日経が、『香港市場、深まる中国化 米中対立の矢面に』という記事を載せていたが、香港の金融市場は世界から4兆ドルの資金が集まっていた。そして、中国からも2.4兆ドルの資金が流れ込んでいる。しかし、国家安全法により、香港にアジア向けの金融のハブとしていた中国以外の金融機関は香港から逃げ出すであろう。中国共産党は、そのことをどう考えているのであろうか?強力な中国経済から、世界の経済界は逃げ出さないと思ったのか? それとも、そもそも香港は中国の領土であり、英国からアヘン戦争で一時的に略奪されたものであるから、中国の国土として1国2制度ではなく1国1制度で政治をするという原則を押し通したのか?マカオも異国1制度配下になって、国際性がなくなったが、香港の世界における金融ハブであったことは、マカオとは影響度がまったく異なる。
香港が米中対立の最前線に立たされた。米トランプ政権が中国との対決の場を貿易から金融市場にも広げる中、中国にとっては世界のマネーとの結節点である金融センター・香港の重みが増している。その香港に対し、中国は社会統制を強める「香港国家安全法」を頭越しに導入しようとしている。長期的に欧米マネーの香港からの逃避を招けば、中国は自らの首を絞めることにもなりかねない。
政治の混迷と対照的に、香港の金融市場は意外な活況を示す。香港株は5日まで5日続伸し、3カ月ぶりの高値を付けた。外国為替市場では中国ゲーム大手のネットイースやネット通販の京東集団(JDドットコム)の株式上場を控えて香港ドル買いが止まらず、通貨当局は香港ドル売りの市場介入に踏み切った。
トランプ政権が米上場の中国企業に厳しい目を向け始め「中国回帰」の一環として香港上場を探る企業が増えており、この傾向はまだ続きそうだ。香港市場のにわかな活況を支えるのも中国本土マネーだ。1月以降、中国本土からの香港株の買越額は2783億香港ドル(約3.9兆円)と2019年通年を上回った。
中国本土は厳しい資本規制があり、国境をまたぐ投資に制約が多い。中国企業は自由な市場を持つ香港を窓口に世界との投資マネーのやりとりを進めてきた。香港と中国を結ぶ投資マネーの直近残高は2.4兆ドル(約260兆円)と、15年末比で47%増えた。
海外展開の足掛かりに香港を使う本土企業も増えている。統括機能を香港に置く本土企業は19年に216社と、5年間で2倍近くに達した。香港取引所の上場企業に占める中国本土企業の割合は時価総額ベースで70%を超えた。
香港経由で海外投資家が本土株に投資したり、本土投資家が香港株に投資したりする相互取引の額は右肩上がりが続く。香港が没落すれば、こうした資金の流れが目詰まりを起こす。中国人民銀行(中央銀行)は4日「香港の国際金融センターとしての発展を支持する」と表明した。国家安全法によって香港市場が混乱する事態は何としても避けたいのが本音だ。
ただ、香港市民の間では「一国二制度」崩壊への不安が広がる。海外移住を支援する美聯移民顧問には5月に前年同月の40倍となる800件の相談が寄せられた。同社の鄭天殷氏は「移住を選択肢の一つと考えていた人が決意を固めたようだ」と話す。
国家安全法の制定方針が決まった5月28日、街中の両替所から米ドル札が消えた。香港ドルの値動きを米ドルに連動させる「ペッグ制」が見直されるとの臆測から、香港ドルを手放す人が相次いだ。直物市場での高騰と正反対に、2年先の香港ドルを予想する先物市場は5月下旬にペッグ制の下限である1米ドル=7.85香港ドルを下回った。香港政府は4400億ドルもの外貨準備を持ち、ペッグ制の維持に自信を示すが、米国の存在を無視できない。
トランプ政権による香港への優遇見直しには米ドルと香港ドルの交換制限という選択肢もある。経済への影響があまりにも大きすぎて実際には使えないという意味で「核オプション」と呼ばれてきたが、不安は消えない。倉田徹・立教大教授は「米国の対中政策の激変で、香港は経済冷戦の最前線に立つ」と話す。
「中国がすぐに金融市場を自由化するのは不可能」(香港中文大学の荘太量・副教授)なだけに、中国は今後も香港市場に世界とのマネーのやりとりを頼らざるをえない。その香港が機能不全に陥れば中国も大きなしっぺ返しを受ける。そして世界経済も無傷ではいられない。(香港=木原雄士、真鍋和也)
ペッグ制 基軸通貨の価値に連動
自国・地域の通貨価値を世界の基軸通貨に連動させる固定為替制度。通常は米ドルとの連動を指す。通貨当局が為替市場で介入することなどで、レートを一定範囲内に収める。ドル建ての自国・地域の収益が安定する一方、自国・地域の景気にかかわらず金利政策を米国に連動せざるをえない。
ペッグ制は貿易規模が小さく、輸出競争力のある産業をもたない国・地域が多く採用している。貿易を円滑に行うなどの理由から自国・地域の通貨を貿易の結びつきの強い国の通貨と連動させている。ペッグ制によって自国・地域の通貨と特定の通貨との為替レートは一定に保たれるが、その他の通貨とのレートは変動する。日本などの主要国はペッグ制ではなく、変動相場制を導入している。
香港ドルは一国二制度の象徴的な存在だ。米国の投資家は為替リスクを気にせずに香港に投資でき、人民元の暴落を恐れる本土の富裕層は香港ドルで資産運用する。最近、香港では中国による社会統制を強める「香港国家安全法」への懸念が強い。米国が反発して香港に与えてきた貿易面などの特別優遇措置の廃止手続きを始めるなど動揺を誘っており、香港ドルの米ドルペッグ制が今後も維持できるのかという懸念も浮上している。
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