時々雑録

ペース落ちてます。ぼちぼちと更新するので、気が向いたらどうぞ。
いちおう、音声学のことが中心のはず。

Scrambled Egg

2010年07月24日 | 
日本に来る前、心理学科のKruschke先生と子供の話になりました。今は大学生のお子さんが小さいころ「このことはきっと一生忘れないだろう」と思った印象的な場面も、いまやぼんやりとしか覚えていないんですよ、と話してくれました。「ビデオとか写真ではなく、記憶に刻み付けろ」という意見も聞きますが、うちの娘についても、本人(とそのパートナー)があとで見るためにも、できるだけ残しておきたい。この滞在中も折に触れて写真・ビデオを残すよう努めました。

さて、その娘は現在1歳10ヶ月。使える言語項目が増加中。最初は名詞がほとんどだったのが、最近は動詞の習得が進行中。思いつく範囲でも「ある、いく、くる、見る、入れる、上がる、下りる、飲む、食べる、掛ける、寝る、押す、開ける、閉める、塗る、貸す、待つ、混ぜる、走る」など。理解する動詞はもちろんこれよりうんと多い。

また、ここ一ヶ月ほどで動詞の活用形を使い分けるように。「おりる」(go down)を例にとると、最初はいわば一人称(I go down)と、依頼形(Let me go down)が分離。前者は「おり」と語幹だけのような形。後者は「おりて」といわゆる「テ形」。命令の意味(Go down!)でも使う。いまだ他動詞は使わず、「おろして」とは言わない。前者が、入力にはそのままの形ではないのが不思議。日本に来て以降、前者が「おりる」と学校文法でいう「終止形」に変化。さらに最近、「おりたい」という「意思形」と、「みえない」「できない」といった、否定形も一部の動詞について使用開始。

昨日、娘より一歳年上のいとこに会いましたが、彼はもう複雑な文章をどんどん使うようになっていました。あと一年でそんなになるものなのか。でも、ここのところニョーボの話し方をまねて、「かえで、と…おばあちゃん、と… あと~」と長い文章を言いたそうな意思を示していて、二語文を使う準備は彼女の中で進行しているように見えます。

音声の面で興味深いのが、ほとんどの語(=文)を、最初は頭高型のアクセント形で発音していたこと。他のアクセント型ももちろん聞いているはずですが、それは使わず、なんでも頭高(ちなみに、アメリカにいるため日本語の入力は父母からが圧倒的、両者ともアクセントは東京式)。アクセントも習得したけど、とりあえず頭高型の生成だけ出来るようになったらしい。最近は違う型(平板っぽい)も使うようになってきました。たとえば、自分の名前は平板型。

名詞の習得も進行中。昨日の食事中にゆで卵を指さして[mankako]とつぶやく。[tamago]という語形をいわば「復習」していたのですが、上手く取り出せなかったか、生成できなかったか、Segmentをごちゃまぜに並べた。でも母音は動かさず、子音をあちこち並べなおし。ただし、子音をそのまま移動したのではなくて、もうちょっとフクザツ。[t]が消えて[k]が二つになってるのは、「だっこ」がしばしば「がっこ」になってしまうのと関係ある? 音節構造まで変わってるのは、たまたまでしょうか。こんな語音並べなおし例が、ここ数週間でしばしば聞かれます。

音韻論の観点からもおもしろそうだけど、個人的により興味深いのは、原則としてSegment単位で移動してること。うちのPort先生のような、Exemplar theoryの強いバージョンに立って、Segmentはアルファベット文化のもたらす錯覚で、言語処理の単位ではない、とする人もいるようですが、他の多くの例と同じくこの例も、やっぱりSegmentという単位になんらかの心理的実在性がある、ということを示していそうに思います。

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写真は話題とは無関係で、徳島・阿波池田から大阪へ向かう途中の、淡路島の高速PAにいた猫。

今回のサッカー日本代表について、もういちど

2010年07月22日 | サッカー
サッカー、ましてや今回のW杯について、まだつべこべ言うのはいい加減にしないと、と思っていたのですが、どうにも気になることがあり、一つ記事を追加します。

サッカー宇都宮徹壱さんが、先日のスポーツナビに

  「「ベスト16」との向き合い方 南アでの日本代表の戦いを総括する」

という記事を寄稿されています。宇都宮さんの記事は楽しませていただいているし、敬服もしているのですが、今回はどうも得心がいきません。ただし、この記事だけに異論を述べたいのではなく、今回の日本代表を総括した記事のいくつかに同様に感じたことでもあります。

わたしが疑問を感じる論点は、次の一文に集約されていると思います。

  いくら「強化のプロセスが悪い」「試合内容が悪い」と批判したところで、
  岡田監督が今大会で残した「ベスト16」という結果が揺らぐことは一切
  ないだろう。何といってもW杯は、結果がすべてなのだから。

疑問の一点目は、ベスト16という結果です。もし、ずっと言われてきたようにベスト4が目標なら、ベスト16は失敗のはず。「W杯は結果がすべて」と主張するなら、目標に照らして結果を評価するべき。もっとも、これは半分ツッコミのようなもの。本当の理由は以下。

二点目は、同じく「結果がすべて」について。南米や欧州のようにサッカーの歴史において先行していて、競争力が一定の高さに到達してしまっている国なら、その実力から達成可能な結果が挙げられるかがすべて、と言うことも出来るかもしれません。しかし、後発国の日本は、競争力の底上げを図っている最中、しかも、最終的な目標はW杯優勝です。そこに至る強化の道筋を着実に踏まえていることが問題になる。ですから今はまだ、結果がすべてではない、経過もよくなくてはいけないはず。

三点目、さらに重要なことは、評価のされ方です。W杯の結果だけをみて、いい、とか、悪い、と評価するのは適切ではない。南米の国にとってコパ・アメリカが重要なように、アジア杯も重要。今回のチームの4位という成績は明らかに悪い(ちなみに、わたしはオシム氏は日本で過大評価されていると思います)。岡田氏就任後に限るとしても、東アジア杯でも過去最悪の3位、予戦でもしばしば格下にも苦戦し、その後の親善試合も散々。つまり、ほとんどの時期、内容・結果とも悪かったのです。W杯がよければいい、というのは、五輪で勝てば英雄で、各シーズンの選手権の結果はほとんど注目されない、という陸上、スキーなどの競技の観られ方と同じものを感じます。五輪やW杯などの大イベントの、一般における注目度の高さは分かりますが、スポーツジャーナリストまで、そういう偏った見方を伝えてほしくありません。

4年間を通観したとき、今回の代表は、以前よりもアジアレベルで苦戦するようになり、公式大会の成績が落ち、W杯予戦も3位突破(今後も突破できるか、と考えると、予戦は予戦、とはいえません)、戦術的にも迷走。でも、W杯だけはそれなりの結果が出た、となります。これでは、たまたまめぐり合わせがよかっただけかもしれない。おそらく、どん底の状態になり、批判も強まったせいで、終戦後、本田が語ったように、選手たちに「なんとしても勝ってやる」という反発力が生じたことも好結果の要因でしょう。だからといって毎回W杯前にはどん底を経験するとよい、となるわけがない。また、あるいは逆に、強化を順調に進められる指導者だったら、もっといい結果が出たかもしれない。さらに、ずっと問題にしているように、世代交代は遅れ、代表の主力を経験した選手層も薄くなりました。こんな状況でも、一つの大会の結果だけで評価をしていたら、今後どのような経過をたどればより強くなれるのか、さっぱりわかりません。

以上、W杯での結果がよかった、という評価は第一の理由でできないだけでなく、W杯の結果だけで4年間の代表のプロジェクトの成否が論じられるのは正しくない、という意味でも、宇都宮さんおよび、それと同様の意見に賛同することができません。「タイトルをよく見ろ、南ア大会に限って評価しているんだ」と反論されるかもしれません。しかし、上記のとおり、4年間の一部だけを見た評価からは今後への指針を引き出すことが出来ません。どん底から復活したというだけで浮き足立たないで、冷静に評価をしてほしい、専門のジャーナリストにはとくに望みたいのです。

宇都宮さんは、「「3戦全敗した方が日本のため」などという理不尽な主張」をしていた人は、謝罪したほうがよいかも、ともおっしゃっています。私も、3敗とは言ってませんが、反省が促されるなら「ひどい目にあってきてもかまわない」と書いた(2/19の記事)のは間違いだったか、とも思ったこともありました。しかし、このように、W杯のみの結果論が幅を利かせ、その他ほとんどの時期の最悪の展開には目をつぶる、という結果を招いてしまうようなら、やっぱりW杯だけまあまあの結果なんか、出ないほうがよかったかもしれない、という気持ちを捨てきれないでいます。

吉野川

2010年07月21日 | フィールドワークから
徳島・東みよし町の調査は、たいへん協力的な6人のみなさんのおかげで無事終了。調査の会場としてお借りした中央公民館は、土讃線が吉野川の北側の急斜面を、下り勾配があまりに急にならないよう斜めに下り、こんどは吉野川の対岸へ渡るために90℃ほどぐるりと向きを変える、ちょうどその曲がった部分に囲まれるように位置しています。写真は、その線路をまたぐ橋の上から撮ったもの。写真の奥が吉野川。

2年前に池田を訪れたときは、かなり深刻な水不足でしたが、今年は梅雨でかなりまとまった雨量が得られたそうで、池田ダムも水量豊富。緑色の水を深く湛えてきれいでした。

(↓ つづく)

高速バスで大阪へ

2010年07月21日 | フィールドワークから
他に交通手段が見つからず、東みよし町公民館までは往復ともタクシー。こういうとき研究費がありがたい。帰りのタクシーのドライバーさん(これまたベタで方言)に教わって、電車ではなく、高速バスで大阪へ行くことにしました。地域の様子を教えてもらおうと、その他いろいろ質問していたら、途中で黙られてしまいました。あまり話しかけられるのは好きじゃないのか、私の態度が何か悪かったのか… 

阿波池田駅から300mほどのところにあるバスターミナルは、日本たばこの工場跡地にあるショッピングモールの一角にあります。ローカルバスも、高速バスもここから出る。日本たばこの撤退は、この辺りの町村の経済には大きな打撃だったらしい。バスターミナルの一角には観光案内の横にノックする池田高校、故蔦監督の写真。

4:30発車の阪急バスで大阪へ。いつもどおり、瀬戸大橋から瀬戸内海に浮かぶ島々を眺めるのもすばらしいのですが、何度も往復してるので気分が変わってよかった。吉野川沿いを下り、淡路島から神戸に抜け、さらに、夕暮れの神戸~大阪湾岸ルートを走る。そして午後9時過ぎ、やっと翌日調査予定の大阪・岸和田市に到着。○パホテルの社長さんの写真が迎えてくれました。強烈・・・

(↓ つづく)

岸和田市調査で終了

2010年07月21日 | フィールドワークから
そして翌日、岸和田で調査。これも順調に終了。今回の日本滞在で香川県高瀬町、財田町、徳島県三好町(いずれも旧町名)、大阪府岸和田市の4市町、15人からデータが得られ、短いわりに濃密なフィールドワークになりました。こころよくご協力くださった、各市町村の教育委員会のみなさん、話者になってくださった地域のみなさんに感謝いたします。

写真は、南海線、岸和田駅で撮ったもの。痴漢抑止のメッセージ、やっぱり方言のほうが伝わるのか、共通語じゃキツすぎるのか。大阪みやげに、定番の蓬莱の豚まんを頼まれていたのですが、新幹線コンコース内に入ってしまってから、中にはないことに気づくミス。駅員に頼んで出してもらって、なんとか買ってくることができました。戻った多治見は、身の危険を感ずるほどの暑さ。Bloomingtonも今夏は暑いようですが、せいぜい32℃くらいで、よほどマシ。もうすぐ帰れるのでホッとしてます。

(おわり)


徳島・池田へ

2010年07月19日 | フィールドワークから
調査のお願いをしていた徳島県・東みよし町から先日、返事をいただき、話者になってくださる方を調整をしてくださったとのこと。私の帰国前に間に合うよう、急いでくださったようで、たいへんありがたく、明日の調査のため、徳島県にきました。宿泊地はお隣の三好市、池田町。ここに訪れるのは3度目、宿泊は2度目。駅を出ると写真のように、たくさんの風鈴が迎えてくれました。小学校か幼稚園のお子さんの作品らしい。一つ一つに(七夕の?)願いごとを書いた短冊がつけてありました。梅雨明け直後の蒸し暑さでしたが、この風鈴の音でちょっと涼を得られました。

宿泊してるのは、いちおうビジネスホテルですが、フロントの人、風体はたんなる地域のおっちゃんで、駅から車での出迎えを頼む電話をかけると、「ほんなら、いきますけん」とベタに方言。インターネットのケーブルを頼んだら「貸しますけど、故障しとって、たぶんつながらんと思います」。おいおい、しっかりしてくれ。実際には、つながりましたが(おっちゃんが故障だと思い込んでるだけらしい)。

(↓ つづく)

出迎え@阿波池田駅前 その2

2010年07月19日 | フィールドワークから
風鈴が涼しげに鳴っていた阿波池田駅前。下を見ると、写真のようなものもお出迎え。よく見ると分かりますが、ゴム製。ホンモノのゴキブリではありません。

ホテルのおっちゃんに聞いたところ、池田町はかつて四国の交通の要衝として栄えたが、交通機関の高速化などの影響で、人に留まってもらえなくなり、衰える一方、という説明。駅前の商店街も閉店多数と、かなりさえないようすですが、吉野川の川遊びをビジネスにする人がいるらしく、雑誌にも載ってたし、実際、阿波池田の駅に、ご家族で遊びに来た人を送るおにーちゃんがいました。祖谷渓もあるし、観光ビジネスのための資源はけっこう豊富にある。

でも、やっぱり人がたくさんいる都会から遠いのは弱みなのでしょう。岐阜から新幹線・急行を利用して4時間、というのは、昔に比べればうんと近いはず。それでも、会場の東みよし町教育委員会にうかがう予定にしている9:30に間に合う電車はなく、前日からの現地入りになりました。

W杯2010をふりかえる 2

2010年07月12日 | サッカー
■ 期待はずれのチーム・選手

最大の期待はずれは、コートジボワール。ブラジルが強かったから、やられたのは仕方がない。だからって、あの酷いラフプレーは許せない。もう一つは、デンマーク。もっとずっと強いと思ってた。日本の逆で、試合の順序の運が悪かったけど、日本ごときに負けるようでは、ブラジルさえ脅かしたラウドルップ兄弟の時代にははるか及ばない。

(後日追加。忘れてたけど、真の期待はずれは、優勝に予想したオランダ。ロッベン、ファンペルシーなど油の乗ったあの世代が、彼らの魅力を発揮して勝つことを期待した優勝予想でした(それ自体は、なくはなかったけど)。しかし、実際目立ったのはファンボメル、デヨンといった中盤の潰し屋。展開力やDFの力量の不十分さを自覚した上での、「優勝するにはこれしかない」という開き直り、あるブログの表現を借りれば「持たざるものの抵抗」。批判もイエローカードも覚悟の上、でも勝ちたかった。実際、決勝では、フィールド選手ほとんどのイエローという形でその代償を払い、敗れたわけで、それ自体を批判するつもりはないのですが、個人の趣味として、そんなチームにW杯優勝という栄誉は与えたくない。あんなオランダが優勝したら、私個人としては、このW杯の後味は非常に悪いものになったでしょう。その意味で、スペインの優勝には救われました。)

選手についていえば、コンディションが悪かった選手(たとえばトーレス)は、しょうがない。メッシもロナルドも、チーム事情もあってあの成績なんだから、がっかりでもない。敢えて言えば、ルーニー。チームはひどかったけど、もうちょっと個人で何とかできると思ってた。ちなみに、イングランド、イタリア、フランスは、期待はずれではなく、あの程度じゃないか、と「期待」してたとおりでした。

■ 開催国

強盗等のトラブルがあったそうで、現地に行った方は苦労なさったことでしょう。とはいえ、勝負に響くようなことはなかったし、ジャッジも開催国に偏ることはなかった様子。南アフリカは十分役割を果たしたと思います。

■ 面白い大会だったか

前回よりはずっと。守備の大会という声もありましたが、そうでもない印象。引き分けもアリのグループリーグでは守備的な戦術が徹底でき、勝ちを狙うトーナメントでは積極的な攻撃も遂行可能。冬の大会の好影響はあったと見ます。

■ 日本代表

事前の落ち込みとのコントラストで、けっこう盛り上がった。これを生かさない手はないけど、本当に実力が伸びた結果とは思えない。やっと、ここまでの悪い流れ、停滞を断ち切るきっかけが出来た、というだけ。本田も安泰ではない、というくらい思い切った刷新を進めてほしいものです。その手始めはもちろん監督選び。こんどこそコネはやめてじっくりと!

■ その他1 誤審問題

長年の誤審問題についてターニングポイントになる大会かも。映像技術が進歩し、誤審がスタジアム全体に直ちに、議論の余地なく伝わるようになったのに、「それもサッカーのうち」と従前の価値観にこだわるのはいい加減にすべき。でないと、たとえば米国のファンがつかない(から真の世界大会へと発展しない)。幸い、FIFAは重い腰を上げたようです。

■ その他2 タコの予想

8つ連続で当てたそうで。昨晩行った飲み屋さんでお隣のおじさんが「あそこまで当たるとは偶然ではないだろう」と言ってました(うちの父もそう言ってました)。偶然だとして、一つ一つは当たる確率が0.5だから、その8乗で、約0.0039。「でたらめに選んでいる。当たったのは偶然だ」という帰無仮説の下で、8回連続成功する確率が0.4%くらい。まあ、めったにないことですが…やっぱり偶然でしょう。

■ 大会全体

初優勝が出たことを慶びたい。スペインはテニス、F-1、Moto GP、バスケットとスポーツが全体的に強くなってきているので、サッカーの代表の上昇も、その流れで、経済を立て直せれば、今後もしばらく強豪でい続けられるのでは。イタリア、フランスが早期に敗退、王者ブラジル、ドイツも破れる。後進国だったアジア、USAも上昇の兆し。誤審問題も含め、あとで振り返ったときサッカーの歴史が移り変わる契機となる大会だった、ということになるかも。2014年はブラジル大会、ブラジルの友人を頼って現地にいけるか、楽しみです。

W杯2010をふりかえる 1

2010年07月12日 | サッカー
FIFA・W杯南アフリカ大会が終了。スペインが優勝という、私としてはいちばんうれしい結果で終わりました。全体を振り返ってみたいと思います。

■ 決勝戦

1-0というスコアどおり、両者の力の差は本当にわずかでした。先日の記事に書きましたが、こういうばあい審判のジャッジの傾向の影響が大きくなる。で今回は、スペインに有利に働いたと考えます。オランダが文句を言ってる部分ではなく、「ファウルに厳しかった」という意味で。前半30分までにファンボメル、デヨンというオランダ中盤の潰し屋にイエロー。その後の対人マークに影響したことでしょう。でも、スペインの展開力がそれだけ脅威だった、ということでもある。スペインからすれば、あれでイエローじゃなければやってられない、となるでしょう。

ということで、全体を通してみればスペインが勝つのが正当だったと思います。スペインは緒戦の負けがいい薬になった。ボールを保持して崩す本来の戦いと、カウンターに対する警戒とのバランスが向上、決勝トーナメントに入ってからすべて1-0は偶然ではないでしょう。トーレスが大会を通してほとんど何も出来なかったのに優勝するとは、真の実力を認めていいのではないでしょうか。宴会部長、ペペ・レイナのMCが楽しみです。

この2国はともに今大会がいったんピーク。またとない優勝のチャンスでした。ファン・マルワイク監督がなりふり構わず優勝を目指したのも分かる。スナイデル、優勝にもふさわしい働きをしてきただけに、悔しかったことでしょう。決勝で負けるのって本当に辛いらしいから。でも、決勝に到達した特別な人たちだけが味わえる悔しさなワケで、うらやましい。

■ 印象に残ったチーム

まずブラジル。強かったのに、唖然とするほどもろく敗れ去った。振り返ると、エラーノの離脱が大きかった。CIV戦でチンチンにやられた怒りでひどいラフプレーを受けてその後を棒に振ったのは気の毒だけど、たった一人の離脱が命取りになるようなチームを構成したドゥンガの失敗でもある。窮地に陥ったときの対処もふくめ、まだ経験不足か。でも、ブラジルは代表監督の代替わりが進んでいないので、いい監督になって欲しい。

それから、ドイツ。若いチームの技量の高さ、勢い、もろさ、みんな見せてもらいました。今後が楽しみのチーム。次回ブラジル大会は、この両国が本命では。

■ 印象に残った選手

断然、ウルグアイのフォルラン。ドリブル、シュート、速攻の起点、ラストパス、FK、みんなトップクラス。UEFAヨーロッパリーグでの大活躍といい、Ballon d'orに推したい。それから、オランダのスナイデル。なるほど、この選手がいたから、インテルはチャンピオンズリーグに勝てたのかと。判断もプレースピードも速い。シュートも上手い。泥臭いファイトもできる。とても現代的な10番だなと。日本の10番像が時代遅れに過ぎるのとじつに対照的(中村俊はその象徴だけど、彼個人の話ではありません)。

(この部分は決勝を見る前、したがって最優秀選手の発表前に書きました。上記二人がトップ選出されたようで、納得です)

GKでは、カシジャスがさすが。味方につなぐ力なら、控えの二人の方がずっと上で、レイナだったら…と思ったこともありましたが、ゴール阻止の力があれだけ高いと、彼を正GKに選ばない監督はいないでしょう。3~4ゴール決めたくらいの価値があったのでは。

最優秀若手選手、私は全く勘違いしていて、21歳以下と、ずっと若くないとダメでした。日本は対象になる年齢の選手すら23人中一人もいない。長友も本田も全然若くないと確認しておきたい。2度連続ドイツの選手というのは偶然ではないでしょう。日本もこうならないと。

ファイナルを前に

2010年07月09日 | サッカー
いよいよ決勝戦の組み合わせが決まりました。なんと大会前の私の予想(6/1の記事)が当たり、オランダvs.スペインという組み合わせに。準決勝を振り返りつつ、決勝の展望を。

ウルグアイ 2-3 オランダ

オランダは今大会、運を味方につけている部分がかなりある。デンマーク戦のオウンゴール、日本戦の川島のミス(やっぱりゴールに入れては…)、ブラジルの自滅、ウルグアイ戦のオフサイド見逃し。以前読書録を書いた、『Soccernomics』によれば、人口の少ない欧州の国は、サッカーがグローバル化し、北米、アジア、アフリカ諸国が力をつけるに従い、相対的な競争力を落としていく運命にあるとのこと(納得)。オランダにとっては優勝の最後のチャンスかも。

負けたウルグアイ、いつも南米予戦突破ぎりぎりの国としては上出来でしょう。フォルランはやっぱり本当にいい選手だなと。3位決定戦は、決勝戦に比べれば緩いと思うので、得点王狙えるかも。スアレスも、ブーイング来るかもしれないけど負けるな。

ドイツ 0-1 スペイン

スペインが圧倒したという見方もあるようですが、私には、むしろドイツの強さを認め、ボールを保持することで失点の機会を未然に防ごう、という「攻撃は最大の防御」的戦い方に見えました。実際、前半はラストパスがほとんどカットされ、ときどき繰り出されたドイツの速攻には迫力がありました。前半ロスタイムのエジルの突破、PKだったかも。やっぱりセルヒオ・ラモスは危なっかしい。ということで、またラッキー。オランダもそうですが、決勝まで到達するには多少の運も必要。

でも、そういう戦い方を選んで実行できるところにスペインの成熟を感じます。EUROを制した無形の財産か。監督は主役にあらずと書いたばかりですが、今回は森監督の選手起用がよかった。ペドロを起用して相手のゴール近くでの鋭さを増し、点を取ってからの逃げ切りのためにトーレス。

ドイツはEURO2008決勝戦と同様、まだ展開力でスペインに一歩劣ることを露呈しましたが、その差はつまってるかも。チームが若返ってるのに、交代で入った、さらに若いクロースがもう遜色ない、ということで、ポテンシャルを感じさせるチームでした。

ただ、「勝負を決める要因1」(5/25)の記事で書いた、「前回のW杯に初めて出たけど、まだ経験不足で力を出し切れず終わった。それから経験も積んでピークにある、という選手が主力のチームがいい」という考えに基づき、W杯一回目の選手が多くなったドイツは、力を発揮しつつもどこかで止まる、と予想していました。といっても、「やっぱりバラックがいた方がよかった」ということではありません。バラックがいたら、若い選手が力を発揮できず、もっと前に終わってたのでは。

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さてファイナル、期待したとおり、どっちが勝っても初優勝。理詰めスペインか、ドサクサオランダか。大会前にはオランダ優勝を予想しましたが、勝ってほしいのはスペイン。カギを握るのは、やっぱりシャビ。オランダは、ファンボメルやデヨンが急所でファウル気味にぶっ潰しに来るので、そして、それがこのチームが勝ちあがった最大の要因なので、レフェリーのジャッジの傾向がカギを握るのでは、と思います。