情報をいやというほど、知りつくしている。
相手は自分のことをどれほど知っているのか。
おそらく、同程度の諜報活動は行われているはずだ。
(レディ・セット)
室内のアンプから、合成音声が流れた。
勝負が始まる。
ジョーと青年は向かい合い、立った。
青年の瞳には自信があふれている。
今日の勝負に、ジョーは秘密兵器を用意した。
ジョーはメガネを押し上げる。
メガネ型デバイスをとおして、相手の筋肉の動きを瞬時に判断する。
相手のじゃんけんの出目、指し示す指の動き、首の動きを100%予想できる性能をそなえている。
分析から得られた指示の動きが出来ること。
ジョーがここにいる理由は、ジョーの反射神経が人並み外れているためだった。
(サイショ・ハ・グー)
アンプから、勝負のかけ声が流れた。
日本語が世界標準ルールに採用されている。
(ジャン・ケン・ポン)
ジョーのデバイスにはグーのマークが瞬時に表示される。
(もらった)
ジョーはパーを出す。
しかし、青年はチョキを出した。
(まさか)
ジョーは驚愕を隠せなかった。
青年の口もとには笑みがあった。
「アッチ・ムイテ・ホイ!」
青年が絶叫した。
ジョーのメガネ型デバイスには、青年が右を指すと表示される。ジョーは下を向いた。
青年の指は上を指した。
(なぜだ、なぜ予測が的中しない)
(ジャン・ケン・ポイ)
アンプから二巡目の勝負を告げるコールが響く。
ジョーは役に立たないメガネを投げ捨て、瞬時にプランBへと移行する。
プランBの絶対条件は、ジャンケンには必ず勝つこと。
半年間のプロファイル分析がここで役に立つ。
彼の闘争心は、相手を殴りつけるグーを出す確立が高い。
ジョーはパーをだす。
青年はグーだ。
「アッチ・ムーイテー・ホイ!」
ジョーは青年のあごもろとも粉砕する角度で上を指す動きをくりだす。
アッパーだ。
青年のあごにジョーの拳がふれる瞬間、青年は横を向きながら背中を後ろにそらせてかわす。
ジョーのこぶしは空をきる。
捨て身の禁じ手をかわされたジョーは愕然とした。
青年の口元は、恐ろしい角度で口角が上がっている。
笑っている。
次の勝負が始まった。
ジョーはジャンケンに負けた。
青年はアッチ・ムイテ・ホイを叫び、右手をむちのように振った。
ジョーは腕の動きと逆に首を振る。
逆にふったジョーの首を、いつの間にか同じ方向に動いている青年の手ががっちりとつかんでいた。
ぐりん
ジョーの首が右方向に加速し、真後ろにむく。
ジョーは、ばたりとその場に崩れ落ちた。
勝者である青年が立っている。
勝利を確認した青年は無言で部屋を後にした。
青年は迎えの車に乗り込む。
後部座席に、前もって乗っていた白衣の男に青年は自分の右手を差し出す。
白衣の男は青年の肘に手を添える。
かすかな音とともに右手が取り外される。
青年の右手は、高度なテクノロジーが搭載された義手をつかっていた。
ジョーの筋肉の動きを読み、動きを予想する仕組みは、義手のせいで無効になっていた。
泣き声に「公」をつけるルールはどこまで適応されるかシリーズ
ワン+公で「ワン公」
ニャン+公で「ニャン公」
子狐コン+公で「コン公」
小象パオ+公で「パオ公」
ミンミンセミ+公で「ミン公」
ツクツクボウシ+公で「ツク公」
話し合い
私の妄想はあまり歓迎すべきものではない。
被害妄想気味かもしれない。
自分でもそう思う。
近所のおばさんが前からやってくた。
俺A(やばい、挨拶しなければ)
俺B(いや、挨拶しなくてもいいよ。この路地を自然に曲がっちゃおう)
俺A(ここで曲がったら絶対に不自然だよ)
俺B(じゃあどうするんだ。ほら、くるぞ、くるぞ)
俺A(だから挨拶すればいいんだって)
「こんにちは」私は努めて明るい声で挨拶した。
「こんにちは。お出かけですか」
「ええ、ちょっとそこまでエヘヘ」
俺A(おれのこと絶対暗いと思っているねあれは)
俺B(ひとついいこと教えてやろうか)
俺A(なんだよ)
俺B(お前が思っている以上に、人はお前のことには興味なんてないぞ)
俺A(興味がない?)
俺B(そうだ、無関心といってもいい。だから、人がお前のことをどう思っているだろうかと考えること自体が無意味なことだ)
もう一人の俺、Cが口をはさむ。
俺C(なら自由に振る舞っていいってことか)
俺B(Cよ、そこが難しいところだ)
俺C(どこだ?)
俺B(そこだ。他者のなかでしか自分は存在できない。やはり他者の存在は無視してはならない)
俺D(深いな)
普段は無口な俺、Dも熱くなってきたようだ。
俺A(そうだな。深いな。しかし、あまり深く考えないで生きるということが重要だな)
俺BCD(けんのん、けんのん同感だ)
ミニチュアサイズの迷路の前に博士はいた。
自身が開発したおもちゃを観察していた。
迷路をお散歩できるマウス型ロボット。
赤外線通信でほかのロボットとやりとりすることができる。
迷路の中には現在、複数のロボットが放されていた。
「博士、中央の広場でロボットが集まっています」
「どれどれ」
博士と助手は興味深くのぞき込んだ。
迷路の広場には、4台のマウスが集まっていた。
4台は同じロットの同じ機械だ。
うなずきあうように4台は頭をつきあわせて話しているように見える。
この4台は男性に設定されている。
女性の設定のマウスが1台だけ、迷路の中を自由に動いていた。
私の妄想はあまり歓迎すべきものではない。
被害妄想気味かもしれない。
自分でもそう思う。
近所のおばさんが前からやってくた。
俺A(やばい、挨拶しなければ)
俺B(いや、挨拶しなくてもいいよ。この路地を自然に曲がっちゃおう)
俺A(ここで曲がったら絶対に不自然だよ)
俺B(じゃあどうするんだ。ほら、くるぞ、くるぞ)
俺A(だから挨拶すればいいんだって)
「こんにちは」私は努めて明るい声で挨拶した。
「こんにちは。お出かけですか」
「ええ、ちょっとそこまでエヘヘ」
俺A(おれのこと絶対暗いと思っているねあれは)
俺B(ひとついいこと教えてやろうか)
俺A(なんだよ)
俺B(お前が思っている以上に、人はお前のことには興味なんてないぞ)
俺A(興味がない?)
俺B(そうだ、無関心といってもいい。だから、人がお前のことをどう思っているだろうかと考えること自体が無意味なことだ)
もう一人の俺、Cが口をはさむ。
俺C(なら自由に振る舞っていいってことか)
俺B(Cよ、そこが難しいところだ)
俺C(どこだ?)
俺B(そこだ。他者のなかでしか自分は存在できない。やはり他者の存在は無視してはならない)
俺D(深いな)
普段は無口な俺、Dも熱くなってきたようだ。
俺A(そうだな。深いな。しかし、あまり深く考えないで生きるということが重要だな)
俺BCD(けんのん、けんのん同感だ)
ミニチュアサイズの迷路の前に博士はいた。
自身が開発したおもちゃを観察していた。
迷路をお散歩できるマウス型ロボット。
赤外線通信でほかのロボットとやりとりすることができる。
迷路の中には現在、複数のロボットが放されていた。
「博士、中央の広場でロボットが集まっています」
「どれどれ」
博士と助手は興味深くのぞき込んだ。
迷路の広場には、4台のマウスが集まっていた。
4台は同じロットの同じ機械だ。
うなずきあうように4台は頭をつきあわせて話しているように見える。
この4台は男性に設定されている。
女性の設定のマウスが1台だけ、迷路の中を自由に動いていた。
疑い
平日の深夜。アパートのリビング。アキオは一人、ビールを飲んでいる。テーブルの上には飲みほした空き缶が並んでいる。
アキオの背後でとぎれることのない、かすかな水音が響いている。部屋の静寂が余計に強調されるような音だ。間接照明が、横長の水槽を照らす。自慢のアロワナが水底に佇んでいる。アロワナは時折アキオを観察するようなそぶりを見せる。
玄関で音がする。
妻のヨシコが帰ってきた音だ。
「ただいま」
ヨシコはアキオの顔も見ずに洗面所に消えていった。
「遅いんだな」
アキオは妻を追いかけて洗面所のドアの外で声をかけた。アキオはだめ押しの嫌みをもう一言追加する。
「毎日、何の仕事があるのだ」
荒々しくドアが開く。
「仕事だって言ってるでしょう」
ヨシコの目は、つり上がっている。昔はやさしい女だったのに変わってしまったな。アキオは過去を振り返った。
「ちょっと話があるんだけどいいかな」
アキオは冷静になるためにそうつぶやく。
「なんなのよ……」
ヨシコはぶつぶつと言いながらも、リビングのテーブルについた。
「ちょっとこれを見てくれ」
アキオは茶筒のような大きさの物体を置いた。
「なんなのコレ」
ヨシコが指先で触る。そこはちょうどスイッチであり、オレンジ色のライトがゆっくりと光り、消える。その後、光りは青色に代わり、呼吸をするようなリズムで明るくなったり、暗くなったりを繰り返す。
アキオはいつの間にかサングラスをかけている。
「どうして色付きのメガネをかけるの」
ヨシコは状況を理解できないが、しかたなく、無言で点滅を繰り返す光りを見ていた。
ヨシコの動きがだんだんと緩慢になる。その様子をアキオは心の中で秒数を数えながら見ている。
きっかけは半年前。ヨシコがトイレに行った瞬間、テーブルの上に置き忘れたスマホにメールが受信された。見るつもりはなかったが、何となくスマホを手にとってしまった。送信者の名前は男だった。アキオは心の中に黒いものが広がっていくのを感じていた。
アキオはサングラス越しに120秒数えた。この機械の効果は、録画した自分自身の映像で確認済みだった。
「自白装置」とアキオは呼んだ。天才科学者と呼ばれたアキオが妻の真意を確認するために作った。自身の心のストッパーを外す機械だ。
アキオは震える声で聞く。
「お前浮気してるのか」
ヨシコは自分自身と戦うかのように首を振る。ヨシコが口を開いた。
「はい」
アキオは足下の床が無くなるような喪失を感じた。
「どうするつもりだ」
「別れましょう」
「俺は別れない」
「なぜ」
「どうしてもいやだ。絶対に俺は別れない」
ヨシコは、まっすぐにアキオを見た。ヨシコの目は、憎悪とも憐憫ともとれる光りをやどしていた。
次の瞬間、アキオの首めがけてヨシコの両手が絡みつく。
「別れないのなら、死んで」
「息ができない」
アキオは水槽に背中でぶつかりながら立ったまま抵抗する。
「自白装置」の効果だろうか、リミッターの外れた思考は恐るべき力を発揮するらしい。冷静に分析しながらも、どうすることも出来ないことにアキオは気づく。
「死んで!」
口を大きくあけて絶叫とも思える声を上げてヨシコはアキオの首を絞め続ける。
水面をたたき、跳ね上がるような音がアキオの耳に聞こえた。
耐えがたい力で、アキオの首を締めあげていた力が一瞬ゆるむ。
アキオはヨシコを突き飛ばした。
仰向けにヨシコは倒れ込む。
ヨシコの口から奇妙な物体が生えていた。
それはアロワナだった。
正確にはアロワナの胴体としっぽがうごめいていた。
アロワナが、ヨシコの口めがけてはね飛んだのだ。
「俺を助けようとしたのか」
アキオはアロワナと「自白装置」の両方を見た。
「自身の心のストッパーを解放する装置のせいか……」
アキオは目の前の状況を見ながら呆然とする。
アキオは、これからのことをシミレーションする事にした。
「自白装置」の電源を切る。
ヨシコの口からアロワナを引っこ抜いて、アロワナを水槽に戻す。
あとは、俺を殺したいほど憎んでいるヨシコとの関係をどうするかが問題だ。
平日の深夜。アパートのリビング。アキオは一人、ビールを飲んでいる。テーブルの上には飲みほした空き缶が並んでいる。
アキオの背後でとぎれることのない、かすかな水音が響いている。部屋の静寂が余計に強調されるような音だ。間接照明が、横長の水槽を照らす。自慢のアロワナが水底に佇んでいる。アロワナは時折アキオを観察するようなそぶりを見せる。
玄関で音がする。
妻のヨシコが帰ってきた音だ。
「ただいま」
ヨシコはアキオの顔も見ずに洗面所に消えていった。
「遅いんだな」
アキオは妻を追いかけて洗面所のドアの外で声をかけた。アキオはだめ押しの嫌みをもう一言追加する。
「毎日、何の仕事があるのだ」
荒々しくドアが開く。
「仕事だって言ってるでしょう」
ヨシコの目は、つり上がっている。昔はやさしい女だったのに変わってしまったな。アキオは過去を振り返った。
「ちょっと話があるんだけどいいかな」
アキオは冷静になるためにそうつぶやく。
「なんなのよ……」
ヨシコはぶつぶつと言いながらも、リビングのテーブルについた。
「ちょっとこれを見てくれ」
アキオは茶筒のような大きさの物体を置いた。
「なんなのコレ」
ヨシコが指先で触る。そこはちょうどスイッチであり、オレンジ色のライトがゆっくりと光り、消える。その後、光りは青色に代わり、呼吸をするようなリズムで明るくなったり、暗くなったりを繰り返す。
アキオはいつの間にかサングラスをかけている。
「どうして色付きのメガネをかけるの」
ヨシコは状況を理解できないが、しかたなく、無言で点滅を繰り返す光りを見ていた。
ヨシコの動きがだんだんと緩慢になる。その様子をアキオは心の中で秒数を数えながら見ている。
きっかけは半年前。ヨシコがトイレに行った瞬間、テーブルの上に置き忘れたスマホにメールが受信された。見るつもりはなかったが、何となくスマホを手にとってしまった。送信者の名前は男だった。アキオは心の中に黒いものが広がっていくのを感じていた。
アキオはサングラス越しに120秒数えた。この機械の効果は、録画した自分自身の映像で確認済みだった。
「自白装置」とアキオは呼んだ。天才科学者と呼ばれたアキオが妻の真意を確認するために作った。自身の心のストッパーを外す機械だ。
アキオは震える声で聞く。
「お前浮気してるのか」
ヨシコは自分自身と戦うかのように首を振る。ヨシコが口を開いた。
「はい」
アキオは足下の床が無くなるような喪失を感じた。
「どうするつもりだ」
「別れましょう」
「俺は別れない」
「なぜ」
「どうしてもいやだ。絶対に俺は別れない」
ヨシコは、まっすぐにアキオを見た。ヨシコの目は、憎悪とも憐憫ともとれる光りをやどしていた。
次の瞬間、アキオの首めがけてヨシコの両手が絡みつく。
「別れないのなら、死んで」
「息ができない」
アキオは水槽に背中でぶつかりながら立ったまま抵抗する。
「自白装置」の効果だろうか、リミッターの外れた思考は恐るべき力を発揮するらしい。冷静に分析しながらも、どうすることも出来ないことにアキオは気づく。
「死んで!」
口を大きくあけて絶叫とも思える声を上げてヨシコはアキオの首を絞め続ける。
水面をたたき、跳ね上がるような音がアキオの耳に聞こえた。
耐えがたい力で、アキオの首を締めあげていた力が一瞬ゆるむ。
アキオはヨシコを突き飛ばした。
仰向けにヨシコは倒れ込む。
ヨシコの口から奇妙な物体が生えていた。
それはアロワナだった。
正確にはアロワナの胴体としっぽがうごめいていた。
アロワナが、ヨシコの口めがけてはね飛んだのだ。
「俺を助けようとしたのか」
アキオはアロワナと「自白装置」の両方を見た。
「自身の心のストッパーを解放する装置のせいか……」
アキオは目の前の状況を見ながら呆然とする。
アキオは、これからのことをシミレーションする事にした。
「自白装置」の電源を切る。
ヨシコの口からアロワナを引っこ抜いて、アロワナを水槽に戻す。
あとは、俺を殺したいほど憎んでいるヨシコとの関係をどうするかが問題だ。