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平成28年度富士総合火力演習〜映画「シン・ゴジラ」出演装備

2016-09-09 | 自衛隊

この日は午前中の小雨が予報でも言われていたため、
会場に来ていた人は皆雨具の用意をしていました。
途中で少しパラパラと雨が降り出した途端、周りの人たちが
キタキタ、と言って早々にレインポンチョなどを着込みだしました。

アメリカ人ならよほどの雨が降るまで傘は差さないので、
一瞬も濡れまいと皆が一斉に準備を始める様を見て、
ああ日本に帰ってきた、とあらためて実感したわたしです。

しかし、結局気配だけで午前中は天気は持ちこたえました。

一応Nikon純正のレインカバー(レンズのところをベルクロで留め、
手を中に差し入れるようにして透明の部分からファインダーを覗く)
を持ってきていたわたしもそそくさとバックパックから出したものの、
結局一度も使わないまま終わりました。

ところで冒頭のヒトマル式戦車射撃の瞬間は、25日の予行に撮ったのですが、
火炎の形が一番気に入っているので今日まで出し惜しみしていたものです。

さて、それでは続いて27日に撮ったもの、続きをどうぞ。



定位置に着かんとする96式装輪装甲車の車上。
今回写真を撮っていて案外眼鏡をかけた隊員が多いのに気付きました。

96式装輪装甲車は、機密性に優れているため、放射能汚染地域や
化学剤による汚染地域にも展開させることが可能です。

東日本大震災ではこのII型が災害派遣された実績があります。
II型には、最悪、原発職員が全員撤退するようなことになった時を想定し、
中央即応連隊がこれで救出作戦を行えるよう特別改造を施されていたそうです。

この際、放射能で汚染された原発施設に突入し、車両の上に人を乗せて脱出、
安全地域までそのまま運んで除染することができるように、
そのため踏み台、ロープ、落下防止の手すりが取り付けられ、拡声器も外付けしていました。
戦車部隊配備の車両もかき集め、数両がこの仕様に改造されたということです。

あのとき、政府が右往左往して手をこまねいて見ている中、
自衛隊ではこんなことまで想定して用意をしていたのです。(ここ伏線)



その96式が、96式40mm擲弾銃を2台で撃ち、
敵歩兵に見立てた黄色い風船が破裂したその瞬間。

この擲弾銃は、車上からも車内からも撃つことができます。



96式装輪装甲車は歩兵を10人まで運ぶことができます。
小銃小隊は下車して速やかに戦闘を展開できるというわけです。

というわけで、96式装輪装甲車が大変使える武器であることを知った
今回の総火演でした。



60からの偵察オート隊が降りてくる様子などは全く撮れませんでしたが、
飛行中のヘリコプターはまあ普通に撮ることができました。
武装ヘリアパッチの銃撃と・・・・、



弾薬が炸裂する瞬間。
アパッチの砲撃から出る煙はどういうわけか鮮やかなピンクです。



もう一つ、対戦車狙撃銃の爆発の瞬間。
中空の大きな火の玉の下地面には、無数の砂煙が上がっています。



ガンタンク、87AWにもこのように黄色いロープが入り込んできましたが、
この写真は2門の銃を手を挙げるのように空に向けており、
本来の自走式対空砲らしい動きをしていたので撮ってみました。

このあとの戦車の展示は、行われている場所が視線の高さで、
ほとんどが人の頭に遮られているか、見えても黄色いロープがあるかで、
もう撮る気もなくしてただ眺めていました。



戦車にはこのようにもれなく黄色いロープ付き。
これでは撮る気なくしますわ。



27日には行われなかったと書いてしまいましたが間違いでした。
この日はフリーフォール降下、雲の厚いのを圧(お)して行われました。

地上からヘリは全く見えませんでしたから降下員は雲の下が
どうなっているか全くわからないまま生身で飛び降りたということです。

これは・・・・きっと怖かったと思う。


さて、前段演習が終わり、後半が始まるという直前になって、
わたしは意を決して立ち上がり、会場を後にしました。
この場所で後段演習が前段よりまともに撮れるとは思えなかったし、
もうすぐ雨が降りそうな気がしたからです。



後段演習が始まっているのに外には結構な人がいました。
どうみても中東系の顔をしている軍人さんが自衛隊みやげを
物色していたので、つい写真を撮ってしまいました。


そして25日に食べそびれた富士山ケバブを食べながら帰ることにしました。
食べにくそうなので上に掛ける甘口ソースは無しで注文しました。
ソースがあった方が美味しかったと思いますが仕方ありません。




そして、こんな時だけ異常に当たるわたしのカンどおり、
ちょうどバスから停めてあった車に乗り込んだとたん、ポツポツと始まった
雨が、高速に向かう頃には激しく御殿場一帯に降り始めたのでした。


 

ところでいきなりですが、皆さん、映画「シン・ゴジラ」ご覧になりましたか?
わたしは観ました。

この日同行した撮り自さんの連絡メールに、

「今観てきましたが、自衛隊ファンなら是非お勧めしたい映画です」

とあったのですが、帰国後多忙でなかなか時間が取れず総火演を迎え、
現地に行ったらまたしてもここで同じ人に

「シン・ゴジラ見ましたか。行くべきですよあれは」

と熱烈にお勧めされてしまったばかりか、

「ここ(演習場)から自走砲がロケット砲撃って武蔵小杉まで届いてましたよ」

などという、思わず「なんですって!」と膝を乗り出してしまうような
その内容を聞き、
矢も盾もたまらず、やっと時間を作って観てきたのです。

いやー、面白かったっす。

なんでもこの映画、「社会現象とも言ってもいいくらいの大ヒット中」。
思うに、作品のテーマを「日本対ゴジラ」とし、もしこんなことが起きたら
間違いなくこれ以上にグダグダになって収集つかなくなるにちがいない日本政府の、
予想範囲の混乱や総理の葛藤(笑)や対策委員会のありがちな錯綜、そして
らしくない内閣官房副長官(主人公・長谷川博巳)率いるオタクやはぐれものの
集まりである文科省・環境省の技術者集団のカオスな試行錯誤、
つまりそういう部分に焦点を当てたのが、案外成功だったって気がします。

ただ、これだけは確信するのですが、これは日本でしかウケないでしょう(笑)
現に現在のところ海外での評価は決して芳しくないとか。


わたしに言わせれば、そんなの当然です。

「自分が運命の決定者になることを好まない」指導者たちの逡巡、
後に引けない運命の中でいざとなると覚醒し力を発揮しだす人々、

そして、戦いに出る者を送り出す側の苦衷と痛切な感謝の思い。

こんな日本的心情がコアになった構成要素に加え、

何か起こったとき、全員が上から下まで、外敵に対してイケイケになるのが普通の
アメリカSF映画では決して顧みられない「戦いに至るまでのお役所仕事&手続き」
しかも会議やら根回しやらを異常なくらいの比重で描いたこの映画は、
おそらくハリウッド映画のテンポを基準にする人々には全く退屈なものに違いありません。

加えて全員で右往左往するうちに、いつのまにか問題解決している、
集団になるとなぜか力を発揮するというのもよく言われる日本人らしさであり、
こういうことにカタルシスを感じる傾向もおそらく日本人に顕著だからです。


さて、この映画は防衛省自衛隊全面協力して制作されたため、
作品中で実施される
ゴジラ打倒作戦については、スタッフが全て自衛隊と

「実際にゴジラが現れた場合、自衛隊はどのように対処するのか」

「ゴジラに対して武器の使用が認められるのか」

いったテーマでミーティングを繰り返し行い、脚本を書き、さらには
映像を得るため2015年の富士総合火力演習に参加して撮影を行ったそうです。


さて、最初の作戦「タバ作戦フェーズ1〜3」ですが、わたしの記憶によると
フェーズ1の最初の段階で登場するのはまず戦闘ヘリコブラでした。

コブラの銃撃程度では全く歯が立たず、続いてAH-64Dアパッチによる30mm弾、
それもダメで対戦車ヘリが河原に集結して攻撃。(いちいち総理の許可を得てから)
もちろんコブラのTOW攻撃もありまっせ。


その後、フェーズ2ではヒトマル式戦車がなぜか多摩川の河原を蛇行しつつ
攻撃したり、 富士演習場からM270 MLRSがロケット砲を撃ったりします。




これですね。

MLRSの射程距離はスペック上では30kmとなっています。
御殿場から新丸子橋までこれだと届かないわけですが、
弾体の
セッティングを変えたら70kmくらいはなんとかなる、
スタッフが自衛隊とのセッションから導き出し、
こういう設定にしたということでした。



25日の装備展示ではわたしは荷物番をしていたわけですが(笑)
このMLRSのところで、わたしにシン・ゴジラを勧めた人が、
装備の説明のために横に立っていた隊員に

「シン・ゴジラでこれここから撃ってましたねー」

と尋ねたんだそうです。
すると、あの映画に出ていたのがこの装備(つまりこの写真のもの)で、
その隊員さんがあの映画で装備を撃っていたご本人ということがわかりました。

そこでその人が隊員さんにもう映画を見たのかどうかときいたところ、

「まだです。今日帰りに観ます」

と言っていたとのことです。

この映画では、女性防衛大臣(余貴美子)が眼光鋭く
総理に自衛隊出動の決定を詰め寄るなどというシーンも見られます。

映画のエンドロールには、取材協力に元防衛大臣の
小池百合子東京都知事の
名前がありましたから、
防衛大臣を女性にしたのは、小池氏の協力に対するオマージュかもしれません。

(ついでに震災時の官房副長官枝野幸男の名前があったけどこっちは知らん)


あくまでもゴジラは仮想の「想定外の国難」ですが、それが現実になったとき、
日本政府の対応はともかく(笑)、自衛隊はかく戦うであろう、
という映画上のこの想定「だけ」は、ほぼ間違いないことにわたしには思われました。

そして、例えば命令下達時の独特な発声も含め、自衛隊登場シーンは
細かなところまでかなりのリアリティを与えられています。

 

ところでリアリティといえば、これだけはどうしても書いておきたい。

大統領特使役の石原さとみがはっきり言っていろいろ酷すぎ。
だいたい祖母が日本人ってだけのクォーター、つまりアメリカ人が
あんなに日本語ぺらぺらでしかも英語が下手なわけなかろう?
二世ですら、アメリカ生まれならジョージ・タケイみたいになってしまうのよ?
日系三世ともなると、日本語が喋れる人の方が珍しいってくらいなのよ?


つい出てしまうらしい"Uh-huh."の短い発音ですら、
全くネイティブのセリフに聞こえなくて
思わず苦笑してしまうレベルだったし、
おそらくアメリカ人には、彼女の言っていることより長谷川や竹野内の英語の方が
ちゃんと聞き取れたにちがいないってくらい酷い巻き舌。

ファンには悪いけど、発声も日本語のしゃべり方もウザすぎてイライラしたし、
だいたい日本人そのものの顔で「名門パターソン家の三代目」(意味不明)
とか、「親は上院議員」とか「40までに米国大統領になる」(爆笑)とか。

とてもじゃないけどそんな器には見えませんでしたわ。
人気の美人女優をヒロインにしたかった電通のごり押しなんでしょうが、
明らかにミスキャストだったと思いますね。

それから、もう一点。
劇中、官僚やら政治家が、「日本」「アメリカ」という言葉を使わないのよ。

「日本」のことはまるで規制でもかかっているように「この国」「この国」。
日本国の政治の中心にいる人たちが、まるで他人事みたいに「この国」。
誰か一人くらい「我が国」「日本」と言わないのか、と注意してたのですが。
これはとても違和感ありましたね。

それから「アメリカ」のこともなぜか全員が「米国」としか言っていませんでした。
文章で書くときはともかく、口語では普通に「アメリカ」っていいませんかね。


さて、批判はともかく、シン・ゴジラ、一緒に行った人が


「自衛隊ファンならば・・」

と書いていた意味が、観終わったあとよくわかりました。
ゴジラと戦う自衛隊はたとえ自衛隊ファンでなくとも
その頼もしさと誤解を恐れず言えばカッコよさに思わず胸が熱くなるでしょう。

海からくるゴジラを叩くのに海自の出番が少なすぎるという説もありますが、
これは空自が「F2が撃墜されるのは困る」と難色を示し
そのため出番が少なかったという噂から考えるに、海自もやはり同じように
「たかなみ」「いずも」が沈むのは困る、とか言ったからに違いありません。

むしろ、陸自の今回の出血大盤振る舞いぶりに(ネタバラしすると10式もやられる)
「何があった、陸自」と思わず聞いてみたくなります。

まあ、この映画、中国でも公開されたそうですし陸はともかく空海は色々と(略)


あと、個人的には、ピエール瀧のタバ作戦隊長がキマっていたことと、
統幕長の國村隼が長谷川に自衛隊出動の礼を言われて、


「礼は要りません。仕事ですから」

とさらっと答えるシーンなどにしびれました。



しかし、この戦いの中で多くの自衛隊員が犠牲になっていく姿も、

わたしたちはスクリーンで直視せねばなりません。
ある元海将が、退官後に新潮45に寄稿したエッセイで

「自衛隊を戦場に送り出す政府は、国民は、果たして(自衛官の)
『戦死』を受け入れる覚悟が本当にできているだろうか」

と、その「弔い方」を含めて投げかけておられた疑問を思い出さずにはいられない
この映画のラストシーンでした。





さあ、これで一応総火演の昼間についての見学記は終了したわけですが、
もう一つ、お伝えしたいことが残っています。
それはあまり一般の人が見る機会のない、夜間演習です。


続く。