そして双方がせめぎ合うのもこの点である。料理女が威丈高にこの合法的な盗みを沈着に主張すると、雇い主側は遠慮がちに異議を唱えることになる。
「買い物は私がします」とフェライユール夫人は大胆にも宣言した。
「それでしたら」とヴァントラッソン夫人は切り返した。「三十フラン頂きます」
パスカルと母は目で相談し合った。このがみがみ女を二人とも同じように気に入らなかった。こんな女は追っ払ってしまえばいい、造作もないことだ、と二人は結論した。
「それは高すぎます!」とフェライユール夫人は言った。「私は今まで十五フラン以上支払ったことはありません」
しかしヴァントラッソン夫人は、おめおめと引き下がる人間ではなかった。この口を逃してしまったら、次のを見つけるのは容易ではないと分かっていたからだ。彼女を自分の家に雇い入れようなどと思うのは、この界隈の新参者で、『高級家具付き貸し間』の評判を知らない者たちしかないということを知っていたからだ。というわけで彼女はパスカルとその母親の同情を惹こうと自分の身の上話をし始めた。それはある事ない事を巧みに混ぜ込んだでっち上げの話で、彼女は自分自身を商売上の競争や都市区画整理の犠牲者として、また金欠と親族の冷酷な振る舞いに苦しめられている者として描いてみせた。自分も夫もれっきとした家系の出身であり、それは人に聞いてくれれば分かる筈、と彼女は主張した。ヴァントラッソンの姉はグルルーという名前の男の妻であり、夫はサンドニで製本業を営んで一財産をなした後、引退した。このグルルー夫妻がどうして彼女たちを助けて破産から救い出してくれなかったのか。親族の好意など当てにしてはならない、と彼女は嘆いた。商売が上手く行っているときは羨ましがったり、ちやほやしたりするが、左前になるとけんもほろろになる、と。
これらの泣き言はヴァントラッソン夫人への同情を呼び起こすどころか、彼女のただでさえ不快な顔に嘘くささと疑わしさが加わり、不安にさえさせるものだった。
「今言いましたように」とフェライユール夫人は遮って言った。「十五フランです。それが不満ならお引き取り下さい」
ヴァントラッソン夫人は一段と激しく抗議した。先ほど言った額より五フランなら下げましょう、でもそれ以上は……無理です、と。自分ほどの女、ちゃんとした地位を持ち、正直者であるという掘り出し物が雇えるというのに十フランを出し惜しみしなければならないものか。清潔好きであることにかけては並ぶ者がなく、主人への忠誠という点ではプードル犬も顔負けの自分を。
「言うまでもないことですけれど」と彼女は付け加えた。「私は腕の良い料理女でしたよ、若い時には。今でも腕はそんなに衰えちゃいません。奥様も若旦那様もご満足なさいますよ。なんたって私のソースを舐めんばかりに喜んで賞味してくだすった貴族の殿方は一人や二人じゃありませんでしたよ。ド・シャルース様のお邸で奉公してたとき……」7.29