「それがどうした? 俺が今までに告訴されたことがないとでも思うか? 何にもないところからは、たとえ王様だって何も取り立てることは出来ねんだよ。ここの貸し間の家具は古物商のものだ。俺の店は百エキュの値打ちもない。あんたの上司が、俺にはその手間を掛けるだけの値打ちがないってことが分かったら、俺を放っておいてくれるだろうよ。俺みたいな男からは何も取れねえよ」
「そう思いますか?」
「ああ、思うとも」
「残念ながら、またあんたは間違っている。あんた宛ての小切手を持っている人は金を取り戻すことに固執しているわけではない。そんなことではなく、自分の取り分など構わないから、あんたに苦痛を与えてやりたいと思っている……」
ここでフォルチュナ氏は、憐れな債務者が裕福な債権者によって告訴され、追い詰められ、執拗に悩まされ、どこまでも追跡され、着替えの服までも差し押さえられるという悲惨な図を描いて見せた。ヴァントラッソンは恐ろしいまでに目をぎょろつかせ、威嚇的な握り拳を振り回したが、彼の妻は明らかに恐怖に度を失っていた。彼女はもはや耐えられなくなり、突然立ち上がると、夫を店の奥の方まで引っ張って行きながら言った。
「こっちへ来な。話があるんだよ」
彼は従い、二人は二、三分の間激しい身振りを交えまがら低い声で話し合っていた。彼らが戻ってきた時、口をきいたのは妻の方だった。
「お願いしますよ、旦那。あたしたちゃ今一文無しなんですよ。商売はうまく行かないし、告訴なぞされた日にゃ、あたしたちゃおしまいですよ……。どうすりゃいいんです? 見たところ、あんたは良さそうな方だし、どうすりゃ良いか、言ってくさいまし」
フォルチュナ氏は黙っていた。考え込んでいるような様子をしていたが、やがて突然言った。
「むろん、そうです! 気の毒に! 不幸な者同士は助け合わなくちゃいけません。あなた方に本当のことを言いましょう。私の上司は悪い人間ではないのです。復讐してやろうなんて思っちゃいません。だから私にこう言ったのです。『ヴァントラッソン夫妻に会いに行ってこい。実直な人たちだという印象を受けたら、彼らに和解案を提示しなさい。もし彼らがそれを受け入れたら、債権者も満足するだろうから』と」
「その和解案というのは?」
「こういう内容です。一枚五十サンチームの証紙に、この金額を承認し、毎月一定の額を払い込む旨を明記してくだされば、引き換えにこの小切手をお渡しする、という」
夫婦は目で相談し合った。それから妻の方が言った。
「受け入れます」
しかし、印紙を貼った用紙が必要だったが、自称執達吏の見習いはそれを所持していなかった。この状況は彼の熱意を冷ましてしまい、和解案を示したことを後悔しているかに見えた。彼がその提案を引っ込めたとしたら?と考えると、マダム・ヴァントラッソンは震え上がった。彼女は荒々しく夫の方に向き直った。
「レヴィ通りまでひとっ走りしてきな」彼女は言った。「タバコ屋なら、必要なものを置いてるだろうよ」7.28