昨日はごめんね、と娘が言うので、
なんで謝るの?と私は聞いた。
すると、だって、まいちゃん(私)が帰ってくるまで待てなくて、
いつの間にか寝ちゃっていたからさ。
それを娘は殺人的な眠さの襲来と名付けて、ひとりでニタニタと笑っていた。
男友達を呼び出して、青山で泣いてたの・・・・と言うと、
よく泣くねぇ~、今度は何があったの?と
聞き役に徹する姿勢をわかりやすくみせる。
ダイニングのテーブルに肘を付き、お茶を啜る。
それで?と言った表情を浮かべて、私の言葉をただ待ちわびる娘。
もうね、妊娠も出産もできないって言われると、
正直、それが薄々分かってはいたもののショックでね・・・・・と言うと、
いるじゃん、妊娠したじゃん、産んだじゃん、育てたじゃん、とまくし立て
まだ産むつもりだったの? と少し呆れた表情を見せながら、
私にもあと少しで手がかからなくなるんだから、
わずか21歳で頑張ってひとりで産む決心をして、闘ってきて、傷ついて、
お父さんは妊娠中に亡くなったと嘘までついて世の中を渡ってきたのだから、
もう、そんなに頑張ることはないよ、と娘に悟れてしまったのだ。
十分頑張ってきたのだから、もういいよ、と言って、
ほら、お茶でも飲んで、水分補給をして、
それでもダメならニューヨークへ行って来い。
お金は出せないけど、気晴らしになるよ、きっと。
あっ、バイト代があるから、それを使ってもいいよ、
出世払いということでの貸しね!
なんでお前は私の上をいつもいくのだ?
まだ、17歳だろう?
外見はちょっとおしゃれな女子高生そのものだろう?
胎児のときの記憶を再現するように、なぜ、私の過去を未来を
見据えるようなことばかり言って、私の荷を下ろすことだけに躍起になるのだ?
私は生まれた瞬間から、彼女には勝てなかった。
彼女に出会うために未婚の母になり、
彼女から多くのものを学ばせてもらい、
その都度、彼女の態度や言動から、
勇気やご縁や必然を感じる出来事を積み重ねてきたことが、
世間でいう子育てになっている。
お前さんはおばけか? と聞くと、まあね、と娘。
青山は泣く場所ではないし、男友達もそれは災難だったね、と言われ、
しまだのカレーうどんを食べたり、お茶のはしごをする場所であって、
あそこで泣いちゃいかんよ、女の株が落ちたね、と頭を2回叩かれた。
この17歳の腹の据わり方は尋常ではなく、
彼女は私とは違い、平穏な人生を歩むのだろう。
そしてまた何かあると私は彼女を必要として、叱咤され、諭され、
頭を小突かれたり、寝起きを襲われたりしながら、
そこに娘の彼氏やお母さんまで入り組んできて、
彼女の生き方を通して大切なものの教授に今後も時間を費やすのだろう。
一緒に悲しむとか、涙するとか、心配するとかないの?
一緒に落ち込んでいたら家の中が暗くなる。
私は元気だし、幸せだし、青春を謳歌しているし、自立しているし、
そんなに欲張りだったとは思わなかったと言われ、
バイトだから後はよろしく。
泣くんじゃないぞ!と17歳に言われ、また2回頭を小突かれ、
なんで2回なの? と聞くと、その調子、意識を別のものにシフトする!
私にはやっぱり彼女には敵わない。
だから、私を選んで、この境遇でも生まれてきてくれたのだ。