時々雑録

ペース落ちてます。ぼちぼちと更新するので、気が向いたらどうぞ。
いちおう、音声学のことが中心のはず。

うちのはみがき優等生

2013年02月26日 | 
先週のScience FridayのPodcastの一つ、Ask A Dentist: Facts To Sink Your Teeth Into は個人的に興味深いものでした。「専門家に質問しよう」というコーナーをやってるらしく、今回のテーマは「歯」。よく耳にする話が多いのですが、まともな学者二人に登場してもらってマジメに質問に答えてもらってるので、信頼性は高いのでは。スクリプトがあるの読んでもらえばいいのですが、興味深かったところだけ要約。

 奥歯まで磨ける器用さが足りない人以外、電動歯ブラシじゃなく、ふつうの歯ブラシでも効果は同じ(それはよかった)。
 歯ブラシは柔らかい毛のものを使い、頻繁に取り替えるのがベスト。硬い毛のものはダメ(!)。
 マウスウォッシュに害はない、がたんなる香水(...)。
 歯磨きペーストは使うべし。フッ素の入ってるもので頻繁に磨くと歯の磨耗を遅らせる効果あり(やってます!)。
 歯周病も適切な対処をして、いい状態をかなりの期間キープすれば、歯肉や歯槽骨が回復する(へー)。
 歯ブラシだけでほとんどのところは磨ける。が、フロス(歯間ブラシ)には歯肉炎予防効果あり(やってないなー)。

といったところ。柔らかい毛の歯ブラシを好む人というと、うちの嫁さん。はみがき優等生は彼女でした。実際、歯医者にも賞賛されるらしい。私も歯磨きの習慣はいいと思いますが、ふつうの硬さが好み。今後、変更するか。娘は「辛いからイヤ」と言って歯磨きペーストを使いたがらないけれど、いずれ、慣れてもらうことにしましょう。

と、ここまでは、二人のドクターによれば研究の蓄積からほぼ確実な知見。一方、後半はまだ研究が進行中で、決着はまだらしい、でもさらに興味深いおはなし。それは歯周病と、口腔以外の身体の状態との関係、たとえば、心臓病とか、認知症とか(!)。まさか、と思ったのですが、そういうデータも見つかっているそうで、どっちが原因なのか(たとえば、むしろ、認知症になりやすい人は歯の手入れが悪くて歯周病になりやすいとか)についてはまだ今後、要検討だけれど、歯周病の患部に見られるバクテリアが脳内にも見つかった、というような研究もあって、歯周病のほうが原因、という可能性も検討の余地があるそうな。そんな理由でしょう、相談役の教授のお一人は「口、とくに歯肉は(身体の状況を知らせる)『炭鉱のカナリア』と言ってもいいかも」と。うむ、うちにも気をつけたほうがいい人が。

このPodcastとは別の話で、よく行く温水プールに掲示されていたポスターによると、妊婦が歯周病を持っていると低体重児が生まれる確率が高くなる、なんて研究結果もあるとのこと。ホントかい? と思ったのですが、どうやら、上と同じリクツ(炎症によって生じる物質がこのばあい胎児に悪さをする)が考えられるようです。

ついでに、メモ代わりに、もうひとつ最近のNPRの記事。古代の人類のほうが歯周病などが少なかったけど、農業を開始したころに悪化、産業革命以降の食変化(砂糖の摂取が多くなったそう)で、さらに悪化、という過程が明らかになったとのこと。この件がテーマになったシンポジウムをまとめた話をScienceのPodcastで聞いたことも思い出したので、これもメモ代わりにリンクを貼り付けておきます。興味のある方はぜひ。

愛が足りない...のか?

2013年02月19日 | 
幼稚園の友人や、お隣のおねえちゃんの影響か、このごろ「気持ちはお姫様」うちの娘。具体的イメージは、たぶんプリキュア(以前の憧れ、まいんちゃんは、今はそうでもないらしい)。絵を描かせれば父親だって髪が背中まで届くほど長いし、ロングスカート、目の中には☆。気が向くと、私を(サービスで)「王子様」と呼んでくれます。先週の木曜のバレンタインデー、そんな娘に「今日は大好きな人にチョコとか、お花とか、プレゼントをする日だよ。お母さんに何かあげよう」と持ちかけると、大賛成。彼女の脳内イメージ的には、目にハート、自分の周りにはお花畑、という喜びよう。ということで二人で嫁さんにチョコレートケーキをプレゼント。

------------------

幾度も紹介したFreakonomics Blogでも、Justin Wolfersという経済学者(この記事の時点でミシガン大学教授)がバレンタインに引っ掛けた記事をポスト。Gallupという有名な米国の世論調査会社の調査で、「Did you experience love for a lot of the day yesterday?」という質問に対する回答を分析したもの。概要は、

- 2006年、世界136か国、各国平均1500人くらいに調査
- 世界平均で約70%が「昨日の私は愛に満ちた日を過ごした」
- 米国は世界26位、80%が愛に...
- 日本は107位、約60%が...

掲載されている散布図は、この「愛指数」と、経済学者がまず検討しそうな一人当たりGDPとの相関。ところが見てのとおり、GDPの予測性は高くない。じっさいたとえば、日本のようにGDPが高いのに「愛指数」が低い国や、ルワンダとか、フィリピンとか貧しくても愛に満ちた国がある。パートナーであるBetty Stevensonさん(事実婚で、お二人の間にお子さんもいる)と共著のBloomberg.comのコラムによると、日本は世界7大経済大国のうち、ずば抜けて愛に乏しい。ちなみに、死別や離婚をした人より、結婚してる人のほうが、さらには事実婚の人のほうが愛指数が高い(つまり、自分たちですか)。また、この指数は30~40代でピークを迎えて、その後は徐々に下がっていく、など、いろいろ面白い。

Freakonomicsの記事の意図は、GDPがダメなら、何かいい予測指標はないか、原データを提供するので、読者諸氏も検討してみて、ということ。さっそく反応があったらしく、その日の午後にもう続編が載ったのですが、Wolfers氏がいちばん面白かったと言うのが、実は同じ散布図。ある読者が、「このグラフ自体がハート型をしてるよ」と指摘したのだそう。面白い... かもしれないけど、それがデータの傾向なのだとすれば、これは統計の教科書で回帰分析などの解説で必ず出てくる「直線の相関ではないケース」の典型(二群に切れ)、というハナシでは?

ところで、この「愛」のデータは大規模な調査の一部で、Gallup社のWebsiteに各部門の分析が公開されています。このうち、幸福感等についてはこのStevenson/Wolfersが詳細な分析を寄稿。のぞいてみたところ、経済的に豊かなのに幸福感の低い日本が問題になってました(46-56ページ)。この論文は、経済学の分野で有名らしい「Easterlinのパラドックス」(経済的に豊かになっても幸福感は上がらない)を反証する目的で書かれているのですが(つまり、経済的豊かさは幸福度を上げる)、日本の低い幸福感は、彼らの主張の手ごわい反証になりうるらしい。著者お二人は、過去のGallupの調査の質問文の変化と幸福度の推移などを詳細に分析した結果、「日本も経済の行き詰まりや失業率と幸福感が連動していて、例外とはいえない」と考えているもよう。

ということで、Gallupデータに限れば、経済的豊かさが上がれば幸福感も上がる傾向はたしかにある、ということになりそう。このテーマについては数多の研究があるでしょうし、実際どっちが正しいかは私にはわかりませんが、日本の「愛」や「幸福感」の低さについてはちょっと気になることがあります。

米国にいたとき質問紙調査を受ける機会も多かったのですが、「米国では満足度調査などでは満点以外だと、と調査側が不安を抱く」と聞いたことがあります。たとえば5段階評定で、日本人が「なかなかよかった」と肯定的につけた「4」を、あちらは「5じゃないとは、何か問題が??...」と不安になる(あるいは社内で問題視される)のだとか。

上に戻ると、経済大国の中で抜きん出て得点の低い日本は、本当に幸福じゃないのでしょうか、愛が足りんのでしょうか。そうなのかもしれません。また、われわれが米国で耳にした日本人の評定傾向のお話も、たんなる誤りかもしれません。だとしても、日本人が「4」と付けたときの幸福感と、米国人の「4」とが等価値だと単純に見なしてよいとは考えにくい。このような世論調査における文化間の差に限らず、言語学でよく行われる容認可能性における評定の個人間の等価性など、主観的評定については、「同一の聞き方をして、同一の答えを得たからといって、それを等価値と見なせるとは限らない」という慎重さが必要なように思えます。ちょっとGoogleで調べてみましたが、そういう問題に関する研究は少なからずあるようでした。

------------------

ハートといえば、最近のうちの「姫」は、手を胸の前でハート型にして、ハートミサイルを飛ばしてくれます。それを受けた私はノックアウト...と毎回付き合うのはちょっと疲れますが、遠からず飽きてやってくれなくなるのは確実なので、ありがたくいただいています。

『5000人の白熱教室』 読書録

2013年02月05日 | 読書録
久しぶりに市立図書館に行って、たまたま目に付いた表題の本を借りてきました。Justiceという本や、講義で有名な、ハーバード大、マイケル・サンデル教授が日本で行ってNHKが放送した授業の様子だそうで、DVDに一時間ほどの講義二つのすべてが収録されていて、本はそのTranscriptだけなので、DVDだけを観ました。

前半の授業、立って発言した参加者たちの英語の上手さにまず驚嘆。一人の男性がサンデル教授に問われて、米国の大学に在学中と答えていましたが、同様に、英語について相当のバックグラウンドがある人が少なくなかったと思われます。米国の大学に典型的な、教員は受講者の議論のモデレータ、というタイプの授業を、いわば、珍しい見世物としてわざわざ日本に来てやってもらう。ところが、積極的に発言するのはそういうのに慣れた人、ってのはちょっと妙な光景と感じましたが、ここまで有名になっちゃうと、来る人も「腕に覚えあり」的な人になっちゃう、という傾向になりがちなのかも。でも実は、感心する内容を述べているのは、むしろ日本語で話してる人であることが多かったりして。英語はあくまでコミュニケーションの道具であって、本当に重要なことは、たとえば、米国的な訓練によるディベート技術の向上のようなコトとは別のところにある、ということを再認識。

後半の授業、まず感じたのは、FUKUSHIMA問題はやめてほしいなあ、ということ。少なくとも現時点で、実りある、冷静な議論をするのは非常に困難に思える、もっと率直に言えば、聞くに堪えないから(冷静で、意見にも賛同できる人がいましたが)。サンデル教授が聴衆に向けた問いは、センセーショナルで、白熱した議論を呼び起こしましたが、聞けば聞くほど、悪いのは誰だ、という話はやめたらどうだ、私たちは、これまで直視してこなかった何に目を向け、どんな反省材料を得て、今後どんな責任とリスクを背負うのか、とは考えられんもんか。。。 という思いが募りました。すると、まさにそんなような発言がフロアから(ここでも日本語で)。ひょっとして、この方向に話を誘導する意図があったかと勘ぐりたくなる展開。イベントの性質・制約からか、そこから話しが深まったとは思えませんが、後半の授業も成功に終わったと、サンデル教授は思っていそう。

--------------

サンデル氏の話をはじめて聞いたのは、ここで何度か取り上げた、Freakonomics RadioのPodcastで。去年の5月「魂を売り買いできるか」という話題に、専門家としてゲスト出演。司会のDubnerさんの疑問に、彼の批判するMarket economyの問題点に結び付けて説明しています。その腕前は見事でしたが、納得いかない点も残っています。

このエピソードは、キリスト教徒で、神の存在も信ずる男性(米国人)が、「魂など存在しないという無神論者が、『じゃあ、キミの魂、俺に売ってよ』と持ちかけても、売るのをしぶるのは、矛盾だ。彼らは実は魂があると思ってて、売り渡したくないんだと証明したい」というブログへのコメントが発端。でも私には、彼のロジックは全くのナンセンス。私がもし「売ってくれ」と言われたら売りませんが、それは売りたくないからじゃなくて、たんにそんなもん存在しないと思ってるから。所有してないものを売りわたすのは、不可能、金をもらったら詐欺では(思考や人格を「魂」の反映だと考えるとしても、それは脳の作用の結果で、脳を売ったら死んじゃうから、売らない)。以上おしまい。

...と、そこで話が終わらず、この超有名教授まで引っ張り出して、30分近くの番組を一本作っちゃうとは。無神論者も含め、ことほどさように、Soul(魂)は米国人にとって大事なもの、ということなのでしょうか。「OK、売りましょう」と申し出てきた男性は、「もし他にまた買いたい人が現れたら、『私の魂はヒトデみたいに切ってもまた出てくるんですよ』とでも言ってまた売るかな」とシレっと言ってのける人なので、行動こそ異なれ、私と基本の考え方は変わらないのかもしれませんが。