今日は本年度の仕事を報告します。とはいえ、このBlogのタイトル通りではなく、東北でやったものは一つしかありませんが。
(論文)
1) 吉田健二「韓国語のDenasalizationの音声実態と韻律の影響」アクセント史資料研究会編『論集I』
2) Donna Erickson, Kenji Yoshida, Caroline Menezes, Akinori Fujino, Takemi Mochida & Yoshiho Shibuya, Exploratory study of some acoustic and articulatory characters of sad speech, Phonetica 62
3) Kenji Yoshida, On gradualness and discreteness of sound change, Proceedings of Linguistics and Phonetics 2002
(ポスター発表)
4) Kenji Yoshida, The uniequeness of level register of the Ibukijima-island dialect in Japanese, 80th annual meeting of Linguistic Society of America, Albuquerque.
(1)は日本を出る直前に提出したもの。今年の1,2月にやった実験結果です。韓国語の鼻音が(おおざっぱに言って語頭で)濁音っぽくなるのをご存知の方も多いと思います。鼻音が弱まっている、あるいは鼻音じゃなくなっているように聞こえます。これについて、もう10年も前に言語学会で発表したのですが、そのときは弱まるのか、なくなるのか、どういう条件だとどの「程度」弱くなるのか、測定できませんでした。今回は、鼻音だけを独立に測定できる実験装置を使えたので、韻律条件による変化の実験結果を書きました。韻律的境界が強いほど鼻音は弱化するが、消えるわけではない。また、韻律的境界の強さによる持続時間変動とは関連がなく、持続時間とは独立に鼻音弱化自体が積極的な制御を受けている可能性が高い、という結論。母音による違いのデータも録音してありますが未分析。今後やるつもりです。
(2)はDonna Ericksonさんが中心の論文です。泣きながら話しているときの音響・生理上の特徴について日本語と英語でほぼ同じ実験を行ったものです。重要な知見は、「本当に泣いているとき」と「悲しい真似をして話しているとき」の特徴が、はっきり違うこと。音声に込められた感情を調べるとき、真似の音声を使ってはいけないことを示唆します。去年、NTT通信研究所(厚木)で、日本語の実験をたまたま手伝い、そのまま分析などもやらせてもらいました。去年の音声学会全国大会で発表し、そのあと論文にした、というものです。
(3)が東北でやった調査をまとめたもので、2002年に明海大学で開催されたLP2002という学会で発表したあと、論文にして提出してあったもの。ある事情で出版が遅れていたものが年末に出版予定とのこと。共通語アクセント獲得(ここでは2モーラ無核語の、秋田のLLから東京のLH)が、単に2種類のピッチパターン(LL、LH)の取替えとして進行する(音声レベルでdiscreteな変化)のではなく、それを引き金として、LLがLHに近づいていく、音調の連続的なシフトが起こる(音声レベルでgradualな変化)という趣旨です。
ちなみに、Sociolinguisticsの授業で、全員授業に関わりのあるテーマで発表せねばならず、「言語変化」がテーマの回に、これをPowerPointのスライドにして発表。Auger先生がリハーサルを聞いてアドバイスをくれたのでずいぶんと整理ができて、英語が心もとない私も何とか発表を終えられ、今後に向けて少し自信がつきました。
(4)は来年1月のアメリカ言語学会のポスター発表です。先日記事にしました。対象は、方言アクセント研究者の間では有名な、平安時代に区別された2拍名詞アクセントの5つの区別を唯一保持する、伊吹島アクセントです。この方言でもう一つ重要なのが、これまたここにしかない、3種類の「式」の対立です。このうち議論の的となる「下降式」については以前紹介した(8月13日)、Project Aのメンバーが現在研究しています。私は、これと対立する「平進式」(東大の上野先生の用語)が「実際には少し下降する」が、他の(式が2つだけの)方言の「平進式」とは「下降の斜度」「持続時間との関係」いずれも違う、全くユニークなものだ、という実験結果を報告します。
まだ今年は終わっていませんが、まだ1年目の学生なので、これで終わりでしょう。気が向いたらちょっとでもご覧いただければ幸いです(もちろん、「読んでやるから送れ」という方があれば、ぜひご連絡ください)。もうすぐ12月、授業も試験期間をのぞくとあと2週間で終わりです。
(論文)
1) 吉田健二「韓国語のDenasalizationの音声実態と韻律の影響」アクセント史資料研究会編『論集I』
2) Donna Erickson, Kenji Yoshida, Caroline Menezes, Akinori Fujino, Takemi Mochida & Yoshiho Shibuya, Exploratory study of some acoustic and articulatory characters of sad speech, Phonetica 62
3) Kenji Yoshida, On gradualness and discreteness of sound change, Proceedings of Linguistics and Phonetics 2002
(ポスター発表)
4) Kenji Yoshida, The uniequeness of level register of the Ibukijima-island dialect in Japanese, 80th annual meeting of Linguistic Society of America, Albuquerque.
(1)は日本を出る直前に提出したもの。今年の1,2月にやった実験結果です。韓国語の鼻音が(おおざっぱに言って語頭で)濁音っぽくなるのをご存知の方も多いと思います。鼻音が弱まっている、あるいは鼻音じゃなくなっているように聞こえます。これについて、もう10年も前に言語学会で発表したのですが、そのときは弱まるのか、なくなるのか、どういう条件だとどの「程度」弱くなるのか、測定できませんでした。今回は、鼻音だけを独立に測定できる実験装置を使えたので、韻律条件による変化の実験結果を書きました。韻律的境界が強いほど鼻音は弱化するが、消えるわけではない。また、韻律的境界の強さによる持続時間変動とは関連がなく、持続時間とは独立に鼻音弱化自体が積極的な制御を受けている可能性が高い、という結論。母音による違いのデータも録音してありますが未分析。今後やるつもりです。
(2)はDonna Ericksonさんが中心の論文です。泣きながら話しているときの音響・生理上の特徴について日本語と英語でほぼ同じ実験を行ったものです。重要な知見は、「本当に泣いているとき」と「悲しい真似をして話しているとき」の特徴が、はっきり違うこと。音声に込められた感情を調べるとき、真似の音声を使ってはいけないことを示唆します。去年、NTT通信研究所(厚木)で、日本語の実験をたまたま手伝い、そのまま分析などもやらせてもらいました。去年の音声学会全国大会で発表し、そのあと論文にした、というものです。
(3)が東北でやった調査をまとめたもので、2002年に明海大学で開催されたLP2002という学会で発表したあと、論文にして提出してあったもの。ある事情で出版が遅れていたものが年末に出版予定とのこと。共通語アクセント獲得(ここでは2モーラ無核語の、秋田のLLから東京のLH)が、単に2種類のピッチパターン(LL、LH)の取替えとして進行する(音声レベルでdiscreteな変化)のではなく、それを引き金として、LLがLHに近づいていく、音調の連続的なシフトが起こる(音声レベルでgradualな変化)という趣旨です。
ちなみに、Sociolinguisticsの授業で、全員授業に関わりのあるテーマで発表せねばならず、「言語変化」がテーマの回に、これをPowerPointのスライドにして発表。Auger先生がリハーサルを聞いてアドバイスをくれたのでずいぶんと整理ができて、英語が心もとない私も何とか発表を終えられ、今後に向けて少し自信がつきました。
(4)は来年1月のアメリカ言語学会のポスター発表です。先日記事にしました。対象は、方言アクセント研究者の間では有名な、平安時代に区別された2拍名詞アクセントの5つの区別を唯一保持する、伊吹島アクセントです。この方言でもう一つ重要なのが、これまたここにしかない、3種類の「式」の対立です。このうち議論の的となる「下降式」については以前紹介した(8月13日)、Project Aのメンバーが現在研究しています。私は、これと対立する「平進式」(東大の上野先生の用語)が「実際には少し下降する」が、他の(式が2つだけの)方言の「平進式」とは「下降の斜度」「持続時間との関係」いずれも違う、全くユニークなものだ、という実験結果を報告します。
まだ今年は終わっていませんが、まだ1年目の学生なので、これで終わりでしょう。気が向いたらちょっとでもご覧いただければ幸いです(もちろん、「読んでやるから送れ」という方があれば、ぜひご連絡ください)。もうすぐ12月、授業も試験期間をのぞくとあと2週間で終わりです。