「ほら、ご覧なさい、お嬢様、私の申したとおりでしょう? 私の言うことを聞いて、少しはお休みになってくださいまし。あなた様の年頃では、寝ずの番なんてご無理ですわ……」
「いくら言っても無駄よ」彼女は頑固に言い張った。「私は一晩中付き添うわ」
相手は黙ったが、このとき女たちの間で奇妙な視線が交わされたようにジョドン氏には思われた。
「なんとね!」ジョドン氏は退却しながら内心思っていた。「あの二人は互いに相手を信用してないみたいじゃないか……」
彼の察したとおりかもしれなかった。確かなことは、彼がくるりと踵を返す前に、マダム・レオンが今一度『大事なお嬢様』に少なくとも数時間横になるよう強く勧めていたということだ。心労のあまり頬に斑点が出来、目の周りの青っぽい隈がますます広がっているという健康上の理由を家政婦は数え上げ、マルグリット嬢に懇願を繰り返していた。
「何を御心配なんですの?」と彼女はしみじみとした口調で言った。「ちゃんと私がついているじゃありませんか!レオン婆さんが眠る筈がないじゃあありませんか。あなた様の将来がここにいらっしゃる旦那様の一言で左右されるかもしれないってときに!」
「お願いだから……もうやめて……」
「いいえ、大切なお嬢様、私のあなた様への愛情が私に命じておりますの……」
「そうなの?……いいから、もう言わないで!」マルグリット嬢が遮った。「もうたくさんよ、レオン!」
その口調があまりに激しかったので、老家政婦は諦めたが、その前に大きな溜め息を吐き、自分の純粋な気持ちの証を求めるように、また自分の努力が報われないことを訴えるように天を見上げた。
「せめて、お嬢様」彼女は再び言った。「暖かくしてくださいまし……あなた様の旅行用のショールを取ってきてさしあげましょうか?」
「ありがとう、レオン……アネットに取りに行って貰うわ」
「ええ、是非そうして下さいな……それに、私達、病人を見守るだけじゃありませんね。何か必要なものがあったら、どうしましょう?」
「誰かを呼ぶわ」とマルグリット嬢は答えた。
しかし、それは必要なかった。ジョドン医師が出て行ったことで、召使い達の集会は急遽打ち切られ、今は全員が踊り場に集まっていた。彼らは不安そうに息を潜め、ドアが開いたままになっている部屋を首を伸ばして覗き込んでいた。マルグリット嬢は彼らの方に近づいた。
「マダム・レオンと私が伯爵にずっと付き添います」と彼女は言った。「アネット---これが彼女のお気に入りの女中だった---カジミール、それに下男は隣の小部屋にいて頂戴。他の者たちは下がっていいわ」
彼らはぞろぞろと引き揚げていった。ボージョンの鐘が二時を知らせた。重々しい静寂が辺りを支配した。ただ病人の喘鳴と、置時計の病を刻む音だけが沈黙を破っていた。パリの街の騒音も、王侯貴族の邸宅のように広大な庭園に囲まれたこの家の中までは聞こえてこなかった。それにクールセル通りに撒かれた藁のために、ときたまこの通りに入り込んでくる馬車の音もかき消されていた。1.23