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女王陛下のキス

2010-08-01 | 自衛隊

「マアウレシイ」という記事で、帝国海軍のユーモアについてお話ししました。
「ユーモアを解さざるは帝国海軍軍人に非ず」というモットーを表す逸話です。

ユーモアとはこのブログに来られる方ならどこかで目にしておられる言葉、

「スマートで目先が利いて几帳面、負けじ魂これぞ船乗り」

の「スマート」に含まれる項目だと思います。


さて、旧海軍ファンであるところのエリス中尉、
当然のことながら旧海軍の流れをくむ海上自衛隊と航空自衛隊には
並々ならぬ関心を寄せるものですが、

先日現役の自衛官の方をさる会合でお見かけしました。

その方が発言する機会があったので、後ろの方を首をめぐらして見た、
という程度でしたが、
背中をしゃんと延ばして座っている姿といい、
はっきりした声ときりりとした物言いといい、何ともりりしい男前自衛官さんでした。

背骨に芯の通った、といえばいいのでしょうか、一言で言うと「頼もしい男」って感じ。

この絵にかいたようなスマートな海軍さんを目の当たりにして、
わたくしさらに自衛隊に対する興味がしんしんと湧いてきたものですが、
色々な資料を見ると、やはり海自は旧海軍の流れをそのまま汲んでいるといってもいい組織で、
特に江田島における士官教育(幹部教育)などは

「海軍兵学校のそれと違うところがあるとすれば殴らないことだけ」

というくらい厳しいものらしいですね。


鬼と言われる教育係が起床動作の際、ちゃんとたたまれていない毛布をひっくり返したり、
上官に敬礼をしなかった生徒を厳しく咎めたり、勿論五省を唱和したり、
教育内容に置いてはほとんど連綿と受け継がれるものに戦前戦後通して変わるところは無いようです。
船乗り精神が変わらない以上、教育現場のネイバル・スピリットそのものも不変ということでしょうか。


そして、旧海軍で重んじられた「ユーモア」の伝統もまた、海上自衛隊には
しっかり受け継がれている、というお話を今日はさせていただきましょう。

この逸話は、海自の方で知らぬ者のない有名なもので、
当時はあらゆる海外のプレスもこぞって記事にしたのだそうです。
これをなぜか報道しようとしなかった日本のメディア以外から
最初は口づてのように広まったものです。



2000年7月4日のこと。

20世紀最後のアメリカ独立記念日を祝う洋上式典に参加するため、

世界各国の帆船170隻、海軍の艦艇70隻がニューヨーク港に集まりました。

翌日の5日にイギリスの豪華客船「クイーンエリザベス号」が入港してきたのですが、
折悪しくも2ノット半の急流となっていたハドソン河の流れに押された巨大な客船は、
あれよあれよと言う間もなく、
係留中の我が海上自衛隊の練習艦「かしま」の船首部分に接触してしまったのです。
真っ青になるクィーンエリザベス号の乗組員。

相手は「軍艦」。

事と次第によっては国際問題にもなりかねない事態です。

着岸したクィーンエリザベス号からすぐさま、
船長のメッセージを携えた機関長と一等航海士が謝罪にやってきました。
船長が降りてこなかったのは、こういうときのきまりで、
着岸直後は船長は船にとどまるのが慣例だからなのだそうです。

丁重な謝罪を受けた「かしま」艦長の返事はこういうものでした。

「幸い損傷も軽かったし、別段気にしておりません。
それよりも女王陛下にキスされて光栄に思っております」



これを言った「かしま」艦長、上田勝恵一等海佐はもう退官なさっているそうです。

帝国海軍の「スマートなユーモア」を地で行くこの粋で当意即妙の返答、
こういったユーモアの本家本元を自認するジョンブルも皆脱帽したことでしょう。

当然のことながら、そのときハドソン川に集結していた他国の船乗りの間で
この逸話は口から口へと語られ、
ニューヨークだけでなく、本国ロンドンにも伝わりました。
さらに「タイムズ」や「イブニング・スタンダード」などのメディアもこぞって
この日本のネイバル・オフィサーの洒脱を称賛したということです。


冒頭写真は、ウィキペディアより転載したもの。
この事件から5年後の2005年、トラファルガー海戦200周年記念国際観艦式で、
そのとき「キスされた」当のエリザベス二世陛下その方に登舷礼式する「かしま」の雄姿です。



写真
Source: deskilfeather.com
Author: DP Kilfeather
dpk.com@deskilfeather.com