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潜水艦「おうりゅう」進水式祝賀会

2018-10-08 | 軍艦

さて、「日本三大がっかりの一つ」と言われる(by潜水艦出身自衛官)
注水進水式も無事(失敗する確率はほぼゼロだと思うけど)終わりました。

しかしながら、がっかりとかつまらないとかいうのは、あくまでも
船体をすべり落とす
船台進水と比べてのことであって、
注水式の「ドック進水」も素人には十分珍しく興味深いものです。

それに、今では大掛かりでリスクのある船台進水よりも、
安全なドック進水の方が世界的にも主流になっているそうですね。

船台進水の技術は絶やさず後世に残して欲しいですが、
これも世界の趨勢なのかもしれません。

 

進水式は造船関係者にとって大変重要なもので、
たとえ量産型の船であっても必ず形式に法って行われます。

「シャンパン瓶が割れないと縁起が悪い」

というように、その船の一生を占うような意味も込められているため、
決して疎かにはできない儀式なのです。

今回の「おうりゅう」の進水式もわずか10分のために艦体を旗で飾り付け、
モールをあしらった三菱や旭日のマークをあしらい、
大掛かりな紅白幕の観覧台を設けて執り行われました。

こちら命名進水式に伴う祝賀会場です。
この祝賀会はいつも建造を請け負った船舶会社が、
顧客である防衛省側を招待する形で行われます。

「おうりゅう」が白波を立てて航行中、という予想図を
描いた
絵の部分は切り離してハガキとして使用できます。

これらの絵をラベルにあしらった進水記念酒は紅白で用意されました。
赤いお酒は初めて見ましたが、赤米で作るとこうなるらしいですね。
お酒の製造は櫻酒造だと隣の人が言っていましたが確かめてません。

ここで三菱重工業社長ののスピーチが始まりました。

「おうりゅう」は初めてリチウムイオン電池を搭載した最新鋭の潜水艦でございます。
平成14年度の防衛省による新型新築電池に関する研究試作開始以来、
各種試験や委託作業を経て、平成27年度艦への採用が決定いたしました。

本年8月のGS湯浅テクノロジー様からのファーストロット入荷と入荷と
9月の本艦への搭載が無事に完了し、本日こうして進水式を迎えるに至りました。

この間の防衛省殿によるきめ細かいご指導とご支援はもとより、
関係された皆様方のご尽力に、この場を借りて敬意と感謝を申し上げます。

今後は再来年3月の引き渡しに向けて、艦内各種の艤装工事、調整試験、
海上試験等に鋭意取り組み、皆様方のご期待にそう立派な艦とすべく、
関係者一同全力を尽くして取り組んで参る所存です。

今後ともご指導ご支援を賜りますようよろしくおねがいたします。

さて、本年は弊社が潜水艦の建造を開始してちょうど100周年の節目に当たります。
少しの間当時の状況に触れさせていただきます。

大正初期、当時海軍殿は世界的な開発競争にあった
潜水艦技術の本格投入を進めておりました。

弊社はそうした国の意向を踏まえ、第一次世界大戦の最中、
英国、他に技術調査団を派遣いたしました。

その際の縁から、英国・ヴィッカーズ社のライセンスを取得し、
大正7年、1918年8月10日、

弊社1番艦、呂号第51潜水艦を起工いたしました。

その後、昭和20年の第二次世界大戦終了までに58隻建造いたしました。

そして戦後間もなく、昭和30年には建造を再開し、今回進水いたしました
「おうりゅう」は28隻目になります。

合わせて96隻でございます。

大正7年の1番艦以降、関西地区を中心とするメーカーの皆様方とともに、
戦前は旧海軍殿、戦後は防衛省殿海上自衛隊殿のご指導を賜りながら、
一貫して国産潜水艦の設計、建造技術の研鑽に努めてまいりました。

関係各位の長年にわたるご尽力により関西地区に現造所を中心とした
現在の強固な生産、製造基盤が出来上がったものと感謝しております。

一方、我が国を取り巻く防衛環境は日増しに厳しさを増しております。
今や、領土の防衛の要として、海上自衛隊殿に対する国民の期待は
ますます大きくなっております。

海上自衛隊殿がその実力を遺憾なく発揮されるためには弊社を始め、
国内防衛商品メーカーが、継続して質の高い製品を作り続けるとともに、
しっかりと運用をサポートしていくことが
これまで以上に重要になってくるとなってくると強く感じております。

現在私どもは本艦に続き、時期新型潜水艦となる
平成29年度潜水艦の建造に取り組むとともに、潜水艦増勢への対応、
将来潜水艦への標準化技術改革等にも鋭意取り組んでおります。
今後とも潜水艦の建造・開発の拠点として拠点として、
ますますお役に立てることを専心努力して参る所存ですので、
末長いご指導を賜りますようよろしくお願い申し上げます。


少し長くなりましたが、ところどころに初めて聞く情報もあったので
省略せず全部掲載させていただきました。

こういう時、製造会社は顧客である防衛省海上自衛隊にはもちろん、
旧海軍にも、ちゃんと「殿」を付けて呼ぶらしいことを知りました。

「世界で初めてリチウムイオン電池を搭載した潜水艦」

というのが「おうりゅう」のキャッチフレーズになるわけですが、
もともとリチウムイオン電池は「そうりゅう」型5番艦の
「ずいりゅう」から搭載される予定だったそうです。

 

リチウム蓄電池は艦の巡航速度を改善し、高速航行可能な時間を増大させ、
さらに従来の鉛蓄電池と比べて、水素ガス発生の危険がなく、
充電時間が短く、放電による電気容量の低下を抑えられるなどいいことずくめ。

弱点があるとしたら、それは一度に取り出せる電流が少ないため、
水中最大速力がわずかに劣ることだそうですが、その代わり、
スターリングAIPシステムと鉛蓄電池の双方を廃止し、

リチウム電池に置き換える方法によって、
より高速での水中持続力等は向上しました。

こんなに優秀なリチウム電池の搭載がなぜこんなに遅くなったかというと、
案の定「ご予算の関係」でした。

 

続いて村川海幕長の挨拶です。

(前略)

「おうりゅう」は「そうりゅう」型潜水艦として初めて
リチウムイオン電池を搭載し、我が国周辺の海上防衛を担うべく、
就役が待ち望まれているところであります。

我が国を取り巻く安全保障環境は依然として厳しい状況にあります。
米朝首脳会談、南北首脳会談を踏まえ、今後も北朝鮮による核ミサイルの
廃棄に向けた具体的な行動をしっかりと見極めていく必要がある一方、
我が国のほぼ全域を射程に収めるノドンミサイルを数百発、
実勢を配備している状況に全く変わりはありません。

また、中国は透明性を欠いたまま継続的に高い水準で国防費を増加させ、
軍事力を広範かつ急速に拡大させ周辺海域等における活動を
拡大、活発化させております。
このような厳しい環境の中にあって、防衛省自衛隊としては
いかなる事態にあっても我が国の平和と独立を守り、
国の安全を保つべく、万全の体制をとる必要があります。

このためには四海に囲まれた我が国にとり、海上防衛力の中核となる
優れた艦を保有することが必要不可欠であります。
またこのように優れた艦を、安定的かつ長期的に整備できるよう、
艦船の建造・修理基盤をしっかり保持することも、極めて重要であります。

我が国の艦船建造技術は国際的にも注目されており、
三菱重工業株式会社殿におかれましても、これ以上に
生産・技術基盤の強化や国際協力に向けて、
さらにその向上を追求していただければ幸いでございます。

乾杯を待つ間、在日米軍の軍人さんの背中に注目してみました。

日米の海軍の白いインディア・ユニフォームは一見同じように見えますが、
米海軍の背中のカッティングは海自と全く違うことが判明。

後ろ型から腰にかけてカーブをつけた裁断をしているので、
肩幅が広く、腰の締まったシルエットになってるんですね。

テーブルの上にさりげなく「三つの菱」が・・・・。

ちなみにこの手前の中華風魚の揚げ物はなかなかいけました。
今回口に入れたのは刺身とこれだけだったので他は知りませんが、
前回の三菱での祝賀会も、食べ物が美味しかった印象があります。

会場の前の方に移動してみました。
なんと、511の艦番号をつけた「おうりゅう」の模型があるではないですか。

潜水艦の形の違いについて全く知識がないので思ったのですが、
これって外側が変わらないうちはずっと使い回ししているのでしょうか。
三菱の倉庫にあって、2年ごとに引っ張り出して番号を書き換えてるとか。

X舵に黄色いシールが貼られているのは「突起物注意」の意味かな?
あと、やっぱりスクリューはないことに?なっているのにちょっとウケました。

左側の潜水艦艦長連は和気藹々で仲間同士実に楽しそうですが、
海幕長は宴会の間中挨拶に来る人に囲まれっぱなしです。

わたしも自衛隊が韓国の観艦式で自衛艦旗を揚げるなと言われた件について
海幕長自ら承服できないという声明を出されたばかりだったので、
ちょっとこの件について伺ってみようかと思ったのですが、
お忙しくてそれどころではない感じだったので遠慮しておきました。

お忙しいといえば執行者の呉地方総監もずっとこんな感じ。
右側でも名刺交換の真っ最中です。

潜水艦の模型の反対側に、将官の帽子台発見。
左前は海幕長と副官の帽子と見た。

そして右側のガラスケースは・・・。

先ほど支鋼切断を行なった斧がガラスケースに納められています。
祝賀会席上、三菱側から切断を行なった海幕長に贈呈されたばかりのものです。

進水斧は必ず命名者にこのように贈呈されるのが慣習ですが、
過去、時の海幕長がこれを行った例は寡聞にして知りません。
村川海将にとってもおそらく初めてもらう斧のはずです。

メア・アイランド造船に行くと、「キール・レイド」の記念として
最初にそれを置いた工具が飾られていることがありますが、
通常進水の支綱切断は鑿と槌が使われ、斧を使うのは日本独特の慣習です。

日本の軍艦の進水式には西洋式の槌とのみではなく、
日本古来の長柄武器である「まさかり」様の器具を支綱切断に用いるべきとして、
銀の斧を使うようになったのは1908年、「利根」の進水式からだそうです。

 

この祝賀会で何人かの方にご挨拶させていただきましたが、
その中には「おうりゅう」の艤装艦長もおられました。

紹介してくださった基地司令が副長の時初めて潜水艦乗組になった新人が、
今潜水艦艦長になる世代となっているのです。

潜水艦の場合、進水式が終わった段階では決まっているのは
艦長以外には経理、補給、機関の三役で、副長すらまだ
影も形もない状態から2年間かけて人集めをしていくのだとか。
しかし、

「人がいないので大変です」

ただでさえ自衛官不足なのに、三自衛隊の中でもキツイといわれている、
海自のその中でもさらに厳しいという潜水艦なので宜なるかなです。
ただ、いったん潜水艦の「一家」になってしまえば、
潜水艦でなくてはダメ、という自衛官も決して少なくはないと聞きます。

また、人員を集めるには他の職種から拉致?してくるということは
普通に行われるそうですが、それは潜水艦に限ったことではないそうです。

ちなみに艦長に、最初から潜水艦を志望していたのかと尋ねると、

「それどころか志望は空自でした」

当時は今より眼鏡をかけていると航空は難しい時代だったので
それで断念したとおっしゃるのですが、

「海自で航空に行こうとは思われなかったんですか」

「戦闘機に乗りたかったんです。トップガン世代ですので」

一度話題になりましたが、トップガンに憧れてパイロットを目指す、
という人って、どうも日本でも結構たくさんいたみたいですね。

会もお開きに近づき、わたしは上座付近で
装備の元海将(退官前、市ヶ谷に職場訪問させていただいた)
とお話をしていると、万歳三唱が始まりました。


従来型でもその技術力で世界に高く評価されてきた日本の潜水艦。
先日、南シナ海で行なった訓練を公表したことについて、メディアは

「中国に対する牽制か?」

などと騒いだのですが、続いての首相声明、

「ここ15年毎年訓練はここでやってきた」

で騒いでいた人たちが色を失った感がありましたね。
これを聞いた中国側は唖然としたかもしれません。
そして、その後何か声明を出すことをしませんでした。
だって何か言えば、15年の間、全く自分たちが海自の訓練に
気づいてなかったってことを表明することになりますからね。


そんな頼もしい海自潜水艦隊に、さらなる新鋭艦が加わった歴史的な瞬間。
新鋭艦「おうりゅう」の誕生に立ち会えたことを光栄に思った命名進水式でした。

 

終わり