4.崩壊
石井達は、様子を見ながら余計な検討を始めた。
「多分馬糞が拒否った熱電対だろうね。まだTC-023が0度のままだ。だが、どうも関係者はヒーターが爆発の原因である事を分かっていないようだ。」
そう言う橋口に石井が
「伝えるかい?」
「悪いが馬糞の声を聞きたくないのでNo」
「結局、そんなものだな。人間性が最後にものを言う。」
「ヒーターはTC-023に比例制御で入っている。それを誰も気付いていないな?」
「その内溶け出すぞ。って言うかメインバルブが動かないなら手動で閉じればいいんだが…」
「その役目を誰がやるか?言い合っているだろう。メーカーの連中も結構他人事だからな…」
「不味いな…。この状態では、最悪気化器が溶け落ちるぞ。そうなると手は無い。爆発あるのみだ。」
「もっと後で爆発すると思った。」
すると予想通りヒーターが気化器を溶かしてしまった。
天然ガスが燃焼器とは関係なく火を上げヒーターが点火した。
天然ガスは爆発と消火を繰り返してドンドン爆発が酷くなる。
間欠的に爆発するのでプラントが共振する。そして冷媒のタンクを揺らした。
パイプが破れ、そこから漏れた冷媒が燃焼器の中の爆発に触れて急膨張する。
燃焼器が冷媒の膨張に負けて破裂する。最早メインバルブの近くまでが破壊されていて、露天に出された天然ガスが勢い良く降りしきる。
「また爆発したぞ!どう思う?」
橋口が眼鏡の位置を直した。
「規模がでかい事を見ると、冷媒が入り込んだか?アレだけボンボンやれば、そりゃ冷媒配管系は壊れるだろうさ」
西山は的確に状況を説明する。まるで現場にいるようだ。
「冷媒が燃焼器に接触すると燃焼器も爆発するだろうな。最初の段階で燃焼器がもっと壊れていれば冷媒による膨張もスルーだったろうが。中途半端に密閉状態だったのが悪くしたな。
石井は、もう段階が終わりだなと思った。
「最後の締めとしましょうか?霞ヶ関消防署と、まぁ三住井重工の森田に電話しよう。」
公衆電話のある所まで行くと、早速霞ヶ関消防署にかけた。
「霞ヶ関消防署ですか?今霞ヶ関熱管理組合から通報はありますか?」
「何を?あんた誰?」
「なら取敢えず化学消防車と放水車を出した方が良い。それと東京ガスに連絡を。天然ガスラインを閉鎖する。」
「一体?」
「伝えたよ。じゃぁね」
それと三住井重工の森田に電話した。
「森田さん?状況は?」
「あんた!何処に!」
「ヤバイよ!天然ガスが自然発火するまで時間は無い。それとヒーターの電源、いい加減切れよ、じゃぁね、俺は首になった人間なんで。」
「なに!」
それを聞くと、三住井重工の関係者は逃げ出した。
「あんた!逃げるのか!」
「こっちに何も言わずに動作開始したのはそっちだろう!」
そして、押し問答をしている間に、天然ガスが大気中で爆破した。ヒーターの電源を落としたのだが、それが火花を起こしたのだ。
電源ラインが停止。暗転。そして非常灯が点火、そして爆発。
もうインドネシア人が先を争って逃げ出している。58人もである。そして日本人的なものが三匹。
典型的なパニック状態である。
そして予備燃料タンクが破壊する。中の天然ガスがぶちまけられる。呼吸が出来ず、全員死亡したのは、その5分後である。
暫くして、爆発。勢い良く白煙が、霞ヶ関の中央メインシャフトの排気口から上がる。そして、暫くして炎が後を追う。
霞ヶ関熱管理組合は今完全に崩壊した。
程なく、渋谷、新宿でも同様の爆発が発生した。
歴史上「慶応爆発」と呼ばれる惨事だった。