国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

歴史なき民族の苦しみ:スロバキアとの比較から見る韓国・朝鮮民族の苦悩

2007年09月26日 | 韓国・北朝鮮
●-我々は今何をいかになすべきか- 朴正熙 著書 『国家と革命と私』より

「我が五千年の歴史はひと言でいって退嬰と粗雑と沈滞の連鎖史であった。

いつの時代に辺境を超え他を支配したことがあり、どこに海外の文物を広く求めて民族社会の改革を試みたことがあり、統一天下の威勢でもって民族国家の威勢を誇示したことがあり、特有の産業と文化で独自の自主性を発揮したことがあっただろうか。いつも強大国に押され、盲目的に外来文化に同化したり、原始的な産業のわくからただの一寸も出られなかった。

「われわれのもの」はハングルのほかにはっきりとしたものは何があるか。我々はただ座してわらを編んでいただけではなかったか。自らを弱者とみなし、他を強大国視する卑怯で事大的な思想、この宿弊、この悪い遺産を拒否し抜本せずには自主や発展は期待することは出来ないであろう。

以上のように我が民族史を考察してみると情けないというほかない。全体的に顧みるとただ唖然とするだけで真っ暗になるばかりである。

このあらゆる悪の倉庫のような我が歴史はむしろ燃やして然るべきである」
http://senmon.fateback.com/hantou/index.html







◆◆ ユーラシア・ウォッチ ◆◆ Eurasia Watch    編集・発行:秋野豊ユーラシア基金 http://www.akinoyutaka.org
第53号    2004年10月15日       
第54号    2004年11月1日


■エッセイ/ゆーらしあの風■

 誰の町か---スロバキア紀行

                     伊東 孝之(早稲田大学教授)
 壁にかかったスロバキアの地図をじっと睨む。副島在スロバキア大使の執務室である。この日、「中東欧=日本21世紀フォーラム」の代表団に加わって大使館を表敬訪問した。地図を眺めていたら一つの思いが頭をよぎった。どうも変だ。山地は平野と一緒になってこそひとまとまりをなす。それがバラバラになっている。山地はスロバキア、平野はハンガリー。山間の住民は相互に連絡をとりにくい。むしろそれぞれが平野と連絡をとって相互には孤立するのがふつうだ。こうして通常は政治的にも経済的にも平野に統合されてゆく。どうしてバラバラになったのか。スロバキアはわずかに南の国境沿いに、つまりハンガリーとの国境沿いに平野をもっているだけである。それも西の端と東の端の二つだけだ。西にブラチスラバがあり、東にコシツェがある。二つの部分は山を分け入ってしか連絡できない。なぜこんなおかしなことになったのか。
 スロバキアの北の方にタトラ山脈が走っている。最高峰が2千数百メートルでそれほど高くはないが、これより東、数千キロメートルの彼方にあるウラル山脈まで山らしい山がない。タトラ山脈=カルバチア山脈はロシアの終わり、ヨーロッパの始まりといってよいだろう。これから西には山がたくさんある。最後はアルプスとなる。タトラ山脈とカルパチア山脈は馬蹄形をなして、大きな平野を囲い込んでいる。パンノニア平原だ。
 スロバキア人は、ハンガリー人がパンノニア平原に覇を唱えていた間、北の山地に潜んでいたのではないか。実はスロバキアの西と東の二つの都市も長い間ハンガリー人の拠点だった。それを山から降りてきたスロバキア人が次第に浸食して、ハンガリー人を駆逐していったのだろう。もちろんハンガリー人はなおスロバキアの人口の10%ほど残っているが、ほとんどが南の平野にへばりついて住んでいる。タトラ山脈から流れ出した水は山を分け、峡谷を作り、やがて平原に流れ出て、大河に注ぐ。スロバキア人も水のように山間から滲みだしてきて、平原に広がったのではないか。初めはハンガリー人に同化されたが、19世紀になると平原に降りても自分たちの民族性を維持するようになった。チェコスロバキア時代を経て、自分自身の国家までもつに至った。その結果、民族的には同質的な国家ができたが、経済地理的、政治地理的にははなはだ不自然な国家となってしまった。
 そのように考えると、ブラチスラバだけを見ていてはスロバキアのことが分からないような気がした。ブラチスラバにはドナウ川が流れている。川は一番低いところを流れる。ブラチスラバはおそらくスロバキアで一番低いところである。北のタトラ山脈から流れ出る小さな諸川がドナウ川やティサ川に流れ込む。スロバキアを知るためにはやはり山を見なければダメではないか。こういう思いに取り憑かれて、次第にその山国の首都、バンスカー・ブィストリツァを見たいと思うようになった。幸い、国際シンポジウムがはねたあとの日曜日がまる一日空いた。

<中略>


旧市街では市庁舎の隣にあった歴史博物館に入った。絵画、彫刻、家具、衣装などが展示されていたが、ほとんど説明がない。名前も年代も入っていない。とくに肖像画についていつの時代の誰の肖像画であるかが示されていない。これはブラチスラバの王城にあった博物館でも同じであった。正式の歴史博物館ではないのだからそういうことに無頓着なのもある程度やむを得ないと思われたが、あまりに匿名であるのが気になった。それはおそらくここで展示されている人物のほとんどがスロバキア人ではないからだろう。この都市を築き、経済的に発展させたのがドイツ人であったとすれば、政治的に支配したのはハンガリー人である。肖像画の主はほとんどドイツ人かハンガリー人であったに違いない。スロバキア人が出る幕はまずなかったのである。
 スロバキア人が住んでいたこの山地のど真ん中においてさえ、都市におけるその比重は何世紀にもわたってきわめて低かった。その事実に直面したとき、私は一つの感懐に襲われた。その昔、フリードリヒ・エンゲルスが作り出し、オットー・バウアーが彫琢した「歴史なき民族(geschichtslose Nationen)」という悪名高い概念がある。自らの支配階級をもたない民族というほどの意味である。そこには歴史を作るのは支配階級のみ、という考え方がある。その当否はさておいて、スロバキア人こそはまさしく「歴史なき民族」の典型である。「歴史なき民族」の歴史博物館は自己矛盾である。そこには本来展示するべきものがないのだ。

<中略>

たしかにスロバキアはタトラの山々から滲みだしてきた人々の作った国だ。それはこのバス旅行で確認できた。しかし、タトラの山々がもともと彼らのものであったのかどうかはなんともいえないという気がした。タトラ山地の首都バンスカー・ブィストリツァでさえどの程度スロバキア人のものであったのか。バンスカー・ブィストリツァは誰の町か。スロバキアはいったい誰の国か。
 不思議なことにスロバキア人は一度も自らの国家を闘いとっていない。国家は彼らにとってひとりでに転がり込んできたのだ。1918年も、1939年も、そして1993年もそうであった。唯一の闘いとる試みであった1944年の国民蜂起は失敗に終わった。この地方の歴史の表舞台で踊ってきたのはドイツ人、ハンガリー人、そしてチェコ人である。それをスロバキア人はかたわらでじっと眺めてきた。支配民族は来たり、また去っていった。スロバキア人と同じように被支配民族であったユダヤ人もジプシーもそうである。彼らの運命にスロバキア人は関心を寄せないのだ。
 それでよいのか。歴史とはなにか。スロバキア人も歴史の表舞台に上がったからにはその意味を知らざるを得ないだろう。    (いとう たかゆき)

http://blog.mag2.com/m/log/0000091758/90828066.html
http://blog.mag2.com/m/log/0000091758/90880091.html






【私のコメント】
3年前のメルマガ「ユーラシア・ウォッチ」では、「歴史なき民族」であるスロバキアの歴史博物館が取り上げられている。肖像画を初めとする絵画、彫刻、家具、衣装などの展示にほとんど説明がなく、名前も年代も入っていない。それは首都ブラチスラバの王城にあった博物館でも、タトラ山地の中心都市バンスカー・ブィストリツァでも共通している。その理由はおそらくここで展示されている人物のほとんどがスロバキア人ではないからだろう。この都市を築き、経済的に発展させたのがドイツ人であったとすれば、政治的に支配したのはハンガリー人である。肖像画の主はほとんどドイツ人かハンガリー人であったに違いない。スロバキア人が出る幕はまずなかったのである、と伊東 孝之氏は述べている。スロバキアがチェコから分離独立したのも、このような歴史に由来するスロバキアの後進性、チェコとの格差が原因であったのだろう。

ただ、スロバキアは孤独ではない。欧州には他にも「歴史なき民族」が存在する。バルト三国のエストニア・ラトビアが例として挙げられるだろう。また、欧州にはスロバキアよりも貧しく、EUにも加盟していない民族(例えばモルドバ)が存在する。国家さえ形成できない貧しいジプシー民族も存在する。彼らを眺めることでスロバキア人はその心の痛みを和らげることが出来る。このことは「歴史の欠除」に苦しむスロバキア人にとって救いであろう。


私はこのメルマガを読んだとき、韓国の朴正熙大統領が記した「我々は今何をいかになすべきか」を思い出した。歴代の朝鮮半島国家は7世紀の新羅建国以来常に周辺大国の属国であり続けた国である。朝鮮人の王は存在するが、それは属国の王に過ぎず、朝鮮史は周辺大国への屈辱的な隷属の歴史に他ならない。朴正熙大統領が漏らした「朝鮮人であることの苦しみ」は、「歴史なき民族」スロバキア人の苦しみに通じるものがあるのだ。

ただ、スロバキア人に比べて朝鮮人の苦しみはより大きいと想像される。それは、朝鮮半島の周囲には朝鮮人と同様の「歴史なき民族」はおらず、朝鮮人が優越感を感じることのできるより下位の民族からなる国家も存在しないからだ。朝鮮半島を取り囲む日本、中国、ロシア、更に朝鮮半島に軍隊を駐留させている米国はいずれも代表的な世界の超大国である。そして、中国北部に存在する少数民族である満州族、モンゴル族も、かつて中国、あるいはユーラシア大陸を支配した大帝国を建設したという偉大な歴史を有しているのだ。これらの民族の歴史と比較した時、朝鮮史の属国性はあまりに惨めである。このような状況で朝鮮民族が国家を維持していくには、惨めな歴史に取って代わる別の求心力が必要不可欠である。それが現在の韓国に見られる「反日」や、あるいは「日本に次いでOECD加盟を果たし先進国の仲間入りをした事に対する自尊心」なのだろう。しかし、韓国は「反日」を唱えつつ日本にあまりに大きく依存している。また、韓国の製造業は高品質の日本と安価な中国の挟み撃ちにあっており、先行きは暗い。恐らく韓国人の多くも「先進国としての自国の先行きの暗さ」を自覚しているのだろう。それが、韓国人の海外移民指向の強さの原因なのではないか、と私は想像する。
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7 コメント

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最近の韓国人の海外移民指向が強い理由は・・・ (映作)
2007-09-27 11:52:26
国内の教育水準・就職率の低下などもあるらしいです。
『本当はヤバい!韓国経済』(著者/三橋貴明)にそこの事情が詳しく書かれていますので、もう少し突っ込んでお知りになりたいならどうぞ。
大新聞やテレビの情報だけではなかなかうかがい知ることのできない、経済数値のカラクリや読み取り方なども書いてあるので、一読の価値はありますよ。
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Unknown (Unknown)
2007-09-27 15:21:22
ただ1つ。彼等はその歴史を真摯に受け止める前に、なかったことにしようとしている。或いは、嘘の都合の良い歴史で埋め合わせようとしている。今から何か新しい物を造ろうではないかという気持ちが無い。だから卑屈である。まあ、最もそのような真摯な気持ちがあるのなら、ああはなっていないだろう。

面白いのは、歴史に無頓着な韓国人は意外と付き合いやすいという点だ。ただ心をすぐ許すのは愚策である。
返信する
Unknown (Unknown)
2007-09-29 01:31:08
朝鮮は歴史上中国の一部だったのだから、中国人として生きればよいのではないだろうか。
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Unknown (CatSit1)
2007-09-29 12:54:09
「『事実』という強固な地盤の上に、『論理』という堅牢な建材で構築する」
という事ができない朝鮮人。

「『妄想(捏造)』というマヨネーズのような地盤の上に、
 『情緒』という腰の無くなった綿のような建材で構築する」ことしかできない朝鮮人。

結果は・・・・リスの寝床か豚のヌタ場くらいしかつくれませんてww

(台湾の方は日本の併合時代の遺産を発展的に継承しつつあるようですね)
返信する
韓国・北朝鮮の人口増加による脅威 ① (Unknown)
2007-09-30 08:41:54
韓国は日本より少子化が進んでいると思っていたのですが、人口が増えだしていることに日本人は脅威を感じるべきだと思います。経済が衰退しているのに人口が増えては、日本への難民がより深刻な問題になると思います。北朝鮮も同様、周辺諸国に脱北者問題が取り上げられているのに人口増加率は増えているのです。現在世界の人口は66億人、1年間に約1億人ずつ増えている計算になるようです。アメリカも911以降人口が増え、3億人以上になっているし、中国も一人っ子政策が見直されてきているということだし、人口問題はいろんな争いごとを引き起こしかねないと思います。また、自殺者が増えていては、日本としては、周辺諸国と共に人口問題について話し合う必要があると思います。


世界人口
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%BA%BA%E5%8F%A3

国の人口順リスト
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E3%81%AE%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E9%A0%86%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88

国の人口増加率順リスト
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E3%81%AE%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E5%A2%97%E5%8A%A0%E7%8E%87%E9%A0%86%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88

人口増加率は、一年間に人口が4%ずつ増加する国は、18年後には人口が2倍になる。また、一年間に人口が1%増加する国は、70年で人口が2倍になる。
返信する
韓国・北朝鮮の人口増加による脅威 ② (Unknown)
2007-09-30 08:46:30
人口増加率(%) 順位(235中) 人人口密度

世界(平均) 1.14 122 6,602
EU(平均) 0.15 192 490

イラク 2.66 26 65 55
インド 1.38 107 1,130 318
イスラエル 1.18 119 6
イラン 1.10 123 27 40
アメリカ 0.91 132 301
カナダ 0.88 134 33 3
オーストラリア 0.85 138 203
北朝鮮 0.84 139 23 184
台湾 0.61 151 22 627
中国 0.59 154 1,322 134
韓国 0.42 169 49 491
フランス 0.35 176 63 109
イギリス 0.28 181 61 244
イタリア 0.04 199 58 192
日本 0.02 200 127 336
ドイツ -0.02 208 82 233
ロシア -0.37 228 141 9
返信する
韓国・北朝鮮の人口増加による脅威 ③ (Unknown)
2007-09-30 08:58:33
↑数字の表示がうまくいかなかったのでリンク先をご参考にしてください。あしからず。

2007年7月時点での人口予測
https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/fields/2119.html

2006年GDP (billions) 日本4,463.590  韓国877.190


少子化:「双春年」効果で新生児数急増
http://www.chosunonline.com/article/20070815000029
保健福祉部は「今年1月から6月までに行政自治部の住民登録ネットワークを調べたところ、新生児数は23万8817人で昨年同期間に比べ1万1522人多かったことが分かった」と14日、発表した。昨年は前年度に比べ1万377人の増加だった。韓国の新生児数は00年のミレニアム・ベビー・ブームを除き、この十数年間減り続けていたが、06年に増加に転じた。

【萬物相】「自殺大国」韓国
http://www.chosunonline.com/article/20070131000034
韓国の自殺率、OECDトップに
http://www.chosunonline.com/article/20060919000038
自殺率が史上最高 10年前の2.3倍
http://www.chosunonline.com/article/20040922000029

韓国は今も幼児輸出国=全米公共ラジオ
http://www.chosunonline.com/article/20070828000008
韓国はいまだに毎年2000人以上の幼児を海外に送り出している

中国人の自殺率、女性が男性を上回る=ロイター通信
http://www.chosunonline.com/article/20070912000016
中国では毎年平均28万7000人が自殺しているが、このうち女性が15万7000人で、男性より21%も多かった。
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