エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-XI-4

2024-04-08 15:38:31 | 地獄の生活
というのも、パスカルは自分の母が厳格な伝統に固く縛り付けられていることは知らないわけではなかったからだ。一般市民階級の古い家柄では、母から娘へと代々受け継がれる貞節の掟のようなものがあり、それは情け容赦なく盲目的とも言えるものだということも……。
「男爵夫人は夫から崇拝されていることがよく分かっていたんですよ」と彼は思いきって言ってみた。「夫が帰ってくると知って、彼女はパニックになり理性を失ってしまったんじゃないでしょうか……」
「それじゃお前は、その人を弁護するというの!」とフェライユール夫人は叫んだ。「お前は、過ちを償うのに罪をもってなす、なんてことが可能だと、本当に信じているの?」
「いいえ、断じてそんなことはありません、でも……」
「男爵夫人が自分の娘にどんな苦しみを与えたかを知ったら、お前ももっと彼女に厳しい判断を下すでしょうに。自分の母親によって、中央市場の近くのどこかの家の門の下に密かに捨てられてからド・シャルース伯爵に引き取られるまで、彼女がどれほど危険で悲惨な目に遭ったかを知ればねぇ……彼女が死なずにいられたのは神様による奇跡ですよ……」
フェライユール夫人はどこからこんな詳しい話を聞いたのだろうか? この疑問がパスカルの頭に浮かんだが、その答えは全く分からなかった。
「ぼ、僕は分からないんですが、お母さん……」と彼はもごもごと言い始めた。
夫人は息子の目をじっと見つめた。それから優しく言った。
「それじゃ、お前がマルグリット嬢の過去について何も知らないのは本当なのね。彼女はお前に何も言わなかったのね?」
「彼女の過去がとても不幸だったことは知っています」
「彼女が年季奉公をしていたときのことを、彼女から何も聞いていなかったのね……」
「生きるために手仕事をして働いていた、と話しているのを聞いたことがあります……」
「そうなの。私はね、もっと詳しく知っているのよ!」
パスカルは仰天を通り越して殆ど恐怖に近いものを感じていた。
「お母さん、あなたがですか!」と彼は叫んだ。
「ええ、そうよ。私はね、彼女が引き取られ、養育を受けた孤児院から戻ってきたところなのよ。そこの修道女様二人とお話をしてきたわ。お二人とも彼女のことを覚えていらしたわ。それに、彼女が見習いとして働いていたところにも行って親方夫妻の話も聞いてきたわ。そこを辞してからまだ一時間にもならないわ……」4.8
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