ジョン・ウェインのある意味国策映画、「グリーンベレー」最終回です。
さて、カービーは上官のモーガン大佐(ブルース・キャボット)と
ARVNのカウンターパートであるカイ大佐(ジャック・スー)と会い、
彼らが計画する極秘の任務について説明を受けました。
その計画というのは、現在北ベトナムにいるPha Son Ti 将軍という、
ベトコンと北ベトナムの総司令官を誘拐するというものでした。
ベトコンのリーダーである将軍を確保することによって、
南ベトナムに有利な条件で終戦交渉を行うことが目的だというんですが、
計画もお粗末なら、そんなことで終戦交渉に持っていけると思うなら考えが甘すぎ。
しかも、ティ将軍は過去一度逮捕したものの、政府に圧力をかけられて
逃げられてしまっているっていうんですが、じゃ今度は政府の圧力はどうするつもり?
だいたい、一度そんな目に遭ったら向こうも厳重に警戒しているでしょう。
そこで女ですよ(笑)
トップモデルであるこの美女を使ってハニトラを仕掛けようというわけです。
ハニーの名前はリン(アイリーン・ツー)。
父親があまりにおめでたすぎて弟共々殺されてしまったので(本人談)
復讐を果たすため計画に協力する、といいます。
彼女と街角のカフェで目を合わせずに会話したあと、カービーがカイ大佐に
「信用できるのか?」
「もちろん。彼女は俺の弟の妻だ」
つまり親族ってことですが、それをハニトラ要員に差し出すか。
だいいち弟の了解は得たのか?
彼女とティ将軍とは幼なじみで、お互いまんざら知らない仲ではなく、
さらに将軍は彼女にご執心なので、北ベトナムの奥深くにある
フレンチコロニアル様式のティ将軍邸宅に入り込み、
油断して無防備になった瞬間を精鋭部隊が急襲する作戦だというのですが。
精鋭部隊は、このティ将軍一人を捕まえるために、空挺降下による敵地侵入を試みます。
わたしはこういう作戦についてどうこう言えるほどの軍事知識はありませんが、
それでもここで空挺降下を行うというのは、ちょっと違うような気がします。
費用対効果の面で言うとちょっと大げさすぎやしませんかね。
しかもハニトラ現場ですぜ。
ここで「ジャンプマスター」(陸自でどう言うのかは知りません)である
カービー大佐は、降下を指示するわけですが、まず、
「ポートサイド(左列)立て!スターボードサイド(右)立て!」
といい、
「フックアップ!」(フック掛け)
「ドアの前へ!」
「ゴー!」
で降下が始まっています。
おっと、カービー大佐、各々の装具を点検する指令を行なっておりません。
久しぶりなので忘れてしまったのかもしれません。
「ジャンプマスターに突き落とされるまで降下できない」
と噂のあったピーターソンですが、大佐が案ずるまでもなく、
意を決した様子で自発的に降下を行いました。
降下してしまえば邪魔なだけの落下傘などは埋めてしまいます。
ただし、流石の金持ちアメリカ軍もあとで回収するつもりらしく、
捻挫した兵を荷物番に一人残して行きました。
ポイントマン(先遣兵)という言葉も、「ベトナム戦争シリーズ」で知ったばかりです。
そのポイントマンとして本隊より少し先に出発した(一人で)コワルスキですが、
地元敵民兵と格闘になりました。
一人目を倒し、二人目を枯れ枝に百舌の速贄のように突き刺したとき、
3人目に後ろから襲われて・・・・。
ところでどうでもいいんですが、この時の上海雑技団みたいなBGMはいかがなものか。
「ブルドッグ!・・・ブルドッグ!」
とカービー大佐のコードネームを呼びながら息絶えました(´;ω;`)
カービー様ご一行はその後橋を渡ってコロニアル風邸宅の近くに到着。
警備が厳重なはずなのに、易々と近くに忍びこめてしまう不思議。
ティ将軍はリン嬢をエスコートし、捧げ銃衛兵の間を邸宅に入って行きます。
こういうとき(女性を連れ込むとき)に軍隊は捧げ銃はしないんじゃないかな。
しらんけど。
一行はあまりにも簡単に邸宅の歩哨をやっつけてしまいました。
ARVINの兵士が弓矢で木の上の見張りを静かに抹殺し、
誰にも気づかれることなく将軍の寝室に近づいていきます。
さて、こちらハニトラ要員のリン、今まさにお仕事に取り掛かるところ。
意中の女性を前に、ティ将軍、すっかり舞い上がっております。
しかし、ベトコンのリーダーで将軍にしては若すぎない?
ワインを女性に勧めるムード派の将軍ですが、リンは「後で」と断り、
手っ取り早くターゲットを無防備な状態にしてしまうために
とっとと電気を消し、サクサクと服を脱いでいくのでした。
そしてこんな時に限って家の中には見張りがおらず、
兵隊たちは控え室で全員トランプして遊んでおります。
半開きのそのドアの前を一行は通り過ぎ、階段を登って寝室まで難なく侵入。
音ひとつさせずに鍵をベテランの泥棒のように解除し、
ベッドまで匍匐前進で近づいていってターゲットをあっさり確保します。
そこではっ!と見つめ合うリンとカイ大佐。
そうそう、この二人そういえば義理の兄妹の関係なんでしたっけ。
どちらにとってもカナーリ気まずい瞬間かもしれません。
カイ大佐はなぜか左手に持っている黒い服を投げつけるのですが、
仮にもハニトラ要員としてご協力いただいた相手に、なんなんだその態度は。
もう少し労るべきじゃないのか?え?
とにかくこれでターゲットは確保しました。
半裸の間抜けな男を眠らせて、コロニアル風の二階からリペリングで運び出し、
(さすがは空挺隊ですね)車のトランクに詰め込んで脱出。
こちらはマルドゥーン率いる別働隊。
前夜から橋を爆破するために爆薬を仕掛けて待っていました。
検問所を簡単に突破し、爆発させた後、橋の爆破にも成功。
やったぜはっはっは、とふりむいてみたら、一緒にバイクに乗っていた
医療担当のマギー曹長が銃弾を受けていました。
さて、こちらは将軍誘拐グループ。
トランクから引き摺り出したティ将軍に赤いフライトスーツ?を着せて、
何をするのでしょうか。
日の丸?
じゃないよね。
目立つように赤をあしらった曳航用のバルーンを用意し、
まず、こちらをヘリウムガスで空に飛ばします。
あらかじめロープの先にティ将軍を結んでおきます。
バルーンを飛ばしますと、ティー将軍も一緒に空に飛んでいきます。
そこに飛行機がやってきて、ロープを引っ掛けて運んでいけば完成です。
なーるほど!うまいこと考えたね。
と言いたいところですが、これ、ひっかけると同時に風船は切れてしまっており、
どうやってティ将軍を中に収容するつもりなのか謎。
目的地まで人間一人翼に引っ掛けたまま運んでいけるとも思えないし、
よしんば奇跡的に目的地まで行けたとしても、着陸すると同時に地面に激突:(;゙゚'ω゚'):
まあそんなことはどうでもよろしい。よろしくないけど。
ハニトラ成功の功労者なのに、誰も労るどころか声もかけないので、
まるで罪人のように黒い服を着てションボリしているリンさん。
見かねてカービー大佐がカイ大佐に声をかけます。
「彼女は君の義妹なんだろう」
「そうだ」
「彼女の将来も、自尊心も・・君の手の中にあるようなものなんだ」
「そんなことは・・・」
言いかけたカイですが、思い直して
「ありがとうマイク」
そして、
「リン・・・君は勇気のある女性だ」
するとリンは気怠げに
「いいえ、ただ、一族が許してくれるように祈っている女がいるだけよ」
つまりカイ大佐の一族ということでしょうか。
いったい彼女が夫の親族に何を謝るというのでしょうか。
ハニトラ要員になったことかな?
それなら謝るべきはそれを命じたカイ大佐で、謝る相手はむしろリンと弟なのでは?
しかし、そういった反省は一切ないまま、カイ大佐は上から目線で
「許すことなど何もないよ」
許されたと思ったリンは義兄の腕に飛び込み、嗚咽するのでした。
そしてこの映画、最後に衝撃シーンが待ち受けております。(ネタバレ注意)
作戦を成功させ、いざ帰還のヘリとの合流地点に近づいてきたというとき、
たまたま、ほんのたまたま一番先頭をあるいていたピーターソンが
パンジスティックの罠に足を取られてしまったのでした。
「わあああああ!」
((((;゚Д゚)))))))
流石にそれを見て叫び声をあげたのは女性のリンだけです。
直後にカービーは「動け!」と命令を下し、ピーターソンの荷物を拾い上げて
最後に罠にかかった(多分だけどまだ生きてる)ピーターソンを一瞥します。
次の瞬間、場面はダナンの飛行場です。
帰還するヘリを迎えるために、新聞記者のベックワースと、
ベトナム人の孤児ハムチャックが駆けつけてきていました。
少年のお目当てはもちろん彼の友だち、ピーターソンです。
兵士が行進して行きます。
彼らはこれから前線に向かうのです。
ベックワースは少年を見送っていましたが、くるりと向きを変え、
兵士たちと一緒に歩いて行きました。
ODカラーの陸軍の制服を着て。
「成功したな」
「ああ、しかし高くついた」(犠牲は大きかった)
そう司令官と話すカービーの後ろでは、少年が
「ピーターソン!」「ピーターソンいる?」
とヘリを覗き込んでは聞いています。
後ろのヘリからは負傷したマギーが運び出されました。
ヘリパイに「もう誰も乗っていないよ」と言われ、
半泣きで全部のヘリの中を覗き込む少年。
「ピーターソン!」
「ノー!ノー!」
周りから子供のケアを頼まれてしまったカービー大佐、
水平線を眺めている彼に近づいていって声をかけました。
「ハムチャック、戦争だから仕方ない」
「でも、そうなって欲しくなかった」
「誰もそうなってほしい人なんていない」
子供は涙でびしょびしょになった顔をふり仰ぎ、
「僕のピーターソンは勇敢だった?」
子供と話すときは同じ目線でね。
「とっても勇敢だった・・・君もそうなれるか?」
「なれるかな」
「なれるさ」
そう言ってカービーはピーターソンのグリーンベレー を子供にかぶせてやり、
「”君の”ピーターソンは、君に持っていてほしいと思うだろう」
うーんそうかな?
ピーターソンの遺族はそう思わないと思うけど。
映画で戦死者の遺品を遺族に返さず勝手に人にあげてしまう人多すぎ。
(例;『怒りの海』の海軍少佐)
そして、君もグリーンベレーだ、と決め台詞を吐いて、
実際はダナンからは地理上決して見ることのできないはずの
水平線に沈む夕日を見ながら、手を繋いで歩いていくのでした。
これはあれか?東に沈んでるのか?
それから、おーいカービー大佐、子供をどこに拉致するつもりだー!
というわけで、映画は終結するわけですが、この映画は一言で言って、
ジョン・ウェインの単純な正義対悪の戦いをベトナム戦争に当て嵌め、
まるで西部劇のような構図で表している・・「ベトナムウェスタン」だと思います。
南ベトナムはアメリカが共産主義から守るために庇護すべき存在で、
共産主義とはつまり絶対悪であるから当然こちらは「悪玉」という位置づけ。
「庇護すべき存在」を象徴するのが、このハムチャックという子供であり、
間接的にではありますが、リンという女性だったりするわけです。
もちろん現実のベトナム戦争はそんな善悪説でカバーできるほど、
単純なものではなかったことは歴史が証明しています。
往年の名スターがメガホンをとって何がなんでも作りたかった映画。
本作は興行的には大成功で、ウェイン自身の作品では最大となる、
2千177万と27ドル(端数がリアル)の興行収入を記録しました。
これは、ウェインが政治家ではなく映画人であったことを考えれば、
彼の圧倒的な「勝ち」であり、かつ「成功」であったということでもあります。
彼自身は、否定的な「左翼の」非難がおそらくこの興行成績に役立った、
と豪語し、さらに批評家は作品そのものではなく戦争自体を攻撃していると述べました。
この映画が国民のベトナム戦争への理解を深めたかというと、おそらく、
全く意味がなかったと思われますが、純粋にエンターテイメントとして見た場合、
例の西部劇、活劇としての要素を持つ本作品が面白かったのは事実です。
ウェインはベトナム兵役を逃れるために国外脱出をしたティーンエイジャーを、
「臆病者」「裏切り者」「共産主義者」と非難しましたが、ところがどっこい、
そのウェイン自身は第二次世界大戦には参加していません。
そのこともあってか、ベトナムに出征している多くの兵士は、
この映画に対し、非常な不快感を示したと言われてます。
この映画が制作され始めた1967年当時、ジョン・ウェインは
ベトナム戦争に勝つことができると本気で信じていました。
グリーンベレーに勝手に認定した子供の手を引いて、
南ベトナムには存在していない海岸線を、
彼はどこまで歩いていくつもりだったのでしょうか。
終わり