「成層圏の要塞」というタイトルで、ロッキードの「ストラトフォートレス」
という飛行機のあれこれについてお話ししたことがあります。
この「ストラト」は、「成層圏の」という意味があることをこの時に知ったのですが、
ロッキード社の手がけた飛行機にはこの「ストラト」をかぶせたシリーズが
いくつかあり、ここアトウォーターのキャッスル航空博物館にも展示されています。
まずその一つがこの
C-97ストレトフレイター(Boeing C-97 Stratofreighter)
フレイターというのはズバリそのもので「貨物輸送機」ですから、
ストラトフレイターとは
「成層圏の貨物輸送機」・・・・・
なんでも成層圏ってつければいいってもんじゃなかろう?とつい突っ込みたくなりますが、
ストラトフォートレスの名前の系譜を受け継いだという関係上仕方ありません。
しかし、シェイプはご覧のようにずんぐりとしてストラトフォートレスとは大違い。
・・・・・・といいたいところですが、実はこの機体、同じく
ボーイングが開発したB-29戦略爆撃機と基本的に同じなのです。
ちなみにこちら、スーパーフォートレスWB-50D。
似てるといえば似てますよね。
このB-50がB-29の改良型で、爆撃機より胴体が拡大されていますが、
主翼はほぼB-29と同じとなっています。
おまけでスーパーフォートレス反対側から。
英語名称ではB-50スーパーフォートレスですが、なぜか日本語記名では
B-50だけで、「スーパーフォートレス」の名称は使用されていないようです。
B-29と混同するので、こちらはそう呼ばないことに決めてるんでしょうか。
B-50スーパーフォートレスはストラトフレイターより少し後の
(ストラトフレイターは戦争末期に開発された)1947年に運用が始まりました。
なので、実戦に投入されたことは一度もありません。
そのせいなのでしょうか、ノーズペイントも半裸の女性などという
ある意味殺伐としたものでなく、「ニルスと不思議な旅」の挿絵のような(?)
メルヘンちっくな鳥さんが描かれ、そこには
「フライト・オブ・ザ・フェニックス」
という文字が・・・・・・。
・・・いやこれ、どうみてもガチョウなんですけど。
もういちどストラトフレイター。
この飛行機を不恰好なものにしているのは、輸送機型に改造されるにあたって、
上下方向におもいっきり拡大されたそのボディ。
恥も外聞もなく容量を大きくすることで輸送積載の拡大を図ったわけです。
これが貨物輸送機であることを示すためか、わざわざ前に
黄色いコンテナのようなものを置いています。
とってつけたような下腹部が、実際にとってつけた部分です。
機体にも記されているように、アメリカ空軍が運用していました。
これだけ思いっきり大きくしたので、2台のトラック、または軽戦車を運ぶこともできましたが、
それでなくても機体が大きくて鈍重なため(やっぱり)前線には使用されたことがありません。
主に、後方で患者の輸送に使われていたようです。
ちなみにこれがストラトフレイターが飛んでいるところなのですが、
何かに似ているような・・・・・グッピー?
と思ったら、本当にあった(笑)プレグナント・グッピー。
うーん。わたしはこの人生でこんな不細工な飛行機を見るのは初めてかもしれない。
かっこ悪い。ひたすらかっこ悪いこのシェイプ、このストラトフレイターを
さらに改造して作られた輸送機で、「おめでたのグッピー」のおなかには
アポロ計画のためのロケット部品を積み込むために、NASAが運用していました。
さらにさらに、怖いもの見せたさでもうひとつお見せしておくと、
いるよね。こんな生物。
グッピーというよりこれはイルカとかクジラの類い?
こちらもNASAの運用のために、プレグナントグッピーをさらに大型にした
スーパーグッピー。
こんな短い翼で飛べるの?と思ってしまいますが、そもそもストラトフレイターの頃から
エンジンの強さには定評があるので無問題。
これがどれだけでかいかというと、こんなシェイプなのに全長が43、84m、
B-29より13m大きく全幅が47,625mでこれもB-29より4mも大きい。
飛来するB-29を見て、
「でかい・・・・薄気味悪いくらいでかい」
と言っていた紫電改のタカの久保一飛曹にぜひこの機体の感想を聞いてみたいものである。
B-47ストラトジェット
成層圏のジェット機。
Bー29の後継機として戦略航空集団が導入した戦略爆撃機。
同じストラトでもどうですか。このスマートさは。
と思ったら案の定、この機体の設計に関しては戦時中、ドイツの
後退翼機の情報を手に入れたことから、急遽予定変更して作られたものなんですね。
完成したのは1947年と戦後なのですが、戦闘中に盗んだ他国の情報を
堂々と戦争が終わってから製品化してしまうあたりが、
勝ったのをいいことにやりたい放題のアメリカさんらしいですね。
とにかくこの後退翼を搭載した最初のシェイプは、
それまでのものと比べると革新的なものだったといえます。
どうよこの画期的なこと。
というか翼無駄に長すぎね?と思うんですけど。
こうして横から見ても、いかに翼の角度が後退しているかがわかります。
「成層圏の要塞」というエントリでも、B-52に核を積ませてウロウロさせていた、
という話をしたのですが、ちょうどその頃、冷戦初期のの運用であったため、
この機体も、大重量の核爆弾を搭載することを考慮して設計されました。
のちに、米露の間で「危ないから核を使うのお互いやめような」という
「核戦争の危険を低減する方策に関する合意書」
を交わすことになるまで、配備が積極的に進められたため、
生産台数は2、032機と大変多くにのぼりました。
Bー29が朝鮮戦争でMiG-15を相手に苦戦したので、
この中途半端さにも関わらず大量投入される結果になったのですが、そのせいで、
1955年から65年にかけての4回にわたっていずれもMiGに撃墜撃破されています。
最後の一機だけが撃破されるも横田基地にかろうじて帰投することができたようです。
ノーズを真下から見たところ。
カメラ用らしい穴が見えていますね。
思いっきり地味な感じのこれは
KC-135ストラトタンカー。
またストラト。「成層圏の油槽機」です。とほほ。
その名の通り空中空輸・輸送機。
飛行中。
お仕事中。餌をあげているのはF-16。
F-16に給油できるということはかなり速度も出せるってことですよね。
今ふと考えたのですが、空中給油という方法ができてから、少なくとも飛行機が
燃料切れで墜落するということがなくなったんですよね。
これはコロンブスの卵というか、誰が考えたのか知らないけど凄い。(小並感)
ストラトタンカーのスコードロンマーク。
ここキャッスル空軍基地に昔配備されていたらしく、町の名前「アトウォーター」と
町のシンボルである給水塔が(^◇^;)描かれています。
というか、給水塔がシンボルだなんて、どんだけ何もない街なんだよ。
ボーイング社は終戦時、大型爆撃機増産のために莫大な設備投資を行っていたので、
戦争が終わって喜びに沸くアメリカで今後の不安に怯えていました。
ボーイングに限らず武器会社は似たようなものだったと思うのですが、
とくにボ社は民間より軍に重きを置いてきたので終戦は切実な問題だったのです。
そこで従業員の3分の1を解雇するという業務縮小に加え、
戦争中から開発を進めていたストラトフレイターを元に、
会社を立て直すためにこれを旅客機にし立て直すことにしました。
ところが戦争中軍との商売に力を入れすぎたのが祟り、民間から発注が来ません。
頑張って営業努力を重ねた結果、発注が取れ、ストラトクルーザーと名付けられた
フレイターの改造版旅客機の開発がようやく始まります。
エンジンもB50に使われた4300馬力の強力なものを搭載し、
機体は従来の形を2段重ねして(つまり中が二階建て)収容能力をアップ。
一階部分にはバーラウンジも設けるなど、飛行機が特別なものだった時代に、
ゴージャスな旅をお約束する旅客機になったのです。
(のちに講和条約に向かう吉田茂や白洲次郎ら全権団がお酒を飲んだところです)
ただ、途中でB-29から設計変更し、エンジンがパワーアップしているのにプロペラが
そのままだったことから、故障などが相次いで信頼性はイマイチだったそうです。
戦後開業した日本航空が、当初のリースを含めて、
ボ社の飛行機を一切使用しなかったのは(最初のリースはダグラスDC-3)、
ボーイングが日本人の敵B-29を作った会社だったからという説があります。
しかし実際は、ボ社が戦後民間飛行機への転用をうまく行えなかったせいで、
遺恨以前に、単に同社を信頼できなかったというのが本当のところだそうです。
ボーイング社の方も、B-29を改造しただけのストラトクルーザーを
日本人が買ってくれるなんて全く期待していなかったでしょうけど。