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謎の高速電波バーストの発生源を特定、 新たな発見で謎深まる?

2019年07月11日 07時42分54秒 | 日記

謎の高速電波バーストの発生源を特定、単発は初。遠い宇宙の電波爆発はなぜ起きる? 新たな発見で謎深まる?National Geographic誌の記事より。天文の世界は未知のことが次々出てきて、自然科学の中では、最も謎が多く発見出来る分野であろう。

オーストラリアの電波望遠鏡アレイ「ASKAP」を構成する36台のアンテナの一部。天文学者たちはこの望遠鏡を利用して、単発の高速電波バーストの発生源を初めて特定した。(PHOTOGRAPH BY CSIRO)
 

 はるかな昔、地球から遠く離れた銀河で、謎の天体が宇宙に向けて爆発的な電波(電波バースト)を放射した。そのパルスを2018年9月、オーストラリア西部にある電波望遠鏡アレイがとらえた。電波バーストの持続時間はほんの数ミリ秒だったが、科学者たちはそれを遡った。そうして発生源をつる座の方向に約36億光年離れた銀河と特定、6月27日付けで学術誌「サイエンス」に発表した。

 天文学者たちは10年ほど前からこうした電波バーストを数多く観測してきたが、単発の電波バーストの発生源を特定することに成功したのは今回が初めて。こうした高速電波バースト(fast radio burst:FRB)の発生源が明らかになれば、その激しい爆発にエネルギーを供給する機構を絞り込むのに役立つはずだ。

「発生源を特定することは重要です。今後さらに発生源が特定されていけば、この現象の多様性が示され、電波バーストの発生機構を解き明かすのに役立つでしょう」と、今回の論文を執筆したオーストラリア連邦科学産業研究機構のキース・バニスター氏は語る。

 けれども現時点では、新たな観測結果は謎を深めることになった。

 高速電波バースト研究の第一人者であるオランダ、アムステルダム大学のエミリー・ペトロフ氏は、「高速電波バーストの正体に近づくことができたかどうかはわかりませんが、全体像には一歩近づいたと思います」と言う。

繰り返しバースト発生させる矮小銀河

 高速電波バーストが最初に話題になったのは約10年前のこと。米ウェストバージニア大学の天文学者ダンカン・ロリマー氏が、観測データの中から1秒にも満たない短時間の電波バーストを発見した。宇宙から来た電波だというロリマー氏の主張に対し、ありふれた電波なのではと疑う研究者もいた。あまりにも遠くから、あまりにも強い電波が来ているように思われたからだ。

 けれどもその後、さらなる電波バーストが観測され、なかには複数の望遠鏡でとらえられるものもあったため、天文学者たちは遠方にある電波バーストの発生源を真剣に探すようになった。

2016年、プエルトリコのアレシボ天文台で観測を行っていた天文学者チームが、FRB 121102という電波バーストが繰り返し電波を放射していると発表した。ほかの電波バーストとは異なり、FRB 121102の電波バーストはまだ終息しておらず、科学者たちは2017年に、それが約30億光年の彼方にある、奇妙なしみのような矮小銀河であることを突き止めた。

 電波バーストの発生源について現在有力な説の1つは、非常に強い磁場をもつ、生まれたばかりの中性子星(寿命の短い大質量星が大爆発を起こして死んだあとに残る天体)によるものとする考えだ。このような天体はマグネターと呼ばれている。しかし、各国の望遠鏡がこれまでにとらえた数百の高速電波バーストの発生源は、基本的にはまだわかっていない。

新たなタイプの発生源

 そこで、バニスター氏らはオーストラリアの電波望遠鏡アレイ「ASKAP(Australian Square Kilometre Array Pathfinder)」を使って電波バーストを探すことにした。

 ASKAPの数キロメートル四方の範囲に分散して設置された36台のアンテナを使えば、宇宙からきた電波バーストが個々のアンテナに到達する時刻のわずかな差を利用して、空のどの領域から来ているかを特定することができる。2018年9月24日、単発の電波バーストの発生源を特定するための特殊なソフトウエアを走らせていたASKAPは、ついに獲物をとらえた。現在FRB 180924と呼ばれている電波バーストである。

 ハワイとチリの光学望遠鏡を使って行われた追跡観測により、FRB 180924は約36億光年の彼方の銀河から来ていたことが突き止められた。この電波バーストは、大きな銀河、おそらく天の川銀河によく似た渦巻銀河のはずれから来ていた。

「FRB 180924の発生源の銀河自体はありふれたものです」とバニスター氏は言う。「宇宙にあるほとんどの星は、このような銀河の中にあるからです。けれどもこの銀河は、FRB 121102の発生源の銀河とは大きく違っています」

参考ギャラリー:天の川銀河のブラックホール、波打つ土星の環。
天の川銀河(銀河系)の超大質量ブラックホール「いて座A*」周辺のちりと磁場。(COMPOSITE IMAGE BY NASA)

 FRB 180924の発生源の銀河は、FRB 121102の発生源である奇妙なしみのような矮小銀河の約1000倍の質量をもち、はるかにゆっくりしたペースで星を生み出している可能性がある。それが本当なら、マグネターのような「死んだばかりの星」がそう簡単に存在しているはずがない。爆発して中性子星になるような大質量星は、星がもっと速く形成される領域にあるのが普通だからだ。

 ペトロフ氏は、「2つの銀河にここまで大きな違いがあるのは不思議ですが、高速電波バーストの発生源についてわからないことがまだまだ多いことを私たちに教えてくれているのだと思います」と言う。「これがFRB 121102の発生源の銀河のような矮小銀河でなかったことは、私にとってはある意味救いでした。それでは話が単純すぎますから!」

 天文学者はこれからどうすればよいのだろうか? より多くの電波バーストが観測され、その発生源が特定されれば、高速電波バーストの込み入った物語の糸口がつかめるだろう。バニスター氏らは、最終的には、電波バーストのエネルギー供給源は複数見つかるかもしれないと考えている。

「高速電波バーストの発生機構は1つではないと考えるようになりました」と、バニスター氏。「科学者にはすべてを統一したいという願望が備わっていますが、自然はときどき私たちを出し抜くのです」


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