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海将を囲む会〜呉地方総監のラストダンス

2018-12-20 | 自衛隊

 大久野島でうさぎに囲まれた翌日、わたしは車を西に約2時間走らせ、
呉市内のホテルで行われた「海将を囲む会」に出席しました。

会場となったのはクレイトンベイホテル 。
この秋の自衛隊記念日で感謝状の授与対象ともなった当ホテルでは
海上自衛隊お膝元のホテルとして、その広報活動に大いに協力しています。

護衛艦「かが」カツカレー(ひじき、黒ごま、大豆使用)

補給艦「とわだ」カレー(りんごピューレ、チーズ入り)

練習艦「かしま」牛タンカレー(セロリ・トマト入り)

などの海自カレーがホテル内の全てのレストランで提供されています。

ところで、この日囲ませていただく予定の海将とは誰かというと、
それはもちろん、会場となったクレイトンベイホテルのロビーラウンジの
提供メニュー、「がんすバーガー」に使われている「愚直たれ」で
就任いらい全軍とその周辺の話題を集めた池太郎海将その人でございました。

実はわたしがこの会に参加したことをご報告するのを控えていたのは、
12月14日、防衛省の人事で池海将が退官されるということが
公的に発表され任期を終えられるのを待っていたからだったのです。



まだ辞令が降りてはいませんでしたが、この「囲む会」は
実質、「呉地方総監の離任・退官を祝う会」という名目で、
ホテルの大宴会場を借り切り、盛大に催されました。

開場時間となり、受付をすませると、自分の割り当てテーブルに案内されます。
テーブルには「とわだ」「かが」「せとゆき」「あぶくま」「しまゆき」
から掃海艇の「ながしま」まで、海自艦艇の名前がついています。
ちなみにわたしは「おおすみ」でした。

ステージ前には、有志一同によって池海将に贈呈する記念の
帽章や肩章、ウィングマークに防衛記念章、そして呉地方隊隷下の
部隊章があしらわれた額縁が飾ってあります。

わたしが見てそれとわかるものは

音楽隊、業務隊、教育隊、造修補給処、衛生隊、
仮屋磁気測定所、由良基地分遣隊、阪神基地隊、
同じく第42掃海隊「つのしま」「なおしま」、
呉水中処分隊、陸警隊、港務隊、
佐伯分遣隊、そして多用途支援艦「げんかい」

皆このプレートに刻まれた

自 平成28年7月4日 至 平成30年12月19日

という日付を眺め、

「やっぱり退官されるんですねえ」

と互いに頷きあっていました。

自衛隊の人事というのは、別の元将官に伺ったことがあるのですが
本人にもどうなるのか大抵直前まで全くわからないものだそうですね。
いきなり退職を勧告されることがあるかと思えば、池海将のように
本人のご意思と予想に反して任期が延びることもあるようです。

それにしても会場となった宴会場の広いことにわたしは驚きました。

「囲む会」というからてっきりこぢんまりと円卓を囲むような
パーティをわたしは予想していたのですが、聞いたところ、
この日の「囲む会」の出席者は全部で500名くらい。

さっきまでわたしが囲まれていた所の大久野島のうさぎより
ちょっぴり少ない数の人数で海将を文字通り囲むことになっていました。
今更ながら池海将のご勇退を惜しむ人々の数の多さと、
それからうかがえるご本人の人望の厚さに感じ入った次第です。

いよいよ開会となりました。
呉地方総監部を代表して、幕僚長の小峯雅登海将補の開会の辞。

最初に挨拶をされたのはご存知衆議院議員寺田稔先生。

通称大和ミュージアム、呉海事歴史科学館の開館に際しては
大変尽力されたということを聞いてから支援しているのですが、
先般ある防衛団体で、寺田議員の憲法改正論をうかがい、
その方向性にわたしの考えとの類似性を見出すとともに、
なんと明晰に物事を分析しそれを自分の言葉で平易に語ることができるのかと、
その弁を裏打ちする学識の豊かさにも感じ入ったものです。

続いて呉市長新原芳明氏。

呉地方隊指揮官として海将が地下司令室の一般公開など、
呉の観光事業にも大きく貢献されたことの感謝を述べつつ、
呉音楽隊定期演奏会で池海将が「恋ダンス」を披露したことを
空気読まずに「ネタバラシ」してしまわれました。

おっと、それは今日のサプライズのはず(笑)

 

挨拶の後歓談となりましたが、この間海将夫妻は海将旗と一緒に
全員と写真を撮って声を交わしてまわります。

とにかくテーブルが沢山あるので終えられるのに莫大な時間がかかりました。

わたしたちのテーブル担当の配膳係の女性は、実に甲斐甲斐しく
料理をお皿に綺麗に盛り付けては持ってきてくれます。

同じテーブルの招待客とは自然と社交が始まり、自衛官を含む
何人かと名刺交換をし、現場のお話として

「今は景気が良いので自衛官の募集には苦労している」

という内情などを聞かせていただきました。
後、中国地方の陸自駐屯地でMCV(装輪装甲車)が配備予定なるも、
それはいつになるかわからない、というお話とか・・・。

その方は司令官クラスなので新制服に身を包んでおられましたが、

「うちは調達がまだ進んでおらず、これを着ているのはわたしだけです」

そういう話になると周りの人が一斉に

「従来の制服の方が・・・・」「わたしは前の制服の方が・・」

と言い出すのはいつもと同じ、もはや様式美とでもいうべき最近の傾向です。

この時にうっかり?このわたしに向かって、

「是非一度基地においでください」

とお誘いしてしまわれた基地司令官がおられました。 ̄ー ̄)☆キラリ
ふっふっふ、わたしにその言葉を放ったが最後、
万難を排しても行ってしまいますよ?

海将夫妻が全てのテーブルを回り終え、しばしの歓談後、
ついに本日の「囲む会」のメインイベントが始まりました。

知っている人は皆知っている、今年2月の呉音楽隊演奏会における
呉地方総監自らがステージに立ち踊った35秒の奇跡。
海将池太郎より皆様への総監として最後のプレゼンツ、「恋」ダンスです。

ところでその様子をお伝えする前に、こちらをご覧ください。

職場の上に立つ「名物ボス」を紹介したテレビ番組、
「Dear ボス」をご覧になった方はおられますでしょうか。

芸人さん二人が呉地方隊に潜入し、総監にインタビュー、
ついでに「海上自衛隊ではこんな仕事をしている」と紹介するため
体験取材としてダメコンまでやってしまう、というものです。

ちなみにうちにはテレビがないため、これを見るため都内のホテルに一泊しました。
(ただし翌日早朝、近くで用事があり、かつホテルはサービスチケット使用)

その後編で、池総監が官舎に部下を呼び手料理を振る舞うシーンがあります。
なんと官舎では「池や」ののれん、オリジナルはっぴ着用の総監がお出迎え。

背中に書かれたモットーは「諦めず、侮らず、欺かず」の
「三つのあ」をもじって

閉店まで諦めず、注文を侮らず、隊員を欺かず。

総監自らが工夫を凝らした天ぷらと唐揚げの並ぶ豪快な食卓。
たれには焼酎を混ぜるという工夫の天ぷらは、池海将がイギリス王立国防大学に
留学中、日本文化を知ってもらうために披露したのが最初だったとか。

エビ天も整列休め状態に真っ直ぐな姿勢で揚がっています。

その時お呼ばれしていた隊員さんが池総監の「恋ダンス」のことを
暴露したのがきっかけで、全国ネットでダンスを披露することに。

自分でも口ずさみながら踊る総監ですが・・・・・

2月から時間が経ち忘れてしまったのか途中でブレイクダウン。

納得いかないのでもう一度最初からやり直し。

そうなんですよねー。天ぷらの工夫にもそれを感じます。
何しろ愚直たれがモットーの方ですから。

しかし二度目もあえなく失敗・・・。

しかし、この大舞台で総監として最後のステージに立つことになり、
ストイックな池海将がその後どれだけ血の滲むような練習をされたか、
想像に余りあります。

パートナーを務めるのは、呉音楽隊の同じメンバー。
右から2番目は呉音楽隊きっての踊り手で、きっと総監は
この隊員からビシバシ厳しい指導を受けたのではないでしょうか。

呉音楽隊の演奏会でもそうでしたが、あえてサプライズのため、
ヒーローの登場は途中から。

出てきた池総監を見て皆が軽くどよめいたのは、総監が
おそらくこの場にいるほとんどが初めて見るフライトスーツ姿だったからです。

P3-Cパイロットである海将のフライトスーツ姿、わたしも初めてです。
海将補時代に年次飛行で飛ぶこともがあると伺ったことはありますが、
流石に呉地方総監になってからは飛行機を操縦することはなかったはず。

(奥様が『もう周りも飛んでもらっては困りますよね』とおっしゃっていたので
そう解釈したのですが違っていたらすみません)

しかしフライトスーツの肩にはちゃんと三つ桜の階級章が、
左胸のネームタグには燦然とウィングマーク、その下には

「T. IKE  PILOT JAPAN NAVY

の文字があるではないですか。

ところで今気づいたんですが、池さんの名前って、英語読みでは
「アイク」(アイゼンハワーの愛称)となります。

さらに見ると、靴は流石にピカピカの普通のものですが、手袋は
布手袋ではなく、皮のフライト用をつけておられます。

細かいところまでこだわりますなあ。

「Dear ボス」ではここまでは順調だったのですが、確か
このあたりで二回とも失敗してしまったんですよね。

さて今回は?

お?おお?

おっとお、難なくクリア!
やりましたね。

ここさえ突破すればあとは勢いで行ってしまいましょう。

しかしわずか35秒のダンスが見ていてどれだけ長く感じたことか。

テレビ番組でもそうでしたが、こういうことをしていても
愚直に完璧を目指そうとしている様子が全身から溢れ出てます。

全然おふざけに見えないんですよね。

これぞまさに愚直たれの真髄。生ける愚直たれ、いや踊る愚直たれ。

無事に恋ダンスが終わり、共に踊った隊員たちからも拍手を受けますが、
池海将、もうすでに次の行動を考えているのがお分りいただけますか。

それは何か。
自分をステージに乗せて踊りを伝授し、一緒に汗をかいてくれた
部下に対し、厚い感謝とともにその労をねぎらうことです。

真っ先にダンスリーダー(かどうか知りませんが)に振り向き握手。

女性隊員は両手でそれに答えます。

三人全員にあまりある熱い気持ちを込めて全身全霊お礼を言う総監でした。


海将を囲む会、この後は池総監のこれまでの歩みが紹介されました。

続く。