風の生まれる場所

海藍のような言ノ葉の世界

空や雲や海や星や月や風との語らいを
言葉へ置き換えていけたら・・・

いのちの初夜

2007年09月12日 09時23分41秒 | 医療








俺は俺の苦痛を信じる。

如何なる論理も思想も信じるに足りぬ。

ただこの苦痛のみが人間を再建するのだ。


柳田邦男著書「人生の答」の出し方、北条民雄メモより




 

 


大切なことを伝える機会の恩恵を決して無駄にはしたくない。

逆境こそが密度の濃さを生み、

「死」を目前にするからこそ、「生」に緊迫感を与えるのではないだろうか。







上記、著書の中にはこんな一文がある。

「自らは死にゆくのに

他者の生を支えることすらする病者・死者の言葉の力について」

私はこの言葉を拝読したとき、

一石を投じるのはあなたにしかできない、と

すこし困惑した表情を浮かべながらもそれを言葉にかえる

ケースワーカーの姿が思い出される。

病者へ健者が無理を強いることは、決して稀なことではなく、

病院という組織の事情や自身の保身のために、

病者にとってはより過酷であると思われる事態に

おそらく私は相当経験を持ってきたためだ。








私はこの苦痛があることによって、

「書く」という作業にも変化が生まれた。

軽いこと、心には残らないけれど笑える類の文章は苦手とするものの、

違う分野のことでなら「書く」ことが可能ではないかとの自信の芽生え。








誰かが、人生が、幸せをもたらしてくれるなど甘い考えはなく、

また、誰かが、人生が不幸を運んでくるなどとの悲観もない。

自分という人生を完結させるために描く章は自らにしかできず、

また、そうした姿から人はきっと影響を受けて成長していくはずだ。








おそらく、通常に生きている人ですら一度や二度、

死を考えたことがあるだろう。

混沌とはそういった世界であり、

私たち病者はそれと毎日膝を突き合わせている。








いのちの初夜によって人は生まれ変わる。

人は言葉なしでは生きられず、

また、言葉によって救われることもあるのだ。